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尾崎世界観さんが読む、デビュー20周年・綿矢りささんの最新刊『オーラの発表会』 

綿矢りささんの最新作『オーラの発表会』が8月26日に刊行されました。主人公・海松子(みるこ)は、他人に興味を抱いたり、その気持ちを推し量ったりするのが苦手な大学1年生。友達といえば、高校時代からの同級生・萌音ひとりで、趣味は凧揚げ、特技は脳内で周りの人たちに、ちょっと失礼なあだ名をつけること。そんな海松子ですが、気づけばいつの間にか、幼なじみの男子とイケメン社会人から想いを寄せられていて……。今年で作家デビュー20年を迎えた綿矢さん。その作品世界の魅力を、学生時代から綿矢さんの作品を読んできたというミュージシャンで作家の尾崎世界観さんに語っていただきました。

見透かされたうえに許されてしまう恥ずかしさ

――綿矢作品との最初の出会いについて教えてください。初めて読んだときに受けた印象はどのようなものだったのか、いまも記憶に残っていることはありますか。

尾崎世界観 高校生の時、デビュー作である『インストール』を読みました。その後、『蹴りたい背中』も単行本を買って読んだのですが、純文学を読むという体験自体が新鮮で面白かったです。綿矢さんとは年が近いということもあり、どこか同じような感覚があって、身近に感じました。

小説であるけれど、「歌詞みたいだ」とも思いましたね。小説は歌詞よりも文字数が多いので、歌詞みたいに書いていたらなかなか完成しない。だからどこかで諦めて、“捨て文”のようなものを挟み込んでいかなければ成立しないと思うのですが、『インストール』を最近改めて読んだときに、すべてがしっかりと、すごく高いレベルで成り立っていることに驚きました。

――綿矢さんの言葉使いや表現、描写の魅力はどんなところにあると思いますか。

尾崎 人間に対して厳しい眼差しを向けているという印象があるのですが、それがすごく柔らかく描かれている。自分の隠している部分を見破られるときに、一番怖い眼差しですね(笑)。だからこそ読みたくなる。

自分に心当たりがあることを発見させられる、とも感じます。バレたくないことが見透かされているうえに、同時にそれを許されている、という恥ずかしさを感じることもあります。「仕方がないな、あなたは」というような視線を向けられ、すべてが完結させられている。そんな感覚がありますね。

綿矢さんの作品だから読む、という意識はあまりなくて、手に取って読んでみると面白かったのが綿矢さんの作品ということも多いです。たとえば音楽に関しては「このアーティストの作品だから聴こう」という意識で選ぶ。でも、綿矢さんの作品に関しては、何よりもまず作品として面白いから読む。それは自分自身としても憧れるところです。自分の音楽や小説も、ただ作品として好きになってもらうことを目標にしています。

ストレートな恋愛小説だなと思って読みました

――新作『オーラの発表会』では、相手の感情を推しはかったり、一人の人間に同じ感情を抱き続けたりするのが苦手な大学一年生の海松子(みるこ)の人間模様が描かれています。読まれたときはどんな印象を持たれましたか。

尾崎 柔らかい印象の作品だと最初は思いました。でも、気づくとつい深読みしていましたね。「どういうことなのかな?」「この言葉の裏に毒があるのかな?」と考えてしまう。その時点でもう弄ばれているのかもしれません。

何かあるのではないか、と思ったらその“何か”がなかなか出てこない。お化け屋敷に行って、お化けが出てくることよりも、出てこないことのほうが怖いという感じです。登場人物たちはみんな均等にヘンですが、ストレートな恋愛小説だなと思いながら読みました。主人公が周りの人によく喋らせているなという感じがして、そこも面白かったです。主人公が真ん中にいることによって、周りがどんどん発言していく。その感じが、俯瞰で見ていて楽しいと思いました。

――海松子というキャラクターをどのように受け止めましたか。

尾崎 今っぽいと思いました。いろいろな個性が肯定される時代だからこそ、海松子のようなキャラクターが魅力的に映るんだろうなと思います。

他人に興味を持つことが苦手なのかもしれないけれど、友人たちに誘われたら嬉しいし、誘われるのを待っているような節もあって、生き方を徹底しているわけではないんですよね。ちゃんとブレていて、そこが人間っぽくもある。もっと機械的に振る舞うことはできるはずなのに、そのちょっとしたブレがやけに人間くさいんですよね。

書かれていないこともすごく多いんだろうなと思いました。最初は海松子に対してどこか親目線で読んでいたけれど、多くは語られなかった部分が急に顔を出すことによって、「甘く見ないで」と言われているような感覚にもなりました。

ライブで一人立ち向かうとき、ドキドキも含めて楽しんでいる

――海松子はコミュニケーションを取ることが苦手な自分を変える気がないまま大学生になってしまったのですが、家族から離れ一人暮らしを始めることによって「一人ではうまくいかないな」ということに気づき始めます。尾崎さんご自身は、自分を守ってくれる存在から離れ、一人で世間と立ち向かわなければいけないといったときにどのような感覚を持たれましたか。

尾崎 そうした感覚は、ライブをするときに毎回感じています。ワンマンライブもそうですが、フェスでステージに立って何万人もの人に対峙し、「ひと言目、何を言おうかな」というときに特に強く感じます。何を話すかは決めずにステージに上がり、「途中で何も話せなくなる可能性があるな」と思いながら、どこかでそれを楽しんでいるところがあります。「自分がやらないと回らない」ということがあるのは本当に幸せなことだな、とも思います。

――『オーラの発表会』というタイトルの意味がわかるようになる終盤は、スピード感あふれる展開が待っています

尾崎 「オーラってこういうことだったのか!」と思ってから、もう残りのページが少なかったので、これをどのように回収するんだろうと思いながら読んでいました。でも、実際に自分の人生で起こる大事なできごともそれくらいなんですよね。「オーラ」について掘り下げて語られるよりも、あれくらいで物語が終わっていくことにリアリティを感じました。

表現としてちゃんと負けていないと魅力的じゃない

――先ほど、綿矢さんの小説は「歌詞みたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。尾崎さんご自身は、どのように“言葉”を見つけ出しているのでしょうか。

尾崎 自分は服にあまり興味がなくて、テレビに出るときなどはスタイリストの方に選んでいただいた服を着るのですが、その感覚に近いと最近思うようになりました。思ったことに一番近い言葉を選び、組み合わせていく。下がこの服だったら、上はこれがいいんじゃないか。そうした感覚で言葉を選んでいますね。

でも、やっぱり完璧な服はないんですよね。「なんでここに線が入っているんだろう」「Lサイズなのに丈が短いな」など、服に興味がないなりに「100%じゃない」という感覚はあるんです。言葉についても同じで、完璧に表せないからこそ、なるべく一番近い言葉を選び、他の人がいけないところまで近づきたいという思いがあります。

――小説家としても「言葉」と向き合っていらっしゃいます。クリープハイプとしての活動に限らず、小説を書くことがなぜ必要だったのか。ご自身はどのように理解されていますか。

尾崎 歌詞に関しては、「時間がなくて間に合わない」ということはあっても、全く書けないということはないし、かといって「こんなものを作ってやろう」と肩に力が入りすぎることもないので、「自分はやれる」という自信があります。でも、小説に関してはそれがまったくない。その両方を感じられることが、すごく恵まれているなと思います。

歌詞については、「自分は書ける」という自信を捨てる必要はないと思いつつも、表現としてちゃんと負けていないと魅力的じゃないとも感じています。そのことで悩んだときに、小説を書き始めたんです。

小説を書き始めると、常に「全然できない」という感覚があるので、そこにすごく救われています。「なんでできないんだろう」「全然認めてもらえないな」と思うことは、ある意味、表現者として健全な状態だと思っています。そんなときに、また歌詞を書いて、「歌詞では誰にも負けないな」と思う。そうしたベースが、ここ一年くらいでできてきた。小説を書くという行為のおかげで、音楽に対してもいいバランスで向き合えるようになったと思います。

【尾崎世界観さんプロフィル】
1984年、東京都生まれ。4人組ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。16年、『祐介』で小説家としてもデビュー。1月に単行本が発売された最新小説『母影』が第164回芥川龍之介賞の候補となる。

【綿矢りささんプロフィル】
1984年、京都府生まれ。2001年『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で第130回芥川龍之介賞を受賞。12年『かわいそうだね?』で第6回大江健三郎賞を受賞。20年『生のみ生のままで』で第26回島清恋愛文学賞を受賞。著書に『勝手にふるえてろ』『ひらいて』『意識のリボン』など。

『オーラの発表会』

著者:綿矢りさ
発行:集英社
価格:1,540円(税込)

ライター・翻訳者。「クーリエ・ジャポン」(講談社)編集部などを経てフリー。おもにカルチャー、ライフスタイルの分野で執筆。訳書に『パリジェンヌのつくりかた』(早川書房)など。
写真家、ビボット代表。福岡県生まれ。 代表的な作品に「空のない道」「CITY GAP」「ALIVE」「SUPER OLD」があり、現代社会で力強く生きる日本人の姿を追いかけている。 ポートレートを中心に広告、雑誌等での撮影のほか、職人やコンテンポラリーアートの制作現場の記録も大好物。