企業研修で「大人の性教育」。ミレニアル世代の人生設計に必要なことは

平日夜7時半。ITベンチャー企業のキュービック(東京・新宿)の社内で、「大人の性教育」のセミナーが初めて開かれました。20~30代の仕事終わりの社員15人が参加。男性7人、女性8人と、男女比は半々です。キャリアとライフ、両方のプランを立てる上で欠かせないのは、「性」について考えることでした。

将来の子育て世代に役立つ情報を

BGMがかかり、テーブルにはお菓子。オフィスビルの一角にあるオシャレなセミナールームに、午後7時半前に若手社員たちが集まってきました。

ここは2006年に創業されたIT系ベンチャー企業・キュービック。社員の平均年齢は29.9歳と、若手が多いのが特徴です。これまでもセキュリティ対策やハラスメント対策など社会人の基礎知識を身につける研修や、産業医による健康セミナー、他社と合同のUXデザイン勉強会など、様々な分野で社員に学びの場を提供してきました。

2月にキュービックで開催されたセミナー「大人の性教育 〜カラダとキャリアとライフを考えよう〜」

そんなキュービックが2月に初めての試みたのが、「大人の性教育 〜カラダとキャリアとライフを考えよう〜」。そう、20歳を超える大人の社員たちに、なんと会社側が「性教育」を提供しようというのです。同社の人材開発を担当するピープルエクスペリエンスオフィスの平山直子さんは、開催の理由をこう説明します。

「インターンを含めると従業員の平均年齢は25歳です。今後増えていくであろう子育て世代に対して有益な情報を提供することで、より良いキャリア形成やライフプランニングを支援できればという思いがあります」

講師を務めたヘルスアンドライツ代表の吉川雄司さん

「子どもが欲しい」と思ったときのために

「大人の性教育」の講師を務めたのは株式会社ヘルスアンドライツ代表の吉川雄司さん。少子化が進む日本の現状を変えようと、SNSで性の知識や不妊治療についての情報発信や、セミナーを行っています。

セミナーの冒頭、吉川さんはこう語りました。

「今日のゴールは二つ。一つは、『大人の性教育』を学び、人間の生殖機能を理解すること。もう一つは、子どもをつくる方法と障壁を理解した上で、ライフプラン年表を書いてみる、ということです」

20代は仕事や遊びに没頭し、「結婚や出産は二の次」と考える人は少なからずいるでしょう。でも、いざ結婚して子どもが欲しいと思ったとき、自分やパートナーの生殖機能に問題があることも十分に考えられます。子どもが欲しいのにさずからない。そんな思いをする可能性を少しでも減らすためには、若いうちからキャリアとライフの両面で人生プランを考えておくことが必要です。

参加者たちは用意された表に、それぞれのライフプランを記入していきます。結婚、出産をするとしたら、時期はいつなのか。転職や、両親の介護をする可能性は。様々な項目について、具体的に将来をイメージします。

その後、吉川さんは妊娠や出産についての基礎的な知識を講義しました。まずは、卵子と精子にまつわる内容をクイズ形式で出題。パワーポイントに映し出された「300000」と「1000」という数が何を表しているかを参加者に問いかけます。正解者はいなかったのですが、吉川さんが答えを明かすと会場がどよめきました。

「個人差はありますが、女性が初潮を迎えたときに体内に保有している卵子の数は約30万個で、そこから若い女性だと毎月約数百個から1000個ずつ卵子を失っていきます」

吉川さんはその後、卵子や精子の機能、年齢と妊娠率の関係など、様々なテーマについて説明していきました。会場からは「(精子は熱に弱いという講義を受け)40℃以上の熱が出た場合、精子は死んでしまうのですか」、「妊活や不妊治療と仕事を両立している人は、職場に公言しているケースが多いのでしょうか」など、身近な問題に結びつけた意見や質問が飛び交い、終始和やかな雰囲気の中で時間が進みました。

結婚や出産の時期をイメージする「ライフプラン年表」を参加者それぞれが記入した

講義の合間には実際に妊活に役立つツールとして、リクルートライフスタイルが提供する精子チェックキット「Seem」や、武田コンシューマーヘルスケアが提供する排卵日予測検査薬「ハイテスターH」の紹介もありました。Seemはスマートフォンを使って精子の濃度や運動率などを調べることができ、ハイテスターHは尿をかけるだけで排卵日を約1日前に予測できる検査薬です。

セミナー中、会場からは積極的に質問が飛び交っていた

夫婦で参加「子どもはすぐにできると思っていた」

参加者の中で、夫婦で参加したのがAさん(27)とBさん(28)。示し合わせて参加したのではなく、お互い会場に来てばったり合ったと言います。

2人が結婚したのは昨年5月。Aさんは「29歳で子どもを産むことを決めていました。それもあり、興味をもって参加をしました」と言いますが、セミナーを受けた結果、知らない情報が多かったと振り返ります。

「学校の性教育では避妊のことは教わったので知っていましたが、どうやって妊娠するかは詳しくわかっていませんでした。もっと簡単に妊娠すると思っていたので29歳までまだまだ猶予があると思っていましたが、今から動き始めないといけないと感じました」

夫のBさんも、セミナーによって考え方を変えられたと語ります。

「これまで夫婦で家を買うかどうかなどの話はしても、子どもについては話していませんした。子どもはすぐにできると思っていたのですが、今年から計画的に考えていきたいです」

セミナー後、パートナーと将来について話したという参加者も

セミナーが終了したのは午後9時半。その他の参加者からは、「健康や性にまつわる知識をたくさん吸収した一日だった」、「妊活にしても不妊治療にしても、まずは『そういう事情を抱えている人が身近にいるかもしれない』と認識することが大切だと感じた」などの感想の声があがりました。

取材を終えて、今回の「大人の性教育」セミナーのように、企業が社員のキャリアだけでなくライフプランの形成まで支援する試みは貴重なものだと感じました。人手不足の中、個人の「生き方」までサポートしてくれる企業が働く若者たちの支持を集めていくのではないでしょうか。

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。