岡本英子「忙しい私たちこそ動と静のバランスを。水引やお香は心の潤滑油」

和の装いって憧れるけれど、実はあまり触れたことがなく、毎日バタバタ……。そんな私たち、和ものは気持ちの潤いや精神の安定をもたらしてくれる。とお香と水引の講師、岡本英子さんは言います。どんなふうに日々に取り入れたらいいの?お話を伺ってきました。

和と洋の掛け合わせも楽しい!

―――岡本さんが今着けていらっしゃるアクセサリー、とても素敵ですね。和のものでも、着物ではなく洋服に合わせる見せ方もあるのですね。

岡本英子さん(以下、岡本): ありがとうございます。「水引」といって、祝儀袋や贈り物の包みにかける飾り紐なんですが、アクセサリーとして自分で作って、身につけています。私は必ずしも和に和を合わせなくてもいいと思っているんですよ。食事も和食やイタリアンもあれば、クリスマスや正月もある、寺も神社もキリスト教も、日本は全部混ざっていますよね。それが今の日本人のナチュラルな生活だと思います。
水引も同じで、和のアクセサリーでも洋服に合わせたっていいんじゃない?というのが私の考えです。

着物はもちろん素敵ですし、どんどん着て楽しんでもらえたら嬉しい。ただ一方で、敷居が高いと感じてしまう人がいるのも確か。また、せっかく着ても歌舞伎座辺りに行くと、着物ポリスって言ったかな(笑)、面識のないおばちゃんがいきなり後ろに来て、何も言わずに帯をビシ!!っと直していくらしいんです。びっくりしますよね。そういったことも「和ものは難しそう…」と思わせてしまうのかもしれない。でも、どの世界でもそうですが、入りにくい世界だから知らない、で終わってしまうのはもったいない。そんな固定概念を取り払いたいと思っています。

―――もともとライターとして仕事をされていたそうですね。途中から水引やお香の世界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?

岡本: 子どものころから香りに興味があって、大学の卒業論文でも香りをテーマに書きました。卒業後は一般企業に就職し、その後ライターとして独立。2012年に友人に誘われて、アロマの会社のPRや広報としても文章を書くようになったんです。小さい会社だったので、ホテルにも出向いて香りの営業もしていました。
海外のホテルは香りに対して理解は深かったのですが、日本のホテルは消臭したいという要望が多く、介入が難しかった。当時はそれを越える知識が自分になくモヤモヤしていましたが、日本にも香りの文化はあるはず!と頭の中にずっと残っていて……。その後、たまたまお香を作るワークショップに参加して、お香に興味をもちました。

元々はアロマから入りましたが、1つ和のモノに興味を持つと、お香や水引、着物、陶器、紐、書道…など、どんどん和の世界にリンクしていくんですよ。私が特に興味を持ったのがお香と水引でした。今はライター業とお香、水引の講師としての仕事が半々くらいですね。

―――そもそも水引やお香の魅力って何でしょうか?

岡本: 水引は意味を知っていくと楽しいですよ。ご祝儀袋のいちばん上にかけられている飾り紐はよく目にすると思いますが、それぞれの結び方に意味があるんです。たとえば“結びきり”という結び方は、紐を引けば引くほど結びが固くなって、ほどき直せない。そのため、結婚や葬式など一回で済ませたいものに使います。

反対に“蝶結び”は何度でも結び直すことができるので、何度繰り返してもいい、昇進などのお祝いごとの際に使ったりしますね。お悔やみごとでよく見るのは白黒ですが、黄色と白、紫を使う地方もあると聞きます。

また、お香はそのときの体調や精神状態、ライフスタイルによって好みが変化します。甘い香りが好きだったのに、半年後には清涼感のある香りを好む方もいらっしゃいます。お香の原料は漢方として親しまれているものも多いのですが、いつも気が立ったりイライラしたりしがちな人は、甘松(かんしょう)という癒し効果があると言われるものを無意識に使っていたという話を聞いたことがあります。一方、龍脳(りゅうのう)と呼ばれるものは痰を切ったり、呼吸器疾患の人に処方されたりします。

―――ライターと和の2つのお仕事はまったくジャンルが違うと思うのですが、どうやってバランスをとっているんですか?

岡本: ライターは交感神経が優位になっていることが多いんですよ。締め切り間近に長時間集中して書いたり、大幅に書き直したり……。そうやって少し気持ちが高ぶり気味になっても、水引やお香の世界に入ると、張り詰めていた気持ちが弛み、徐々に穏やかになっていく。ライターと和、交感神経と副交感神経のバランスがとても良く、おかげで以前に比べ体調が整って、心身のバランスが安定しましたね。

お香や水引を作る講座の生徒さんは30~50歳の女性が多いですが、「こんなに何かに集中する時間は他にはない」「作り終わった後、スッキリする」と仰ってくださることがあります。和の文化に触れる喜びを感じている方、人生の節目やお祝い事に家族や友人へプレゼントされる方を見ると嬉しいですね。

仕事のスキルなどとはつながらないし、将来、何に役に立つかは分からない。でも人と人の関係を結ぶ潤滑油になると思うんです。あまり構えずに、 自分が心地良いと思う香りや水引を、ひいては和のものを楽しんでもらえたらなと思います。

【編集後記】
水引やお香ってもっと気軽に楽しんでいいんだ!と思いました。
そもそも、和のものは難しそうと思い込んでいたのは自分自身で、勝手に視野を狭くしていたのかも……。例年、1万人以上が来場する、着物や和モノを楽しむイベント「東京キモノショー2019」は2019年5月2日~6日まで都内で開催。岡本さんも参加されます。当日は着物でも洋服でも自由に参加して楽しめるとのこと。
平成から令和に変わり、新しい年号、新しい自分に出会えるかもしれません。
是非足を運んでみてはいかがでしょうか?

●岡本英子さんプロフィール
フリーライター/お香・水引講師

1973年、東京都生まれ。東洋英和女学院大学卒業後、化粧品専門のマーケティングリサーチ会社に入社し、2004年フリーライターとして独立。2012〜2014年にはAir Aroma Japan株式会社と業務委託契約し、PRやアロマ講座講師などを担当。2015年より「薫物屋香楽認定 香司」として、お香づくりの講座を開催。また、水引の美しさに魅了され、アクセサリーをはじめとした水引細工を手がける。 現在、香と水引「香紡縁」主宰として活動中。漢方養生指導士初級。

東京きものショー
香紡縁

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。