角田光代「人間って変わるから、結婚するとかしないとか決めつけないほうがいい」
――角田さん自身は、30代の頃の自分から変化したところはありますか。
角田光代(以下、角田): 映画版の『愛がなんだ』を観ていたら、昔、自分がいかに恋愛で勝ち負けにこだわっていたか思い出しました。でも本当は、勝ち負けなんてなかったんですよね。テルちゃんも全然、負けているわけじゃない。連絡を多くしたほうが負けとか、ちょっとでも相手より好きな気持ちが強いほうが負けだと思っていた当時の自分に、そのことを教えてあげたいですね。「恋愛に勝ち負けなんかないんだよ、どれだけ好きになっても負けないから大丈夫!」って。
――そのお言葉、今まさに恋しているすべての人に伝えたいです。ところで、映画版の『愛がなんだ』では、テルコの恋敵のすみれの印象が原作とは少し異なります。映画のすみれには、友だちや彼氏がいても居場所がないような寂しさを感じました。
角田: そうですね。小説のほうのすみれは、マモルとテルコとの三角関係の中で自分は勝っていると思い込んでいて、テルコに対する優越感で自分の価値を再認識しているようなキャラクターです。今で言うマウンティング女のようなつもりで書いたんですけど、映画のすみれは一生懸命自分を見つけようとして、自分になろうともがいている感じがして。そこにはかなさのようなものを感じました。
――今の20〜30代は、そもそも恋愛に興味がない人が多いように感じますが、角田さんはどう思われますか?
角田: 恋愛に興味がない人は、きっとそういうことが嫌なんでしょうね。人を好きになると、自分で自分の気持ちをコントロールできなくなったり、暴走したりするのが怖いとか、めんどうくさいとか、みっともないって思うのかもしれません。自分というものがちゃんとあって自分を変えたくない人ほど、恋愛に興味を持てないんじゃないですかね。
――それも、ある種の強さなのでしょうか?
角田: 私は強いとは思いませんね。ただ、頑固だなって思う。
――恋愛より、結婚や子どもをどうするか悩んでいる人も多いです。角田さんは、30代の頃にお話伺ったときは結婚否定派でしたが、現在のパートナーとご結婚されて10年ほど経ちます。何か心境の変化があったのでしょうか?
角田: 30代まではずっと「結婚したくない」と言っていましたからね。でも、親が亡くなったりいろいろあったので、当時付き合っていた人と意に反して結婚してみたらダメになってしまって。離婚した後、結婚というものを努力してやってみたらちゃんとできるかもしれない、と考えが変わりました。やっぱり人間って変わるものだから、あんまりいろいろ決めつけないほうがいいと思いますね。言いたくなる気持ちはすごくよくわかるけど、言えば言うほど、後から変わりにくくなるので。変わったら変わったで、恥ずかしいですしね(笑)。
――恋って落ちるものなので、この先もまだどうなるかわかりませんが……。
角田: 恋はね、遠くなりますよね。年をとると興味が恋愛よりほかのことに移ると思います。それにもしこれから恋愛したとしても、体力的にテルコのようなことはもうできないので。
――好きな人から夜中に呼び出されて駆けつけるとか?
角田: そういうの、いいですよね。でも今はもう無理ですよ。
――好きな人のために仕事も自分も捨て去るとか?
角田: 全部、捨てたくないです。猫も捨てたくない(笑)。でも映画を観たら、やっぱり若いっていいなって思いました。
――「命短し、恋せよ乙女」ですね……。恋愛している人にも、恋愛したい人にも、『愛がなんだ』はぜひ観てほしい作品だと改めて思いました。
- (作品紹介)
『愛がなんだ』
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©2019「愛がなんだ」製作委員会
●角田光代(かくた・みつよ)さんのプロフィール
作家。1967年神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、03年『空間庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、12年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、14年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞をそれぞれ受賞。他の著書に『三月の招待状』『森に眠る魚』『くまちゃん』など多数。