「都会で生き延びる」ための防災の基本。東京で働く女性が準備したいことは
地震や水害など災害のニュースに触れるたびに不安になるのに、どこから手をつけていいかわからず後回し……。それが私(30代)にとっての防災です。
一方で、長く暮らした地方都市からの転勤で始まった東京暮らしで、不安になる場面が増えました。
「いま大災害が来たら、私、やばいかも......」
移り住んで分かった、都会ならではの災害へのもろさ
不安の理由は、大都会の便利さによる暮らしの変化。
電車はすぐ来るし、駐車場代が高いから、自宅から職場への移動距離は長くなったのに、車を手放しました。
また、部屋が狭くなり、飲み物と食料をストックできる量が減ったことから、深夜までやっている近所のお店を「冷蔵庫代わり」にしています。
暮らしを振り返って、「都会ならではの災害へのもろさ」があると感じ始めました。
9月1日の「防災の日」を前に、不安になって訪ねた先は、整理収納コンサルタントの澁川真希さん。2011年の東日本大震災で、当時暮らしていた宮城県仙台市で被災。関東に引っ越してからも、日常の延長線上でできる防災・減災についてアドバイスを続けています。都会で働く防災初心者の女性の備え方を聞きました。
災害への備えは“自分の身を守るプロジェクト”
ーー大事なことだとわかっていても、災害への備えがつい後回しになります。
澁川真希さん(以下、澁川): 20代後半から30代って、ちょうど仕事で役割がついたり、新しい仕事に挑戦したりするころですよね。一人暮らしをしている場合だと、家事も自分で回さないといけない。忙しくて、防災にまで意識がいかないのは当たり前です。
なかには「避難所があるから大丈夫」と考えている方もいるはず。でも、残念ながら、避難所の備蓄量は、多くの避難者に何日にもわたって行き渡るほど十分ではないとされているんです。
「自分で自分の身を守る」。それが、防災の基本ルールです。
――「自助」ですね。でも、それを聞くとやっぱり後回ししたくなる......
澁川: そういう方は、「プロジェクト」としてとらえてみてはどうでしょう?
達成すべき目標は、「都会で生き延びること」。仕事感覚で、自分に必要なタスクを洗い出してみるんです。
モヤモヤを一つ解消すると、仕事やプライベートに集中することにもつながりますよ。
――なるほど! 生き延びる......それなら、まずは水かな。
澁川: そう、最初に用意すべきは、水です。自宅で避難生活をする場合、水は飲料用と調理用合わせて一人あたり1日計3リットル、一人暮らしなら3日分計9リットルは最低限準備してください。
食料は、がっつりそろえるのはハードルが高いので、カロリーメイトやinゼリーなどの栄養補助食品のまとめ買いをおすすめします。毎日バッグに1個忍ばせておけば、こばらがすいたときにつまめますし、日常で食べているとローリングストック(食べ慣れたものをちょっと多めにストックし、消費しつつ備えること)にもなります。非常時に慣れた味があると、いつもと同じように過ごせるので、被災によるストレスの軽減にもつながります。
ニュース配信事情による、防災情報の盲点
――水と食料は、通販サイトでポチポチしてクリアします!次は?
澁川: 住んでいる地域の情報収集も大事です。災害時にどんな危険があるかをチェックしましょう。
おすすめは都内の各地域の危険度がわかる東京都都市整備局のサイトです。
最近はニュース配信がパーソナライズ化されています。そうすると、日頃から自分が関心があるわけではない防災関連のニュースはこぼれる可能性がある。住んでいる自治体のHPにもアクセスして、自分の地域の避難所はどこにあるのか、どんなコミュニティがあるかなどを調べておくことも大事です。
――澁川さんは防災・減災の視点からの整理収納術を提唱していますね。
澁川: 自宅が散らかっていなければ、必要な物の場所はわかるし、復旧のための片付けも楽です。東日本大震災のとき、家で避難生活を送りましたが、日頃から整理していたからこそ、早めに日常に近い状態に戻れました。
被災して感じたのは、家のありがたさでした。家が安全ならそこで避難生活を送った方がいいし、マンションだと外に面する面積が少なく、機密性が高いので暖かい。体育館の共同生活がたえられないという場合もあります。
また、避難所での性犯罪が報告されています。洪水などで避難指示が出ている場合は別ですが、在宅避難や職場への避難という選択肢もあると、リスクを減らすことにつながります。災害時は女性とすぐわかるような服装をしないなど自衛策も大切です。
自宅が狭くて収納や整理が難しいという方には、最近は1箱から預けられるサービスがあるので、季節外のものを預けるのもおすすめです。
――災害が起きたときに、会社にいる可能性もあります。
澁川: 会社の備蓄の状況によって個人の備え方が変わるので、会社の状況は調べておきましょう。服装も大事です。ふだんスカートにヒールなどのきれいめファッションの方は、ロッカーに動きやすい服装となるスニーカーと靴下、ジーンズを用意しておくと安心です。
■澁川さんがバッグに常備しているリスト
・携帯電話充電器
・大きいポリ袋
・マスク
・ツールナイフ
・笛
・小型ライト
・生理用ナプキン
・髪留め
・リップクリーム
・ハンドクリーム
・眉ペンシル
・手指消毒ジェル
・ウエットティッシュ
・撥水加工風呂敷
日常に心地よくなじむ、防災グッズ3選
私も、澁川さんのリストを踏まえつつ、日常に心地よくなじむのに、いざというときに役立つグッズを選んでみました。
まるでネックレスのような防災笛
オフィススタイルにもなじみそうな上品な色合いのネックレス……これ、実は防災笛です。製作した福井県鯖江市の眼鏡メーカーは「作るからにはちゃんとした物を」と、がれきの中から救助犬に聞こえる周波数の出し方まで研究したそう。万が一閉じ込められたとき、体力を温存しながら助けを呼べます。
PLUSJACK
effe candy(エッフェ キャンディー)
¥ 3,800(税別)
用途いろいろ 撥水加工のおしゃれな風呂敷
撥水加工された風呂敷。災害時には、雨よけや防寒、防風ではおりにしたり、敷物にもできます。端を結べば、水の入ったビニール袋や物を運ぶことができる。なにより、コンパクトにたためて軽いので、いつもバッグに入れておけるのがうれしいポイント。
むす美
ちょうむすびシリーズ ミナペルホネン アクアドロップ 風呂敷 hanahane(撥水加工)
4,000円(税別)
温冷どちらもおいしい玄米のおかゆ
熊本地震の被災者の声を受けて、冷めても温めてもおいしいようにと作られた無添加調理の玄米のおかゆ。非常食としてだけでなく、会社や家でランチ用にストックしてもいいですね。味は「コーン」、「パンプキン」、「トマト」の三種類。公式通販サイト「ダイレクトイシイ」で購入可能。夏は冷製おかゆにするのもおすすめだそう。
石井食品
potayu(ぽたーゆ)
1袋350円(税別)
●取材後記
澁川さんのアドバイスをもとに防災を始めてみた私が感じたのは、自分のなかに「防災のフック」ができたこと。
「この格好で寝ていて、災害起きてもすぐに逃げられる?」
「わたし、トイレの清潔感の優先度高いかも・・・簡易トイレを用意しよう」
など防災について気にする場面が出てきました。
澁川さんが言っていた「始めてみると、防災のアンテナが一個たちますよ」の意味がわかりました。防災プロジェクト、随時更新しつつ、ぼちぼち続けようと思います。