ライフプランに合わせてお金を育てる。iDeCoや新NISAとの付き合い方
井戸美枝
いど・みえ。ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、井戸美枝事務所代表。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめとした年金・社会保障問題を専門とする。前社会保障審議会企業年金個人年金部会委員。国民年金基金連合会理事。 日本FP協会理事。経済エッセイストとして活動。著書に『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)、『親の終活 夫婦の老活』(朝日新書)など。
人生100年時代に必要なこと
車や住宅の購入、結婚や子どもの進学など、人生にはさまざまなタイミングでまとまったお金が必要になります。金額は人それぞれですが、「自分が何歳の時にどのようなライフイベントがあり、お金がいくら必要になるかをイメージしておいたほうが良い」と井戸さん。
平均寿命が伸び、100歳まで生きる人が増える「人生100年時代」が到来すると言われる中、老後の資金確保は今後より一層重要になるとされています。そこで必要なことは、どのように資産形成をしていくかです。井戸さんは「お金は、コツコツ無理をしない範囲で育てていくことが大事」と説きます。
資産形成に重要な3つのバランス
お金を育てていくためには、まず毎月の収支を把握すること。収入の中から、生活費や保険料、交際費など、何にどれくらいつかっているかを割り出してみると、何につかったかあまり覚えていない「その他」の支出があります。井戸さんはこの「その他」の金額を把握し、給料を受け取ったタイミングで貯蓄に回せば、「無理なく自然とお金が貯まっていく」と言います。
しかし、収入と比べて支出は常に一定とはいきません。たとえば住宅の購入や子どもが進学する際には大きな出費が伴います。そうすると、貯蓄に回せるお金は減ってしまいます。井戸さんは「大事なのは続けること。やめないこと」とアドバイス。その時々の状況に合わせて無理のない範囲で貯蓄しつつ、金額ではなく「貯蓄率」を意識しながら、支出と貯蓄のバランスをとっていくことが大切だと言います。
一方で定期預金や普通預金だけでは、貯まりはしても、あまり増えていきません。そこで井戸さんは「公的年金」「iDeCo(イデコ)」「NISA(ニーサ)」の3つをバランスよく活用することが重要だと説明。
iDeCoは、個人型確定拠出年金のことで、公的年金にプラスして給付を受けられる私的年金です。またNISAは、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益に、税金がかからない制度です。では、具体的にはどのように活用していくとよいのでしょうか。
iDeCoの3つのメリット
将来、公的年金を十分に受け取ることができるのか不安に感じている人は少なくないでしょう。事実、厚生労働省の報告(※)では、年金受給開始時点での年金額が、現役世代の手取り収入と比較してどれくらいの割合かを示す「所得代替率」が、2019年度では61.7%だったものが、2047年度には50.8%まで下がると予測されています。
※2019(令和元)年財政検証結果 より
公的年金は老後資金のベースになるものです。まずは自分がどれくらい公的年金を受け取れるのかを知っておく必要があります。そこで、井戸さんは厚生労働省が公開している「公的年金シミュレーター」の活用を勧めます。
公的年金シミュレーター
https://nenkin-shisan.mhlw.go.jp/
しかし公的年金だけではなく、もう少しゆとりが欲しいもの。そこで活用したいのがiDeCoです。井戸先生は、iDeCoの税制メリットとして3つのポイントを挙げます。
1つ目は、掛金が全額所得控除の対象となること。iDeCoにお金を拠出することでその分、所得税や住民税が軽減されます。2つ目は、運用して得られる利益である「運用益」が運用中はすべて非課税となること。一般的な金融商品は、運用益に対して所得税がかかります。iDeCoでは、その所得税がかからないので、運用した利益分がそのまま受け取れるというのです。
そして3つ目が、受け取る際の税制優遇です。年金として受取る場合は「公的年金等控除」、一時金として受取る場合は「退職所得控除」が適用されるため、そのほかの個人年金よりも控除が大きく、受け取る額も増えるのだそうです。
iDeCoで受けられる税制メリットは具体的にどのくらい?
iDeCoは、所得の税率や掛金によって節税金額が変わります。たとえば課税所得が300万円の人の税率が住民税と合わせて20.315%の場合、iDeCoで毎月23,000円の掛金を拠出すると、年間55,200円の節税金額となります。井戸さんは、この節税できた分を、NISAなどの投資の資金として活用する方法を提案します。「節税シミュレーター」のようなiDeCoシミュレーターでその額を知ることができると井戸さん。
「節税シミュレーター」だと、年収や毎月の掛金などいくつかの項目を入れるだけで、その場でどれぐらい税制メリットが見込めるのかがわかります。イベント内では井戸さんが実際に「節税シミュレーター」を使い、金額を計算する様子を見せてくださいました。
節税シミュレーターでは、掛金によってどれぐらいの税制メリットがあるのか、運用時や受け取り時のメリットなど、それぞれの項目ごとに金額を計算して表示。条件を細かく変えることもできます。こうしたシミュレーターを活用すれば、将来に向けた資産形成がより具体的になっていくというわけです。
節税シミュレーター(中央ろうきん)
https://rokin-ideco.com/setuzei/index.html
新NISAは一生付き合える制度
iDeCoは老後資金を形成していく上で便利ですが、一方で私的年金としての位置付けのため、原則60歳までお金を引き出せないという制約があります。前述の通り、人生では様々なライフイベントで大きな出費を伴います。そのためには目的別に分けて貯蓄し、資金を準備しておく必要があります。そこで活用したいのがNISAです。
NISAは、専用口座で一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる運用益が非課税になる制度です。18歳以上で日本に住民票があれば誰でも利用できます。
2024年からは、年間投資枠や生涯投資上限額の引き上げなどNISAの制度が新しくなります。これまでのNISAと比較して新NISAは「非課税期間が無期限」「制度が恒久化」といった点がメリットだと井戸さんは説明。これにより「いつまでにはじめればよいのか」「いつはじめるのがよいのか」といったことを考えなくてよくなったと言います。
さらに井戸さんは、NISAの口座からお金を引き出しても、翌年に非課税枠が復活することに注目。これまではお金を引き出しても、その分、非課税枠の再利用ができなかったため、引き出すタイミングが難しいという問題がありましたが、それがなくなったことで「必要なときに必要な分だけ引き出せばよくなります」と井戸さん。
「貯めたり、つかったりしながらずっとNISAと付き合っていける点が非常に大きなポイント」だと新NISAの優位性を解説してくれました。
自分のお金を育てるために
公的年金に加えて、iDeCoでゆとりを加え、さらにNISAを普段使いの口座のように活用していく。非課税制度によって得られるメリットを活かし、これらをバランスよく併用していくことが大切なことがわかりました。
イベント内ではさらに、投資信託の選び方のコツや、iDeCoとNISAのより詳細な説明もおこなわれました。
老後が不安だと感じている人も少なくないでしょう。そのようなタイミングだからこそ、自分自身のライフプランにあわせた資産形成をはじめてみるのもよいかもしれません。
「コツはやめないこと。無理をしてたくさん積み立てるのではなくて、自分のできる範囲内でずっと積み立てていく。続けていくとお金は育ちます」(井戸さん)