懐かしい?それとも新鮮?秋冬は60~80年代クラシックスタイルが復活

仕事や恋愛、結婚についての思い。日頃はそんな、見えない部分での「自分らしさ」を追求しているtelling,。でも、自分の内面を表現できて、ときには演じることさえできるのは、装い。自分らしさの中に、新鮮な「今っぽさ」をあしらえば、魅せ方の幅はさらに広がります。そのためのエッセンスを、パリ、ミラノ、ニューヨークと、ファッションの世界を20年以上にわたり取材している朝日新聞ファッション担当編集委員・高橋牧子がお伝えします。

●ファッションジャーナリスト高橋牧子のミレニアルのためのトレンド通信

お母さんの若い頃のような正統派クラシックに注目

今年の秋のトレンドは、ミレニアル世代にはとびきり新鮮に映りそう。パリ・コレクションでは、これまでのリラックス感のあるストリートカジュアルへの飽きからか、正統派のクラシック調が大復活。なかでも、お母さんやおばあさんの若い頃の写真にありそうな1960年代から80年代に流行したスタイルが、新しく解釈されてリバイバルしていたのだ。

最も衝撃的だったのは、人気デザイナーのエディ・スリマンが前回から手掛けているセリーヌ。ブランドのアーカイブからヒントを得て、70年代後半の典型的なスタイルをずらりと並べた。

そのスタイルとは、アイテムやルールが決まっていて、まずテーラードジャケットとたなびくスカーフかボウタイのブラウス。プリーツを施したひざ下のスカートやキュロットパンツ(当時はガウチョパンツと呼んでいた)に革ベルトでウエストをきちんとマークして、ロングブーツを合わせる。
バッグは中サイズの箱形のショルダータイプ、時にティアドロップ型のサングラスをかける。スカーフの柄も70年代に壁紙に使われていた幾何柄が多くて、まるで当時の映画や広告写真の中に迷い込んだような錯覚を覚えるほど。とはいえ、薄地のカシミヤなど暖かくて軽い素材で当時と比べると着心地がよくて機能的な点が現代的な特徴だ。

ケープやマントをさらりと羽織って

同じように70年代後半のカレッジガールのようなスタイルも多かった。特に目立ったのは、ケープやマント。手持ちのワンピースやジーンズにさらりと羽織るだけでいつものコーディネートが今年っぽく変わりそう。

左:ミュウミュウ、右:ロエベ

ミュウミュウは、ミニ丈のコンビネゾンと合わせたロングのマント。ロエベはさわやかな白いニットのマントを、カジュアルなパンツに合わせていた。

一方、クリスチャン・ディオールは、50年代のテディ・ガールのスタイル。当時ロンドンで流行したテディ・ボーイルックを着た男性たちのガールフレンドが着た格好という。テディとは、1910年代にしゃれ男とされた英国王エドワード7世のニックネームで、そのスタイルをまねたもの。

女性版は、ウエストを絞ったミニスカートや、大きなブロックチェック柄、黒いレザーの小物などが特徴だ。今回は、黒革の太ベルトにポケットをつけて財布代わりにするなど、楽しいアイデアも詰め込んだ。チェックのワンピースに、太いベルトでウエストマークをすると、手軽にテディ・ガールの気分が味わえるかもしれない。

肩を強調した“バブリー”ルックも

日本でもここ数年、ボディコン・スーツ姿の女子高校生の「バブリーダンス」で注目された80年代スタイルも復活している。パリでも、特に肩を大きく強調したジャケットやコートがたくさん登場していた。サンローランは、ほとんどの服の肩を巨大に仕立て、当時の社会に進出し始めたキャリアウーマンのように、肩で風を切るような感じでモデルを歩かせた。

こうした過去のスタイルが再登場しているのは、次のファッションの購買層として期待されているミレニアル世代を意識したものだろう。それを着たことのあるお母さんやおばあさん世代には気恥ずかしくても、若い層にはどこか懐かしくも目新しいはずだ。

ファッションの流行は、たえず繰り返されると言われる。しかし決して同じ形の反復ではなくて、渦巻きのように変化や進化を続ける。そして時代の方も、お母さん世代のように多くの女性が一つのトレンドを共有した頃とは違って、好みと選択が多様化している。今回のトレンドがどう受け入れられるのか、とても興味深い。

●高橋牧子(たかはし・まきこ)プロフィール
ファッションジャーナリスト、朝日新聞・ファッション担当編集委員。繊研新聞社を経て2007年、朝日新聞社に入社。パリやミラノ、東京などのデザイナーコレクションや世界のファッションビジネス、街の流行などを取材・執筆している。