定時で帰るわたし

「18時半帰宅」でも業績好調。生活を力に変えるクロワッサン編集長の仕事術

女性誌の編集部といえば、激務で長時間労働というイメージをお持ちの方も多いのでは。ところが昨年、創刊40周年を迎えた雑誌『クロワッサン』(マガジンハウス)の郡司麻里子編集長は、ほぼ毎日18時半に帰宅しながら、売れ行きは昨秋の就任以来右肩上がりだそうです。いったい、どんな「働き方」でそんな“離れ業”を実現しているのか。telling,の中釜由起子・創刊編集長が聞きました。

●定時で帰るわたし

――郡司さんは小学2年生の双子のお子さんの子育てをしながら働いていらして、夕方は17時半には仕事を切り上げ、18時半には帰宅なさるそうですね。日々の業務は、それで回せるのですか。

郡司麻里子(以下、郡司): はい、日々ギリギリですが、何とか……。クロワッサンは元から朝型で、夜は早く終わる編集部でした。そこに輪をかけて、最近は子育て中の部員が増えたので、みんな17時くらいにはさーっと、いなくなります(笑)。校了日前には夜10時くらいまで残れる体制を組んでいますが、それ以外の日はメインの打ち合わせを昼に集中させて早く帰る。メリハリのある働き方を心がけています。

ただ、それで仕事がすべて終わるわけではありません。私の場合、効率的に働くためにまずは仕事の仕分けをしました。「人と話す作業」や「伝票の処理」など会社でしかできないことなのか、「誌面の構成を考える」とか「ちょっとした原稿を書く」など、一人で集中したてやるものなのか。一人のほうがはかどる作業は夜、家でするようにしています。

――会社での仕事を早く終わらせるために、どんなことに気をつけていますか。

郡司: 帰宅する時間から逆算して時間配分も考えています。編集部では会議の回数を極力減らして個々のチームに任せるようにしていますし、メールのCC欄の相手もあまり増やさない。シンプルなコミュニケーションを心がけています。

自分の決断のスピードも速くなったと感じます。たとえば、部員から上がってくるタイトル案やデザイン案には、なるべくその場で結論を出します。一晩寝かせて考えても、意外と答えは変わらなかったりしますからね。過去、なかなか答えを出してくれない上司にやきもきした経験もありますから、そこは気をつけようと思っています。

――皆さんテキパキ働いているイメージですが、その一方で、雑談も大事になさっているそうですね。

郡司: はい。部員に読者層と同じ40~50代の女性が多いこともあって、雑談から企画が生まれることも多いんですよ。先日も、ある取材先のスタイリストさんが「この家電が欲しい」と言っていた、という雑談を編集部でしていたら、偶然、その家電とのタイアップページが決まって、そのスタイリストさんに出演していただいたこともありました。

――スピーディに仕事をするために、何か使っているツールはありますか。

郡司: スマホの付箋アプリとメモアプリの2種類を、用途によって使い分けています。自分でもかなりのメモ魔だと思います(笑)。

緊急性の高い用事のためによく使うのは、TouchMemoという付箋アプリ。あのタイトル案に返事をしなきゃとか、翌日の手土産を買うことなど、やるべきことを思いついたらすぐに付箋にメモするようにしています。そうしないと忘れてしまうんですよね。

――分かります。やることが増えてくると、つい何かを忘れてしまいますよね。

郡司: 案件を寝かせると忘れるので、とにかく自分の手元に貯めず、どんどんさばいていくようにしています。メモをいかに消化していくかが仕事みたいな感覚もありますね。

それに加えて、より緊急性が低い、日常で思いついた「アイディアの種」はメモアプリに書き込んでおきます。テレビを見ていて「あ、この料理人さんに今度取材してみよう」とか、「この人はこんなことが得意だと言っていたな」、とか。こちらは普段あまり見返しませんが、企画を考える時などに取り出して見るようにしています。

――telling,の読者の働く女性たちの中には、みんなが残業している雰囲気だから帰りにくいとか、早く帰って「やる気がない」と思われるのが怖いなどの悩みを抱えている人もいます。

郡司: 日本の女性は大変ですよね。クロワッサンでは前の編集長の時代から「仕事が終わってダラダラ会社にいてはいけない。生活雑誌なんだから、まずは自分がきちんと生活してください」と言われていましたし、自分もみんなにそう言っています。料理や掃除などの家事をすることでアイディアが浮かぶこともありますから、部員に会社にいてほしいなんて思いません。

仕事と生活をきっちり分けたい人には向いていない職場かもしれませんが、私の場合、仕事が私生活の延長線上だから苦になりません。テレビを見ていても「この人に話を聞いてみたい」とか、土日に出かけても「ここでロケしたい」とか考えてしまいます。創刊1000号を目前にした999号目の6月10日発売号に北海道の老舗製菓メーカー・六花亭とコラボした付録「六花亭の保冷バッグ」をつけるのも、そうやって浮かんだアイディアなんですよ。

「クロワッサン」6月10日発売号の付録「六花亭の保冷バッグ」

――(実物を見て)かわいい! どういう経緯で実現したんですか?

郡司: たまたま家族で函館に旅行した時、北海道にしか出店していない六花亭の喫茶店に入ったら、マスキングテープやレジャーシートなどのグッズがたくさん置いてあって驚いたんです。それで是非コラボさせていただきたいと思って。

地元をとても重視している会社なので実現は難しいと思っていたのですが、企画書を送ったら奇跡的に受けていただくことができました。40年間、まじめな誌面をつくってきたことを評価していただいたのではないかと、勝手に思っています(笑)。

思えばこれも、プライベートで北海道に足を運んだからこそ実現したことです。きちんとした生活を良い誌面づくりにつなげていくことを、これからも実践していきたいと思います。

●郡司麻里子(ぐんじ・まりこ)さん
1974年、東京生まれ。97年、マガジンハウスに入社。anan編集部やクロワッサン編集部など女性誌の編集部を経て、2018年10月より現職。プライベートでは双子の小学生を育てる母親でもある。

クロワッサン 2019年6/25号No.999 [日々の工夫で、疲れない夏。特別付録:六花亭×クロワッサン オリジナル保冷バッグ]

マガジンハウス

telling,創刊編集長。鹿児島県出身、2005年朝日新聞社入社。週刊朝日記者/編集者を経て、デジタル本部、新規事業部門「メディアラボ」など。外部Webメディアでの執筆多数。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。