『話し方で損する人 得する人』著者に聞く〈前編〉コミュ障克服方法とは?

本屋さんに行くと、いつも目立つところに並んでいる本『話し方で損する人 得する人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。コミュニケーションに対して苦手意識のある私が、その苦手意識を克服するためにはどうしたらいいか、著者の五百田 達成(いおた たつなり)さんに、お話を聞いてきました。

コミュニケーションは技術。真心は関係ない

――まず、今回の本を書こうと思ったきっかけは何ですか?

五百田: 僕のモットーのひとつに「コミュニケーションは技術」というものがあります。コミュニケーションは単なる技術であって、ゴルフやテニスなどと一緒。真心とか熱意とか、そういったものとは一旦切り離して考えたほうが、うまくいきます。

逆に言えば、技術ですから、その人の性格は関係ない。理論と反復練習で、誰でもある程度までは上達するものです。人見知りやコミュ障だって、必ず克服できます。

今まで、「男と女のコミュニケーション」「生まれ順別のコミュニケーション」など、さまざまな切り口で書いてきたのですが、今回は、普遍的な誰にでも当てはまるような本を書きたいと思い、『話し方で損する人得する人』を執筆するにいたりました。

――「真心は関係ない」と言うと、なんか冷たい感じがしますね……。

五百田: もちろん真心がこもっているに越したことはないですよ。でも、「真心があるから、熱意があるんだから、いいじゃない、わかってよ」ではなく、きちんと伝えるところまで気を遣わないと、何も伝わらないし、誤解されてしまいますよ、というのが僕のスタンスです。

コミュニケーションと人格を切り離してみる

――五百田さん自身、コミュニケーションの改善のためにトライアンドエラーを繰り返したというエピソードが本で書かれています。私自身「コミュニケーションが苦手だな……」と思っているのですが、別の話し方を試してみようと思っても、とてもできる気がしません。

五百田: 新しいコミュニケーションを試してみるって、確かにハードルが高いですよね。その理由は「失敗したら恥ずかしい」からではないでしょうか。やはりそれも、コミュニケーションに、自分という存在や人格を乗せすぎているからかもしれませんね。

――「人格がコミュニケーションに乗っている」とはどういう意味でしょうか。

五百田: コミュニケーションと人格を別のものと切り分ければ、たとえあらたな手法を試して失敗してしまっても、あまり落ち込みませんよね。だって、単なる技術ですから。テニスやゴルフでミスショットをしただけ、みたいなものです。

多くの人はここを切り分けられなくて、「真心をこめて書きました」とか「熱意はきっと伝わる」とか、そういう精神論にしちゃうんです。
たとえば、「彼にどうやって気持ちを伝えたらいいか」という、コミュニケーションの問題なのに、「彼は私のことが好きだろうか、嫌いだろうか」「私はこんなに彼のことを思っているんだから・・・」と、自分の思いを乗せ過ぎてしまう。そうすれば当然、失敗したら、人格を否定されたような気持ちになってしまいますよね。

――すごくよくわかります。

五百田: いろいろなコミュニケーションを試行錯誤できる人は、自分のことを客観視できていて、自分の魅せ方を知っているクールな人が多いですね。
逆に試し下手な人は、情が深くて、誰とでもきちんと付き合おうとする人、真面目で繊細な人が多いですね。
どちらがいい悪いという話ではありません。

冷静さを持つことは、大人になるということ

――こう聞いていると、コミュニケーションが上達しすぎると、「ドライで冷たい人」になってしまいそうですが?

五百田: もちろん僕自身、ピュアな思春期などは、「自分とは何か」「自分はどう見られているだろう?」と自意識過剰気味に考えて悩んでましたよ(笑)。
ですが、年齢を重ねて、大人になり、少しずつですが、ちゃんと自分のことを客観視できるようになった。

また、僕の場合、出版社、広告会社、作家、カウンセラーと、一貫して「ことばで伝える」を仕事としてきたのも、大きいかもしれません。

たとえば、広告業界で仕事をしていたときは、当たり前ですが、どんな商品であろうと、いいところを見つけてお客さんに買ってもらえるようにアピールしないといけない。伝え方ひとつで、見え方・印象はまったく変わってくる。
そうした経験から「コミュニケーションは技術」という考えが培われていったのだと思います。

大切な人達とのコミュニケーションをサボってはダメ

――もちろん、仕事上、本意でない行動をとることは私も多々あります。でも、プライベートのコミュニケーションにおいても技術で乗り切ろうという話は、正直、違和感があります。

五百田: よくわかります。ですが、逆に言うと、仕事でそれだけ一生懸命がんばっているなら、家族や友人、恋人には、より努力しないといけないですよね?

――努力、ですか?

五百田: ええ。相手の言葉にきちんと耳を傾け、真意を汲み取ろうとし、慎重に言葉を選び、正しく伝わるように話す、書く、ということです。
たとえば、新しい取引先にメールを送る時には、何度も誤字脱字チェックを行い、痒いところに手が届くように補足をし、宛先にも気を遣いますよね。

仮にこれを100のパワーでやっているとして、家族や恋人には120のパワーでやるべきではないでしょうか。もちろん、仕事よりも大事な存在ならば、ですが。

僕自身、妻や友人にメールやLINEを送る時には、自身のプロの目で何度も推敲してから送ってますよ。

――めちゃくちゃストイックですね……。

五百田: いやいや、単にコミュニケーションのオタクなんだと思います(笑)。それでも、大事な相手にこそ、コミュニケーションはサボっちゃいけないというのは、僕の信念です。「言わなくてもわかり合える相手」と、気を抜くのは危険。ちょっとした連絡の行き違いから、信頼関係が崩れてしまうこともあるのですから。

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●五百田達成(いおた・たつなり)さん プロフィール

作家・心理カウンセラー。東京大学教養学部卒業後、角川書店に入社。その後、博報堂を経て独立。『察しない男 説明しない女』シリーズほか、著書多数。米国 CCE, Inc. 認定 GCDFキャリアカウンセラー。

話し方で損する人得する人

五百田達成

朝日新聞WEBメディアのフォトディレクター。東京都立大学法学部卒業後、朝日新聞社入社。写真部、AERA編集部、出版写真部を経て現職。写真展に「DAYS FUKUSHIMA」 (2012年、銀座・大阪ニコンサロン)、「CELL」(2018年、ソニーイメージングギャラリー銀座)など。長崎市出身。