ミレニアル世代の性

ミレニアル世代の性のリアル 生涯セックスをしない人が増えている

ここ20年で、異性とのセックス未経験のミレニアル世代の男女が増えている――。30代の10%強が異性と性交渉をしたことがない一方、その多くが現状を望んでいないのではないかということが、東京大学大学院医学系研究科の調査でわかりました。

●ミレニアル世代の性

30代の童貞処女率は10%

25歳~29歳 約20%
30歳~34歳 約12%
35歳~39歳 約9%

この数値は、年齢別に見た異性間のセックス未経験者数です。「日本成人における異性間性交渉未経験の割合の推移について 出生動向基本調査の分析, 1987 – 2015 年」の調査で明らかになりました。

この調査の責任者である東京大学大学院医学系研究科の客員研究員の上田ピーターさんは「日本人の30代の約10%がセックスをしたことがないというデータが出てきた時、これが本当に正しいのか疑ってしまいました」と言います。

「でも、厚生労働省の人や日本人の知人もこの結果に驚いた様子はなかったので間違ってないのだろうと思うようになりました」

ここで強調すべき点は、「異性間」のセックスであるということ。同性間のセックスは含まれていないため、限定をしなければセックス未経験者数の割合はもう少し下がるのではとピーターさんは予測します。

「それでも30代で未経験者数が約10%というのは多く感じました。他のアジア諸国のデータはないのですが、イギリス、アメリカ、オーストラリアでの統計では、30代の異性間性交渉未経験者は1~2%です。日本は多くても3%ほどだと思っていました」

30代の異性間性交渉未経験者は男女共に約1割いるという結果に。(「日本成人における異性間性交渉未経験の割合の推移について 出生動向基本調査の分析, 1987 – 2015 年」より)

欧米メディアの報道に疑問

ピーターさんが、この調査をしようと思った一つのきっかけは、欧米の大手メディアの報道でした。「日本のミレニアル世代の約半分が童貞・処女」という内容の記事や、その理由がアニメなどのオタク文化が影響しているという分析を見た時、何かの間違いか、憶測が混ざっているのだろうと思ったと振り返ります。

上田ピーターさん。1985年スウェーデン生まれ。カロリンスカ研究所医学部臨床疫学部門の医師。現在、東京大学大学院医学系研究科の客員研究員として、スウェーデンと日本を行き来している。

元々、結婚や婚活市場のデータに関心があったピーターさんは興味を持ち、同大学院の研究テーマとしてグループで異性間性交渉未経験者のリサーチを始めました。

ピーターさんらは出生動向基本調査(厚生労働省)と国勢調査(総務省)のデータを使用。細かい設定を組んで調査をしたところ、前述の結果になりました。欧米メディアが出した数値の根拠についてこう分析します。

「出生動向基本調査は、既婚者と未婚者で分けて結婚観などのデータを出しています。おそらく、欧米メディアは未婚者のみのデータを元にして異性間性交渉未経験者数を出したのではないでしょうか」

実際の数値と違う報道をしたメディアに、苦情を言う準備をしているピーターさんですが、「想定より実数値が高かったので、反撃のパンチ力は弱くなってしまいました」と困った様子でした。

CNNの記事https://edition.cnn.com/2016/09/20/asia/japanese-millennials-virgins/index.html

セックス未経験者の8割が結婚を希望

人間の三大欲求の一つである性欲。一方で、世の中にはセックスへの関心や欲求が低いエイセクシャル(asexual)の人もいます。ピーターさんは「セックスが必要だったらしたらいいし、不必要であると思ったらそれはそれでいいと思う。性生活の必要性は個人で決めるしかないと思います」と話します。

「性経験がないことが本人の意志だったら問題視する必要はないことは強調しておきたいですね。もちろん、少子化が問題だとすれば問題だと思うのですが」

ただ、今回の調査ではセックス経験のない25歳から39歳の人の8割が結婚を望んでいるという結果が出ました。そうなると、現状は本人が望んだ結果ではないということになります。

ここ20年でセックス未経験者数が増えていることについて、80年代や90年代前半は今より結婚に対するプレッシャーがあったのではとピーターさんは仮説を立てます。

「以前は恋愛に積極的じゃなくても周りがプッシュしてお見合いすることもあったと思います。今は結婚したくなかったらしなくてもOKとみなされている風潮なので、相手がいなくても生きやすくなっているのかもしれません。また、恋愛市場や結婚市場で相手を見つけるのを自己責任として求められ、結果として未経験者が増えているのではないでしょうか」

(後編に続く)

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。