Sponsored by 東京都
Sponsored

パパが育業を取りやすい世の中に? 取得の前に夫婦で知っておきたいお金のこと

男女ともに仕事と育児を両立できるよう、2022年4月より「改正育児・介護休業法」が順次施行されています。育児休業を取りやすい雇用環境の整備や職場の雰囲気づくりがこれまで以上に進むことが期待されますが、その一方、育業(※)を取得するにあたり、多くの方の頭によぎるのが「お金の心配」ではないでしょうか。出産・育児に関する支援制度から、夫婦で考えたいマネープランの話まで、ファイナンシャルプランナー(FP)の内藤眞弓さんが解説します。

※育児休業の愛称「育業」について
東京都では、育休を取得しやすい社会の雰囲気づくりのため、育休の「休む」というイメージを一新する愛称を募集し、多数のご応募の中から選ばれた愛称「育業」を発表しました。

育児・介護休業法改正で「男性の育業促進」が加速

昨年、2021年度の男性の育児休業(以下育業)取得者が13.97%と、過去最高を記録したことが話題になりました。とはいえ、女性の育業取得者は毎年8割強で推移していますから、その差はまだまだ大きいと言わざるをえません。育業取得期間においても同様です。女性は「12~18カ月未満」が34.0%と最も高く、次いで「10~12カ月未満」が30.0%、男性は2週間未満が5割超を占めています(※1)。

政府は「2025年までに男性の育児休業取得率30%」という目標を掲げていますが、現実はなかなか厳しそうです。そこで、男性がもっと育業を取りやすくするための制度が、2022年10月からスタートしました。それが「出生時育児休業制度(通称『産後パパ育休』)」と「育児休業の分割取得」です。

「産後パパ育休」とは、妻が産休中の男性を念頭においたもので、子の出生後8週間以内に4週間(28日)を限度に取得でき、2回までの分割取得が可能となっています。また、産後パパ育休とは別に、時期や理由を問わず、分割して2回まで育業取得ができますので、夫婦が交代で取得するなど、柔軟な利用が可能です。また、育業は通常1カ月前に申し出る必要がありますが、産後パパ育休は、原則として、休業の2週間前までとなっています。

原則として、育業は子どもが1歳になるまでの間に取得できるものですが、1歳に達する日において保育所などに入所できない場合など、例外的な措置として1歳6か月まで育児休業を延長することができます(再延長で2歳まで可)。

※1『令和3年度雇用均等基本調査』より

育業取得時のお金の悩み 長期スパンで家計を考えるきっかけに

男性の育業取得が進まない理由の1つが、収入が減ることへの不安ではないでしょうか。子どもが生まれる喜びと同時に、将来の教育費のことなどが頭をよぎります。大学に進学させようと思えば、私立大学の場合、4年間で平均約470万円を覚悟しなくてはなりません(※2)。男女の賃金格差を考えると、自分が頑張って働かなくてはならない、育業を取っている場合ではないと考えても無理はありません。

ここで少し、長期的スパンで家計のことを考えてみましょう。人生100年と言われるように、リタイア後の暮らしが数十年に及ぶことも当たり前になってきました。しかし、働いて収入が得られる時期は限られています。その間に、子どもの教育費だけではなく、リタイア後の生活資金も準備しておく必要があります。そのためには、夫婦で働き、二人の厚生年金加入期間を積み上げておくことが、リタイア後の安定につながります。

しかし、子育てや家事の負担が妻に集中してしまうと、仕事との両立が困難になり、妻が離職に追い込まれるかもしれません。育業制度には、男女ともに仕事と育児を両立できるようにという意味合いがあります。育業を“スムーズに共働きするためのインフラ作り”と“子どもとの関係性を構築する期間”と位置付けてはどうでしょう。

育業を利用しやすくなったのはチャンスです。育業明けの生活をシミュレーションし、仕事と家事、育児をストレスなく回していくためには何が必要なのか、夫婦が互いにどのような役割を担うのかといったことを具体的に話し合いましょう。

育業中にある程度収入が減ることは避けられませんが、人生のほんの一時期です。しかし、出産をきっかけに妻が離職するなどして妻の分の収入が途絶えてしまうと、影響は老後に及ぶ可能性があります。

※2 文部科学省『私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果について』より

忘れずに活用したい、出産と育児に関する経済的な支援制度

そうはいっても、目先の「お金」のことも気になります。出産と育児に関する経済的支援制度を知って、上手に乗り切っていきましょう。まず、出産をした妻が受け取れるお金、「出産育児一時金」と「出産手当金」をみていきます。いずれも妻が加入する健康保険から支払われます。

○出産育児一時金
出産育児一時金は子ども1人につき42万円(※3)で、出産をした医療機関に直接支払われます。出産費用がそれを上回る場合は、超過分を支払えばよく、まとまった出産費用を用意しなくてすみます。反対に、かかった費用が42万円より少なければ、保険者に申請をすることで差額が戻ってきます。

※3 2023年4月より50万円に引き上げられる予定

○出産手当金
出産手当金とは、産前産後の休業中に給与の支払いがない場合に支払われるものです。産前休業は出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)の42日前(多胎妊娠の場合は98日)から、産後休業は出産日の翌日以降56日まで取得することができます。支給額は産休前の給与の3分の2(※4)です。

※4 (支給開始日前12カ月間の平均標準報酬月額)÷30日×(2/3)×産休日数

○育児休業給付金
次に、育業中に受け取れる「育児休業給付金」についてみていきます。育児休業給付金とは、育業中に給与が一定以上支払われなくなった場合に雇用保険から給付されるお金のことです。受給要件は、原則として以下のとおりです。なお、産後パパ育休を取得した場合に受給できるのは「出生時育児休業給付金」で、受給要件は育児休業給付金と同じです。

(1)1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した雇用保険の被保険者であること
(2)育児休業を開始した日前2年間に、賃金支払日が11日以上ある月が12カ月以上あること
(3)1支給単位期間中(※5)の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること
(4)有期雇用の場合、子の出生日(予定日前の出生の場合は予定日)から8週間を経過する日の翌日から6カ月を経過する日までに労働契約期間が満了することが明らかでないこと

育児休業中は就業をしないことが基本ですが、労使間の話し合いによる合意を条件に、(3)の範囲での就業が可能です。

育児休業給付金の1カ月あたりの支給額は以下の計算式で算出します。

・育児休業開始後180日まで:休業開始時賃金日額×支給日数×67%
・育児休業開始後181日目以降:休業開始時賃金日額×支給日数×50%

休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6カ月の賃金を180日で割った金額です。支給日数は原則30日として計算します。出生時育児休業給付金を受給した日数も通算されますので、67%の育児休業給付金が支給されるのは、180日から出生時育児休業給付金を受け取った日数を差し引いた日数分です。

※5 育児休業を開始した日から起算した1カ月ごとの期間(その1カ月の間に育児休業終了日を含む場合はその育児休業終了日までの期間)

○社会保険料の納付免除
続いて産休中や育業中の社会保険料についてみていきます。産休中や育業中の給与が勤務先から支給されない場合、雇用保険の保険料負担はありません。一方、健康保険料や厚生年金保険料は、事業主が申し出ることによって、被保険者本人と事業主の負担がともに免除されます。免除期間中も、健康保険の給付は通常通り受けられますし、将来の年金額も減額されることはありません。免除要件は以下の通りです(図2参照)。

(1)育児休業を開始した月から終了した日の翌日が属する月の前月まで
(2)休業開始日と休業終了日が同じ月である場合、その休業期間が14日以上あるとき(暦日数)
(3)賞与からの社会保険料の免除は、月末に育業中で休業期間が1カ月を超える場合(暦日数)

出産手当金や育児休業給付金は非課税ですから所得税を引かれることはありませんし、社会保険料も払わなくてすみます。住民税は前年度の所得をもとにしているため、育児休業中も支払わなくてはなりませんが、翌年度の住民税負担が減ります。

給与や加入している健康保険、扶養家族の人数等によって異なりますが、手取り収入は概ね休業前の8割程度となります(育児休業開始180日以降は約6割)。67%とか50%と聞くと腰が引けてしまうかもしれませんが、手取りで8割程度が確保できるとなれば、あらかじめ夫婦で話し合ってマネープランを立てておけば乗り切れるのではないでしょうか。

長い目で見たマネープランニングが肝心

子どもがいる人にとって、人生の貯め期は子どもが10歳になるまでと、教育費が一段落ついてから60歳までの2回です。かつては「お金を貯めるなら小学生のうち」と言われていましたが、今は様相が変わっています。子どもが10歳ともなれば、中学受験を目指したり、勉強の難易度が高くなってくるため、塾通いが始まることが多いからです。

私立中学に入学すればさらに教育費負担が重くなりますし、子どもの意志で行動する場面が増えてきますので、子ども関連の費用が膨らみがちです。住宅ローンの返済が並行する家庭も多く、教育費のピークとなる大学時代を終了するまでは、貯蓄ができないか逆に減らしてしまう貯蓄停滞(減少)期となります。

このような流れを知ったうえで、それを織り込んだプランニングをすることが大切です。そのためのツールとして、家族共通のライフプランと夫婦それぞれのキャリアプランを融合した年表を作ってみてはどうでしょうか(図3参照)。

まず、起点となる年の夫婦それぞれの手取り収入と合計額を記入してください。手取り収入の計算にあたっては、毎年1月に勤務先から交付される源泉徴収票と、対象となる年の給与明細を1カ月分用意してください。源泉徴収票の「支給総額」から「源泉徴収税額」「社会保険料等の金額」を引き、さらに給与明細の「住民税額」を12カ月分したものを差し引いた金額が手取り収入です。

次に、起点となる年のわが家の貯蓄総額を確認してください。これが右端の「累計貯蓄額」です。「累計貯蓄額」のうち、起点となる年の手取り収入から年間支出額を引いた金額が「年間貯蓄額」です。

「1年間の支出額なんて分からない」という人も多いと思いますが、「手取り収入の合計額」から「年間貯蓄額」を引くと、その年の支出額をつかむことができます。何にいくら使ったかが分からなくても、定期的に積み立てている金額は容易に把握できますし、生活口座などの残高を確認すれば、1年間で増えた(減った)金額が確認できます。それらを足し引きすれば、年間貯蓄額が分かります。

起点となる年の実績の数字を記入したら、家族の年齢構成の変化と進入学のイベントを確認しながら、累計貯蓄額がどのように変化しそうかを予測してみてください。教育方針にもよりますが、中学受験を考えているのであれば、小学校中学年あたりから塾通いが始まりますので、その金額も織り込んでください。

お金の流れが確認できたら、夫婦それぞれのキャリアも一緒に思い描いてみてください。子どもの年齢とも照らし合わせながら、子どもが小学生になることを見据えて希望部署に異動願いを出そうとか、別の人事コースにトライしようとか、転職を視野に入れて、そのときまでにどのような準備をすべきかといったキャリアプランを練るのもいいかもしれません。ほんの少し先を見据えると、職場の風景も違って見えると思います。

キャリアプランは収入に直結しますので、ライフプランとキャリアプランは不可分です。そして、出産や子育ての時期は、多くの場合、キャリアの基盤をつくる時期と重なります。お互いのキャリアプランを尊重しながら、この大切な時期を有意義なものにできるよう、知恵を絞ってください。

家計の見える化には夫婦の協力が不可欠! FPがすすめる具体的な管理方法

共働き家庭で頭が痛いのが、日々の生活費の出し入れをどのように管理するかということではないでしょうか。会社帰りに買い物をすることも多いと思いますが、お小遣いから立て替えて後で精算するのも面倒です。そこでストレスなしで生活費を共同管理する仕組みをご紹介します。

まず、食費や日用品費、家賃や住宅ローン、水道光熱費などの引き落としなどに使う生活口座を開きます。口座の名義人は1名ですが、名義人と生計を一にしている親族であれば代理人カードが作れます。1カ月の生活費分の予算を決め、夫婦それぞれの分担額を給料日に振り込みます。分担額は二人で話し合って決めてください。

なお、予算を決める際には、1年間で貯蓄したい金額を手取り年収から差し引いたうえで、ひと月当たりの予算を配分するようにしましょう。予算の範囲内に収まるように管理をしていけば、自動的に予定していたお金が貯まります。多少の浮き沈みはあると思いますので、予備費を予算に組み込んでおくと安心です。

夕飯などの買いものをするときには、この生活口座から現金を下ろして使います。共通の財布などを決めておいて、そこにお釣りとレシートを入れるようにします。レシートとお釣りで、予算の残額管理もできます。

クレジットカードの家族カードも便利です。口座と同様、名義人はひとりですが、生計を一緒にする配偶者であれば作ることができます。スーパーでもコンビニでも、ほぼクレジットカードが使えますから、口座から引き出したり、お釣りの管理をしたりといった手間が省けます。使ったら必ずレシートをもらって共通の財布に入れ、予算の残額管理をするのを忘れないようにします(図4)。

以上は一つの例ですが、自分たちに合った日常的管理の仕組みを、試行錯誤しながら整えていってください。ライフプランとキャリアプランを長期的に見据えつつ、机上の空論にすることなく着実に実行していくためにも、日常的な管理の積み重ねが重要です。