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DV、生活困窮、生きづらさ……あなたの悩みを聞かせて 自治体で広がる新しい女性支援のカタチ

DVや生活困窮、賃金格差などで弱い立場に追い込まれ、生きづらさを感じる女性たちは少なくありません。そんな声に耳を傾け、よりニーズに合った支援をしようと、2024年4月から「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(女性支援新法)が始まります。全国には、早くからこうした女性たちの幅広い悩みに対応してきた自治体もあり、「新法をきっかけにより多くの女性に窓口があることを知ってもらいたい」と担当者らは呼びかけています。

夫がモラハラに。悩んでいた女性が見つけた生き方

※写真はイメージです

「夫のモラハラに悩んでいて……」

その日、神奈川県鎌倉市にある「かながわ女性の不安・困りごと相談室(かながわ女性相談室)」に電話をしたのは、専業主婦の女性(50代)でした。

子どもは2人いますが、成長して家を出ているため、夫と2人だけの生活。いつからか、夫は女性に言葉や態度で嫌がらせをするようになったそうです。そんな夫の「モラハラ」にビクビクし、日常的に息切れや動悸(どうき)もすると訴えました。

「それはつらかったですね」

対応した支援員は、ゆっくりうなずきながら話を聞きました。

女性自身、日々つらい思いをしているものの、これからどうしたいのか明確な答えは持っていませんでした。仕事はしておらず、高齢の両親は認知症があり、頼れる人もいないといいます。子どものこともあり、離婚は考えていないけれど……。一人で抱え込んでいた思いが一気にあふれ出ました。

最初はつらい気持ちに共感してもらえるだけで、心が落ち着いていく様子でした。そして、何度か電話や面接相談に訪れるうちに気持ちも整理されていきました。

女性は、その後紹介された自治体の女性相談支援員(旧:婦人相談員)のアドバイスを受け、今は、生活保護等を活用しながら夫から離れて一人暮らしを始める一歩を踏み出しています。

※上記の内容は、神奈川県福祉子どもみらい局共生推進本部室への取材協力を得て、実際にあった相談事例を、相談者の個人情報を秘匿した上で構成しています。

家族関係、病気、子育て、介護、引きこもり……幅広い相談に「女性のための総合相談窓口」

「かながわ女性相談室」のLINE相談の画面。

「かながわ女性相談室」は、2021年度に神奈川県の委託事業として設置されました。対面、電話、メールのほか、LINEでも相談を受け付けています。

2022年度に受けた相談件数は、実に3221件を数えます。相談内容の多くは、さきほどの女性のような「家族関係(引きこもり・不登校など含む)」が最多の206件。「収入・生活費のこと」(75件)のほか、「病気・健康」(64件)、「住まい」(58件)、「DV・虐待」(53件)、「子育て・介護」(36件)と、相談内容は多岐にわたります。

「女性が抱える悩みをなんでもきいてくれる」のも、この相談室の特長のひとつです。たとえば、生活苦の相談に来た方でも、話を聞くうちに、背景に人間関係がうまく築けず仕事が続かないこと、さらにその原因は昔受けた性被害のPTSD(心的外傷後ストレス障害)にあることが見えてくるようなケースがあります。相談員は、抱えている困難を一旦全て受け止め、問題を解きほぐして、場合によりそれぞれの課題に必要な支援の窓口に同行するなどのサポートを行っています。

相談を重ねるうちに、相談者が自ら解決策を導き出すケースもあります。

10代後半に両親を亡くした女性(40代)は、「家業の継続」について相談の電話をしました。一緒に店を切り盛りしていた兄が趣味に没頭するようになってしまい、忙しさで自分の時間が取れない日々。「人並みの生活が送りたい。このまま年を取りたくない」と訴えたそうです。

店を空けられないため、支援員が何度か女性のもとをたずねて悩みを聞きました。女性は、身の上話をしているうちに、自分の考えに自信が持てるようになり、「店をやめて一人暮らしをしたい」と将来の「なりたい自分像」を語るようになりました。

「かながわ女性相談室」の運営を民間団体に委託している、県福祉子どもみらい局共生推進本部室の担当者はいいます。「どこに相談したらいいのかわからない、何が悩みかもわからない、複合的な悩みを抱えた女性も多くいらっしゃいます。話を聞いてもらうことで、悩みが整理され、気持ちが前向きになれるケースもあるので、安心して寄り道したくなるような居場所の提供も行っています」

見えてきた「社会とつながりながら自立」するニーズ

※写真はイメージです

これまでにも、困難な状況にある女性を支援する施設はありました。ただ、多くの「婦人相談所」や「婦人保護施設」は、配偶者からのDV被害など、加害者からの追跡の危険がある方の保護も行うため、利用者の安全を守るために、「施設にスマートフォンなど通信機器の持ち込みができない」「通勤や通学を継続できない」など、地域ごとの独自のルールがあります。身を隠す必要がない方にも生活が一変する可能性があるため、利用のハードルが高い状況となっています。

旧来の「婦人保護事業」は、1956年に制定された「売春防止法」を軸とした“保護更生”を目的としたものからスタートしていました。そのため、時代と共に変化してきた支援のニーズと、国の制度がかみ合っていませんでした。DVやストーカー、性暴力、人身取引(性的サービスや労働の強要等)といった被害から、生活の困窮や介護・育児の課題に至るまで、現代の女性が抱えるさまざまな問題に対し支援できる体制づくりが必要とされています。

実際、厚生労働省の調査では、全国の都道府県と市の女性相談支援員(旧:婦人相談員)への相談件数は年々増加しているのに対し、一時保護や女性自立支援施設(旧:婦人保護施設)の利用者は年々減少傾向にあります。

そんな中、課題をより浮き彫りにしたのが、コロナ禍でした。外出自粛が求められるようになり、家庭に居場所のない若い女性たちが家出をしたり、SNSで居場所を求めたりして犯罪に巻き込まれるケースも出てきました。

こうした状況から、女性のさまざまな問題に対応できる「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(女性支援新法)が2022年5月に成立。2024年4月から施行されることになったのです。

神奈川県は、新法施行に先駆けて「かながわ女性相談室」を運営してきましたが、施行を機に、さらなる支援の拡充をめざしています。

「DV等の被害者のように、加害者からの追及を受けている方の安全を守るための施設は、もちろん必要不可欠です。一方で、当事者や相談員からは、スマートフォンなどの持ち込み制限がなく、通勤・通学など、これまでの生活を完全に切り離す必要のない支援施設の要望が多く寄せられていました。神奈川県としては、新法施行に向けて、当事者ニーズに応じた『社会とつながりながら自立を目指せる施設』を検討中で、女性の目線に立った支援に取り組んでいきたいと考えています」

さまざまな悩みに対応できるよう、県内の関係部署、市町村、民間団体との連携も一層強化したいとしています。そのためにも「まずは、困難な問題を抱えている方に相談場所があるのを知ってもらうのが一番」と県福祉子どもみらい局共生推進本部室の担当者は話します。

「行政からの支援を受けたくないと思う方もいると思いますが、本当に困っていることをゆっくり聞き出して、ご本人の気持ちを尊重した自立に向けた支援をしていくことが大事。いろんな選択肢を提案し、頼ってもらえるように、取り組んでいきたいと思っています」