京都のてしごと「西陣絣(がすり)」って知ってる?

先染めした糸を組み替えずらすことで模様を作り出す絣(かすり)。この西陣絣の魅力を伝え、次の世代につないでいくことを目的のひとつとして活動する「いとへんuniverse」の工房にお邪魔し、お話を伺って来ました。

「絣」とは?

私たちが普段目にする着物の模様は、様々な製法で作られています。
「染物」は、文字通り、筆などで絵柄に色を差したり、布に糸を巻きつけ部分的に染めることで形を残す絞り染めも、馴染みがあるかと思います。
一方の「織物」は、染め上げた糸で柄を織り上げていきます。京都西陣発祥の「西陣織」。「西陣織」と聞くと、きらびやかな帯の織物を想像する人もいるかもしれません。しかし実は「西陣織」には、「綴(つづれ)」や「経錦(たてにしき)」など様々な織り技法が存在しており、「西陣絣」はその技法のうちのひとつです。

糸そのものを染め分けることで、淡さや繊細さが出る

「西陣絣」は庶民のカジュアルウェアだった

絹糸に紙を巻きつける部分、巻き付けない部分の幅を巧みに分け、糸を染め上げる。その糸を組み替えたりずらしながら経糸として並び上げていくことで文様を出す。糸を染める段階で、どんな柄になるかを考え、逆算して紙を巻きつける。
この絣加工の職人が、葛西郁子さん。青森県出身、大学時代に京都の大学で「糸」そして「織物」の魅力に魅了され、職人の道へ。現在この西陣絣の糸を作る技術を持っている職人さんは6名に減少。伝統伝承の危機に瀕しています。

西陣織の作業は完全分業。染めや織りの作業は別の職人さんが行う

ポリエステルに柄をプリントしただけの安易な着物でいいのか…

職人が減っている大きな要因は、「絣模様など織りの着物は格が高くない」という見方をする風潮にあるといいます。絣の模様の着物は、その素朴ながら味わいのある文様から、かつては庶民たちのカジュアルウェアとして着用されていたもの。フォーマルな場や華やかな場で着る染めの着物との住み分けがありました。それが、時代とともに「普段着として着物を着る」という文化自体が衰退し、着物は正装として着用されることの方が多くなっていきました。広報の白須さんはこう語ります。

「本当に着物を知っている人が見れば、絣の技術の精巧さやその価値は理解してもらえます。しかし、ルールを重んじる人からすると、「こんなフォーマルな場に場違いな着物を着ているわ」となります。普段のおでかけに着物を着る機会が無くなってしまった現代では、よほどの着物好きの人でないと、“高い技術のふだん着”というものを着る機会が、ないんです」

呉服業界の生き残り変遷の中で、華やかなものに希少価値をつけ高い単価で売っていく流れと、ポリエステルのようなものに柄をプリントしただけの安価な着物を提供する流れのちょうど中間、価値と手間がある割にかしこまった場で着用しづらい、という点が、絣の着物の存続に影響を与えてしまったのだといいます。

様々な形で「糸」「織物」に関わる若者で結成されたユニット

織師である大江さんが、そんな現状を打破すべく、京都でライター活動をしていた白須さんを広報に、そして葛西さんに声をかけ「いとへんuniverse」という団体を立ち上げました。

発足から5年、現在は染色作家でありアクセサリーも手がける岡部さんをはじめ、多彩なジャンルのメンバーを迎え、「西陣絣」だけに止まらず、手織りや手染めの良さを発信していく活動をしています。

ライターの白須さん、西陣絣加工職人の葛西さん、染色作家の岡部さん。

アクセサリーで気軽に取り入れる「西陣絣」

現在は毎月第2土曜に工房をオープンし、メンバーとの交流や、作業スペースの見学に応じています。また、京都の大学での講義や、メーカーとのコラボ商品開発などにも努めているそう。

「意外だったのが、織物に関係ないような、歴史学を専攻している学生や茶道などの別の伝統芸術に興味をもっていた学生が、この西陣絣に興味を持って『何か手伝えることはありませんか!』と声をかけてくれることですね」(葛西さん)

工房では着物ではなく、西陣絣の手織りストールやバッグなどの洋装品、岡部さんが絣のはぎれや端糸で作るアクセサリー「hashi*ito」などが購入できます。イアリングは2800円からと手に取りやすい値段です。
「正直こうした小物では利益は見込めません。ただ、現代の暮らしに馴染む製品を作ることで若い方に取り入れてもらえる。まずは知ってもらうこと。『絣』のこの繊細な技術が、絶滅しないよう、広めていくことが大切だと考えています」(白須さん)

細い筋のような模様は絣ならではのデザイン。アクセサリー「hashi*ito」 ブローチ(右)1500円、フリンジ・くるくるイアリング&ピアス(中)3300円、ボタンイアリング&ピアス(左)2800円

パリコレのランウェイに絣のウェア

また、葛西さんの本業では、イッセイミヤケのコレクションに3シーズン連続で絣の生地が採用され、パリコレへの進出も果たしました。

葛西さんがくくった糸で織りなされてた絣の風合い、柔らかな絹の質感。先人たちが暮らしの中で愛した、繊細な技巧を気軽に可愛く取り入れ、京都を感じてみるのはいかがでしょうか。

●いとへんuniverse
西陣絣の魅力、手織りや手染めの良さを伝え、次世代へとつないでいくために活動するユニット。織師、西陣絣加工師、染色作家、ライターなど多彩なメンバーで構成されている。アクセサリーはいとへんuniverse工房、ホームページのほかsenbon Lab./センボンラボ(075-468-1263)でも取扱い中。ホームページ:http://itohen-univers.com

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
カメラマン。1988年兵庫県生まれ。 ビジュアルアーツ専門学校 大阪校 写真学科を卒業。株式会社 博報堂プロダクツにてアシスタントフォトグラファーとして就業。 現在フリーランスとして関西を拠点に活動中。