まだまだ先?雁須磨子に聞く30代からの心構え「選択肢が減って楽になる」

40代の女性が直面する人生の悩みを描いた漫画『あした死ぬには、』(太田出版)。年齢を重ねることによる結婚観や身体の変化がリアルに描かれたこの作品を読むと、私たちがこの先、自分自身とどうつき合っていくのかという問いを突きつけられる気がします。作品を通して伝えたかった思いとは。著者の雁須磨子さんにお話をうかがいました。

「40代は大丈夫だよ」とは言いたくない

―――40代女性のリアルな人生の悩みを描いたこの作品、『あした死ぬには、』というタイトルからしてショッキングなものですね。どういう意味が込められているんですか?

雁: 人はあした死んでもおかしくないということですかね。私は40歳を過ぎたとき、不整脈になったんです。突然体が冷たくなって死ぬのかなって思いました。今だっていつ病気や事故に遭うか分かりませんし。

(C)雁須磨子/太田出版

―――作品も、主人公の42歳の独身女性が寝起きに激しい動悸に襲われるシーンから始まりますね。そして、汗の量やのぼせることが増えたことから、自分が「更年期障害」ではないかと疑うようになる。加齢による身体の変化に、不安を感じさせる展開ですよね。

雁: この作品では、単に「40代は色々あるけれど大丈夫だよ」とは言いたくないんです。それこそ明日死ぬかもしれないですし。ただ、リアルな悩みを描くことによってやみくもに不安を煽るわけではなく、今後こういうことも起きるよ、と先に知らせておくことが大事なのかな、と思っています。大変なことでも、先に分かっていた方が心構えもできて楽になることがある。分からないままでいる方が不安だと思うんですよね。

(C)雁須磨子/太田出版

もう恋愛と同化できない

――第1巻では主人公が同僚の既婚者男性に口説かれそうになったり、元彼からのメールに悩んだりと40代女性の恋愛模様も描かれていて、今後の展開が気になります。雁さん自身、40代になって恋愛や結婚への考え方は変わりましたか。

雁: 変わりましたね。20代のころは恋愛と同化する気持ちがあったんです。相手に何かしてあげるのが好きだったし、そこに時間を割くことも苦じゃなかった。今も苦じゃない。そういうのも好きな時もある。でも、やっぱり苦みたいな(笑)。仕事と恋愛を「両立する」、と考えるようになってしまった。もう恋愛と同化はできない。そもそも20代のころも、自分を抑えて無理していたのかな、と今なら思います。

30代はほとんど恋愛をせず、そのままだんだんと結婚願望もなくなりました。恋愛はしたいけれど結婚願望はない。

確かに周りがどんどん結婚していく中、なぜ私はそれを体験できないんだろうと思ったし、同級生に会えば結婚のことを聞かれます。いやもうあんまり聞かれないかな。聞かれても、なぜ?にはあんまり上手くは答えられない。最近また恋愛をしてみて結婚には向かないという答えが今はあるみたいな……。ダメな感じですかね。

(C)雁須磨子/太田出版

―――いえいえ、全然ダメとは思いません。むしろ自分の気持ちに正直になって、人生を楽しめるようになった面もあるのではないでしょうか?

雁: そうですね。自分の主張も伝えられるようになりました。今までは、友達との会話で腑に落ちないことがあっても、無意識に自分を納得させてやり過ごしていたんです。自分は会社員をやったことがないし、「世間はそういうものだ」と言われたら受け入れるしかなかった。でも40代後半になって、「私だって今までこうやって生きてきた!これも一つのモデルケースとして正解とすべきだよ!」とはっきり相手に伝えたんです。今まで思っていたことも全て吐き出して。

数日後、たまたま更年期障害の本を読んでいたら、「我を通すようになる」と書いてあって、自分のことか?と目を丸くしました(笑)。実際のところはよくわかりませんが、40代になって今まで蓄積された感情が、もういいんじゃない?!と自分自身を解放してあげたくなったのかもしれないですね。

(C)雁須磨子/太田出版

選択肢が減ることで楽になる

―――20~30代が多いtelling,読者からすると、40代になると色々なことが変化してしまう感じがして、不安を感じるところもあると思うんです。雁さんにとって、40代は楽しいですか?

雁: 楽しいですよ。自分のことが分かってきたので随分と楽になりました。自分に出来ることと出来ないこと、何を諦めるかがわかってきたので楽になったんです。

20代や30代は勢いだけで突っ走るようなガムシャラ感がある。私も漫画家としてブレーキを掛けずに、ひたすら走り続けました。途中、仕事のストレスが蓄積したり、親が事故に遭ったりと休むタイミングがあったにも関わらず、それでも突っ走る選択をしてきたんです。

でも、走っている時にはある種の万能感があっても、実は心の中は空虚だったりします。出産も仕事も、たくさん可能性があるとかえって迷いが生じて苦しくなる。40代になると必然的に選択肢が減ってきますが、そうなると今残っているカードの中で取捨選択する考え方になるんですよ。残ったカードでどれだけ自分がやりたいことに突っ込めるかを考えるようになります。

(C)雁須磨子/太田出版

――40代を楽しむために、今からできることはあるのか。最後に、telling,の読者にアドバイスをお願いします。

20代は自分にどんな可能性があるかまだ分からないでしょうから、色々なことをやってみるといいと思います。仮に傷ついたとしても、若い分、傷が癒えるのも早いはずです。30代は、私の場合はあまり人付き合いもせず家で漫画ばかり書いていましたが、今言えることは人に出会ったり映画を観たりと、なるべく感動する体験をしておいたほうがいいということ。自分のストックを増やしておくと、後からきっと何かの役に立ちますよ。

●雁須磨子(かり・すまこ)さんのプロフィール
福岡県生まれ。BLから青年誌、女性誌まで幅広く活躍。2006年に『ファミリーレストラン』(太田出版)が映像化。『幾百星霜』(太田出版)、『どいつこもいつも』(白泉社)、『つなぐと星座になるように』『感覚・ソーダファウンテン』(ともに講談社)など著書多数。

『あした死ぬには、 1』

著者:雁須磨子

(太田出版)

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。