行こうぜ!性別の向こうへ

「女性主導の婚活サイト」運営者が語る、結婚するより大切なこと

前回は、はたらく女性をターゲットとした完全女性主導型の婚活サービス「キャリ婚」について運営者の二人、人材コンサルティング会社リントスの川崎貴子社長と、AV監督で多くの女性を見てきた経験から語る恋愛論でも注目を集める二村ヒトシさんにお話を伺いました。「結婚しなくてもいい」という人が増えている日本の現実や、「女らしさ」を押しつけられる世間の圧力について、婚活の最前線を見つめてきた二人はどう見ているのか。本音を聞いてみました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

結婚は、そんなに大事なことではない。

――NHKが昨年実施した調査では、「必ずしも結婚する必要はない」と考えている人が68%という結果が出ました。この数字は1993年の調査開始時から増え続けているそうです。このことについて、お二人はどうお考えですか?

二村:結婚は、しなくてもいいんじゃないですかね?結婚して不幸になっている人もいっぱいいるし……。

それより「なぜ自分は結婚したいのか」「なぜ親は私を結婚させたがるのか」「どうして世の中では、結婚しないと一人前じゃないと言われてしまうのか」など、自分の中にある疑問を一度、徹底的に考えてみるべきです。

自分と向き合うことを成長のチャンスととらえて少しずつ解決していくことが、結婚よりずっと大事だと思います。

川崎:私も結婚が幸せの全てだとは思っていないですね。してもしなくても、どっちでもいいと思います。

そんな中でキャリ婚を運営しているのはなぜかというと、今の社会は、活躍している女性が結婚したいと思った時に、急にはしごを外されたような状態になってしまうからです。

――前回のお話で出たように、結婚相談所で年収をわざと低く申告するようアドバイスされたり、家庭的な女性らしい服装を押しつけられたり、といった問題ですね。

川崎:はい。親や社会からの期待に応えようと、勉強も仕事も頑張って……それで、いざ結婚しようとなると、急にその頑張ってきたことを「隠せ」と言われる。それって、本人はすごく混乱するし、客観的に見ても理不尽です。

活躍している女性が「結婚したい」と思った時に、自分らしく結婚できるような場を作っていきたいです。

「親のプレッシャー」から自由になる

――でも、「結婚しなきゃ!」という思いは正直消えません。みんなが歩いているルートから外れるのが怖いというか……。

二村:その恐怖心自体が、知らないうちに植え付けられてしまったものだと思いますよ。そういう感情をもっていたほうが生きやすかった時代も、かつてあったわけですが……。

詳しくは、僕が書いた『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』という本を読んでいただきたいんですが、人生の諸問題の多くは親から空けられた心の穴が原因だと私は考えています。

親って、とくに優秀な女の子に対して「勉強して良い学校に入れ」と言ったかと思うと、働き始めて仕事が面白くなってきた途端に「結婚は、いつするの?」と言い出す。悪意はないんだけど、まあ矛盾してますよね。親や社会が、女性に対して一貫性のない声かけばかりしているケースが多々見られる。だから混乱して当然なんです。

川崎:とはいえ、変化が早い世の中なので、親の方もモデルケースがなくて悩みながら子育てをしているという問題もあると思います。個人的には、子どもとの関わり方についても今後発信していきたいと考えています。

――実際に親からのプレッシャーで悩んでいる女性は、どうしたら良いのでしょうか。

二村:自分を幸せにするような欲望に正直に向き合って、人生を軌道修正していくことですよ。たとえば、あなたを不幸にするような男性ばかり好きになってしまうとしたら、それは、あなたの欲望の感性が間違っていて誤作動を起こしているというか、認知が歪んでいるんです。そこに気づくことが、まず大事です。

川崎さんも僕も子どもがいるんですが、親という生き物が言うことって、だいたい100パーセント間違ってるって思ったほうがいい(笑)。でも、子どもはただ反抗すればいいってもんでもない。「しなきゃいけないこと」に縛られて人生が楽しくないというケースも多いですけど、自分の欲望に忠実すぎて不幸になってしまうケースも多い。

社会通念的なモラルじゃなくて、その人にとっての「良い欲望」と「悪い欲望」があるんだと思うんです。そこは自分で見分けないといけない。社会の常識や親との関係で、その人の「良い欲望」が抑圧されてしまっていると、いろいろなことがうまくいかないんです。

自分が残念な状態になっていると気づいたら、抑圧されている自分の「良い欲望」を解放してあげられるといい。逆説的ですが「結婚しなくちゃ」という思い込みをうまく捨てられた人のほうが、いいパートナーと巡り会えます。そのほうが精神的に健康だからです。

大切なのは強さより自分らしさ

――結婚の問題だけでなく、telling,の読者には社会から女性らしさを押しつけられたり、恋愛や出産についての「こうあるべき」というプレッシャーを受けて、生きづらさを感じる、という声が多く寄せられます。そうした方へのメッセージをお願いします。

川崎:性別ってなんなのでしょう。私は、25歳から社長という、当時としては「男っぽい」仕事に就いていましたし、夫が家事をして私が収入の大黒柱という夫婦生活を体験しています。身体は女でありながら、いわゆる一般的な「男性」の気持ちを理解していると思います。

それを踏まえた上でお伝えしたいのは、誰もが自分の中に「女性らしさ」と「男性らしさ」を持っているということ。男か女かを考える前に人間なんです。

ですから悩んでいる方は、女性らしさ、男性らしさの間で行ったり来たりしながら、自分にとっての心地よいバランスを見つけたらいいと思います。

「男だから」「女だから」は平成で終わりにして、働き方も家事分担も従来の形にこだわらない、全く新しいパートナーシップの形を模索してほしいです。

二村:AV監督的な視点で言うと(笑)、ジェンダーは「男女」という概念ではなく「タチ」と「ウケ」という柔らかくて交換可能な感覚で考えましょうと提案したいです。夫婦は両者がまず人間であって、リードしたい側が「タチ役」、リードされたい側が「ウケ」役をすればいい。その役割も固定化する必要はなくて、場面場面で交代しても構わない。

現代の医学ではまだ「産むこと」だけは性別が女性の人にしかできませんが、それ以外のことは全部したいほうがしたいことをやったり、納得いく割合で分担していけばいい。義務じゃなく、良い欲望で生きていく。だからこそマッチングや、お互いの欲望の擦り合わせが大事なんです。

妻のほうが社会人として完全にタチのモードで生活も仕事優先、でもベッドでは急にウケのモードになるでもいい。日常ではタチで夫婦生活をリードしている妻が、お正月に夫の実家に帰った時だけウケを演じるなんていうのも、そういう特別な「お正月プレイ」だと思って楽しんでしまえばいい。

フレキシブルなかたちでお互いを尊重しあえるパートナーと出会うことが、男女ともに幸せへの道だと思います。

  • プロフィール
    ●リントス株式会社 代表取締役 川崎貴子さん
    女性に特化したコンサルティング会社リントス株式会社の代表。過去2万人以上にのぼる女性の相談に乗って成長や成功をサポートしてきた経験を持つ「女性マネジメントのプロ」。婚活結社「魔女のサバト」では黒魔女として、多くの女性の幸せをサポート。著書に『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(KKベストセラーズ)ほか。
  • ●AV監督 二村ヒトシさん
    慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学中退後、AV監督に。ジェンダーに関する固定観念を壊すような作品を世に送り出している。著書に『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(イースト・プレス)『すべてはモテるためである』(イースト・プレス)ほか、恋愛や性に関する著書多数。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
1983年生まれ。社会人13年で転職4回。バツイチ。恋愛・結婚・女性性・人間関係・生き辛さなどの話題に興味があります。お笑い・現代アート・バームロールが好きです。

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