「愛人顔」といじられ続け…容姿の呪縛に苦しんだ29歳女性が体験した修羅場
「小さい頃から、『愛人顔』といじめられていました」
そう語るのは、女優の奥菜恵さんに似た端正な顔立ちの香川みずきさん(仮名・29歳)。なぜか、周囲からふざけ半分に「愛人顔」といじられることが多く、そのことにずっと強いコンプレックスを持っていたと語ります。
「小学校高学年のころから、クラスの中で『愛人顔』と言われてからかわれるようになりました。高校生になっても、『愛人やって稼いでいるんでしょう?』などと根も葉もないことを言われて、クラスの中でいじめのターゲットとなり、シカトされたり、校門で待ち伏せされたりしました。本当に酷い体験で、今もトラウマになっています」
頻繁にいじめられていたせいか、異性に対してもオクテな性格になってしまったと語るみずきさん。それでも17歳の時、一念発起して好きなクラスメイトに告白しましたが、あえなく撃沈。さらに、中学時代から10年ぐらい片思いを続けていたその相手が自分の親友と付き合っていたことも判明し、その親友とも話せなくなってしまったといいます。
人目を引く端正な顔立ちによって青春を謳歌していたかと思いきや、あまりにも薄幸なエピソードが続く10代。短大に進学した後も、みずきさんにとって異性関係はずっと鬼門でした。
「短大時代にバイトしたイタリアンレストランでは、不動産や金融関係の社長からご飯に誘われることが多く、そのたびに断っていました。同僚スタッフからは、『あなたを愛人にしたい、と言っているお客さんがいっぱいいるよ』と聞いて、ショックを受けた。結局、そのバイトはその後すぐ辞めてしまいました」。
またもつきまとう「愛人顔」の呪縛。みずきさんは、「もう自分には恋愛はできない」と思い込んでいたと言います。短大を卒業後、地元近辺の著名なメーカーに就職した後も、負の連鎖は止まりませんでした。
「ある日社内で、生産課の8歳年上の優秀な先輩から『好きか』と聞かれたので、冗談だと受け取って『はい』と、あっけらかんと答えてしまいました。周囲も当然、冗談だと思っていて、誰一人本気にしていなかったと思います」
ところが、ある日残業の後でその先輩から食事に誘われ、部署内の飲み会のノリでついていくうち、居酒屋の個室に通されたとか。
「飲んでいるうちに先輩は私の手を握ってきて、『好きだ』と告白されました。先輩は『彼女とうまくいっていないんだ』と言って、キスしてきました。まさかと驚きましたが、そのまま押し倒されてしまって……」
翌日から、先輩は一人暮らしを始めたばかりのみずきさんのアパートに入り浸るようになりました。みずきさんは「逆らえなくなってしまった。一種のマインドコントロール状態だったのかも」と振り返ります。
「会社でもアパートでも一緒なので、一人になれないんです。先輩が命令してくると拒否できない。彼が避妊具をつけなくて、妊娠したらどうしようかと不安でも、言えない。しかも先輩は、『うまくいっていない』と言っていたはずの彼女と別れる気配も一向にない。不満がたまる一方で、先輩に嫌われないように従ってしまう自分がいる。訳がわからなくなりました」
自己矛盾にさいなまれ続けていたある日、みずきさんはショッキングなことを知ってしまいます。総務部の女性の何気ない一言で、先輩が既婚者だとわかったのです。
「既婚者だとバレてからも、先輩は横暴でした。私は先輩にとって自分の欲望を満たすための都合のいい道具だったんだとわかっても、逃げられなかった。『愛人顔』がずっとトラウマだったのに、とうとう本当の『愛人』になってしまった。惨めでした」
だが、そんな2人の関係にもついに終わりがやってきた。とうとう先輩の妻に関係が露見したのだ。内心、予感していたことだったが、追い詰められた先輩が妻と別れてみずきさんを選ぶことはなかった。
「その時に『この人は私を助けてくれないんだ』とわかって、とやっと別れを決意したんです。既に社内では噂が立っていました。先輩が来なくなったアパートで彼のものを捨てているうちに、ふっと日光に行きたくなり、一人旅に出ました。以前から一目見たかった華厳の滝の雄大さに感動すると『人前に出る仕事がしたい、芸能界で働きたい』という自分の本心に気づきました」
ずっと自分の呪縛になっていた『愛人顔』を逆手にとって、芸能の仕事をしよう。そう決意すると、みずきさんはすぐに退職。時短の仕事で働きながら演技の養成所に通いました。25歳での遅いスタートでしたが、最初の仕事のコスプレのイベントで事務所にスカウトされたことがきっかけで、全日制の学校に入学。2年間通ってから、小さな役でしたが、念願の女優デビューを果たしたのです。
「今は、他人の目を気にしなくなりました。自分が変わったことに気づくと、心の中から喜びが湧き上がってきました」
好きな道を選んだことで、心理的なプレッシャーを感じていた母親との関係も変わったと語ります。
「母は、私が容姿のことでいじめられていた頃、最初のうちは親身になってくれましたが、次第にヒステリックになって『あなたが弱いから、いじめられるんでしょ!!』と、私をしかりつけるようになりました。それからはいつも、母親の顔色を伺っていたんです」
期待通りにできないとヒステリーを起こす母親に恐怖を感じ続けていたみずきさん。今回、前の会社を辞める時にも母親から罵声を浴びせられたと言いますが、母親の反対を押し切って退職を決断しました。
「それからは、以前ほどの恐怖を母親から感じることも減り、適切な距離感をもって接することができるようになったと感じています。生き残るのが厳しい芸能界で将来に対して不安もありますが、自分の思い通りに生きると決めたら、楽になりました」
清々しい表情で語ったみずきさん。一度どん底を体験したことで、長い間自分を苦しめていた「愛人顔」という呪縛から完全に解放されたようでした。