Presented by ルミネ
サステナブルバトン2

「“エシカル”という言葉を使うことで、抜け落ちてしまう何かがある」コミュニティ・コーディネーター松丸里歩さんが考えるエシカルのかたち

サステナブル・エシカル業界で活躍する人にバトンをつなぎインタビューする「サステナブルバトン」の2シーズン。大塚桃奈さんからバトンを受け取ったのは、大塚さんの大学時代の親友である、松丸里歩さん。コミュニティ・コーディネーターとして、食を通して、地域との接点を見つけるさまざまなプロジェクトにかかわっています。松丸さんが考える、新しいエシカルのかたちをうかがいました。
留学で気づいた「ファッションを通した社会貢献」。徳島県上勝町でゼロ・ウェイストに取り組む、大塚桃奈さんの新たな挑戦とは 「サトウキビストローを販売するだけでなく、回収し堆肥化までが本質」4Nature代表・平間亮太さんが取り組む、人と人とのエシカルなつながり

●サステナブルバトン2-02

大塚桃奈さんから松丸里歩さんへのメッセージ

松丸さんとは、トビタテ留学を機にそれぞれの留学先であるイギリスとスウェーデンを行き来しながら、衣食住というキーワードをもって「サステナブルであること」について共に探求してきました。帰国後には友人と3人で「Connecting Dots, Collecting Distances」という活動をはじめ、留学報告会や末吉里花さんの絵本翻訳プロジェクトを立ち上げるなど、学生時代を通じてワクワクした気持ちを共有しながら、生活をよりよくするアクションを一緒につくってきた大切な仲間の1人です!

――「吉祥寺ハニカムプロジェクト」や「エシカル就活―ETHICAL SHUKATSU―(以下、エシカル就活)」など、複数のプロジェクトにかかわり、「COMポスト資本主義」と題して自らポッドキャストで発信も行っている松丸さん。プロフィールにある「コミュニティ・コーディネーター」とはどんなお仕事ですか?

松丸里歩さん(以下、松丸): 仕事の内容は、コミュニティ、つまり地域に根差した活動や、地域の繋がりを強めるような役割。私がコミュニティに関して強い関心があるのは、ずっと都市で生活しているからかもしれません。大阪出身で東京在住、留学先もロンドンと、大きな都市ばかりで暮らしながら、ずっと近所づきあいの希薄さを感じていました。なんとかゆるやかなつながりを取り戻せないかと、大学生のころからもやもやしていたのが動機になっています。

食を通して地域との接点が見つかると、その背景を考えるきっかけになる

――都市部の希薄な人間関係のなかで、どのようにしてコミュニティの強化を図るのですか?

松丸: 今かかわっているプロジェクトのひとつ「吉祥寺ハニカムプロジェクト」は、吉祥寺を中心に東京都の西側エリアで養蜂をしている金子裕輝さんが、蜂やはちみつなどを通じて地域の方々とつながりたいという思いから生まれたものです。

その方とは、大学時代から現在まで携わっている青山ファーマーズマーケットで知り合いました。当時、若手農家と農業に興味を持つ学生をつなぐイベントを企画して、そこに参加していただいた1人です。通っていた大学が三鷹にあり、日常生活を送る地域ではちみつが取れることも単純におもしろいなと。地域との接点が見つかると、ただモノを消費するだけでなく、その背景を考えるきっかけになると思います。

実際にマルシェを開くと、交流の場も創出できる。マルシェには地元の方が作ったものが並ぶので、コミュニティの繋がりが深まります。ほかにも、ミツバチの生態などを知る機会も設け、環境教育にもつながる……といったように、コミュニティの関わり方が多方向に広がっていくんです。

――ファーマーズマーケットのインターンをしていたということは、もともと「農」に関心があったのですか?

松丸: 農業より食への関心が先でした。高校生の時、語学研修で3か月ほどカナダにホームステイした経験が大きかったですね。ホストファミリーの作る料理はおいしかったけれど量が多くカロリー過多、栄養バランスにかけているなと感じました。

ある朝、食べきれず残ったパンケーキを何の躊躇もなく捨てているのを見て、はっとしました。そこから、栄養バランスやフードウェイストについて考えるようになり、その流れでオーガニックを知りました。調べてみると有機栽培の食材はおいしくて体にいいだけでなく、農家さんにとってもメリットが多いと分かりました。また、土壌の微生物なども豊かになり、生物多様性の維持にもつながる。食の奥深さにますますのめり込んで今があります。

――大学では食について学んでいたのですか?

松丸: 私が通っていたICU(国際基督教大学)は、入学時は教養学部のひとつだけで、2年の終わりにメジャーと呼ばれる専攻を決めます。専攻を何にするか迷っていたときに、説明会で出会ったのが「社会学」でした。先生方がとにかく情熱的(笑)。学びを進めた先に行きついたのが社会学だと熱弁をふるわれていて、どんなものかと興味が湧いて専攻したら、まんまと沼にハマりました(笑)。

社会学のなかで、とくに刺さったのは「当たり前を疑う」という考え方。たとえば、ジェンダーについても、女性の役割はこうで、こう振舞わなければならないと思っていたけれど、それは、ある時点で人間が恣意的に決めたものにすぎない。そういった考え方に衝撃を受けました。

イギリスで学んだ、フードウェイスト

――その後、社会学と食がどう結び付いたのでしょうか?

松丸: 社会学は範囲が広く、食と社会学に関する授業もあり、それを専門にする先生のゼミに入っていました。

留学先のロンドンでも、食と社会学の授業があり、より興味を持ちました。フードウェイストの課外授業で、クラスメートとペアを組んで食料品店に賞味期限切れの食材を譲っていただき、それ使った料理を誰かに食べてもらう実践をしました。食べた後に種明かしをするので、ドッキリみたいな感覚もありますが、どれも普通においしく食べられます。

イギリスでは、果物にも賞味期限があり、試しに10日過ぎたブドウを食べてみたことも(笑)。「さすがに無理かな」と戸惑ったけれど、おいしくいただきました。いずれも自己責任にはなりますが、自分の頭で「これ、本当にもう食べられないのかな?」と考える必要があると気づかせられました。

――はじめは点と点だった学びや経験が、次第に線で結ばれていったのですね。

松丸: 高校生の頃に「食」に興味を持ち、だんだん視座が広くなった感じです。目の前にある食べ物の「おいしい」の先に何があるか。少し想像力を働かせてみると、いろいろなことが見えてくる。農業の問題やフードロス、畜産の環境負荷など、食は社会の問題と密接につながっています。いきなり、環境や社会の問題について話し始めてもぽかんとされてしまいますが、「食」が入ることでぐっと身近になる。身近だからこそ、逆にポジティブな影響を与えることもできます。そこに、食のおもしろみや可能性を感じます。

――大学卒業後に企業や組織で経験やキャリアを積んでからフリーに転身する人が多いなか、新卒でフリーになって大変ではありませんでしたか?

松丸: 大学卒業後、1年間はファーマーズマーケットの社員として働いていたのですが、もっと様々な事柄にかかわりたいと思うようになって。もともと自分の興味が赴くままいろいろな人と繋がり、それが仕事になっていき、今ではありがたいことに経済的にも自立できています。少し働きすぎるかなと思うときがあるので、気を付けたいです(笑)。

いろんなところに接点を持つことで、人やアイデアとのつながりが生まれます。そうやってコラボレーションをして、インスピレーションが生まれるなかで、社会をよくしたいという大きな目標にアプローチできる瞬間があるのではと期待しています。

また以前から、就職活動をして新卒で企業や組織に就職するというパターンへの違和感もありました。自分なりに新しい働き方はないかと、実験的に行っている過程でもあります。

「エシカル」は使い方が難しい言葉

――「エシカル就活」に参画したのも、就活状況を変えていきたいからですか?

松丸: 日本総研が行った若者の意識調査※では、全国の大学生の約6割がSDGsを認知し、環境問題や社会課題に取り組んでいる企業で働く意欲がある大学生は半数以上を占めてるといいます。ただ、今ではエシカルやSDGsを謳っている企業も多く、真偽が伝わりにくいことも。「エシカル就活」代表は現役学生で、社会課題を軸に就職活動を始めたものの、企業探しに苦労して、学生起業をしました。私たちが一社ずつ話をうかがいながら総合的に判断して、思いのある学生たちをつなぐ手伝いをしています。

株式会社日本総合研究所:若者の意識調査(報告)― ESG およびSDGs、キャリア等に対する意識2020年)

――「エシカル」という言葉が浸透するかたわら、見極める目も必要ですね。

松丸: 言葉は難しいなと感じます。「サステナブルバトン」の初回に登場した末吉里花さんが、エシカルという言葉を用いて活動を始めたときは、日本ではほとんど知られていなかった言葉です。だからこそ、エシカルやサステナブルを自分なりに解釈し理解していく必要がありました。

その人なりにしっかり考えて、「エシカル」を使っている場合もあれば、なかば宣伝文句として使われていることもあると感じます。「エシカルな〇〇」と言われることで、かえって抜け落ちしまうなにかがある。そこで、私は「エシカル」「サステナブル」という言葉をほかの言い方に置き換えるようにしています。

――なるほど。では、松丸さんにとって「エシカル」とは?

松丸: そうですね……。私にとってのエシカルは、完全な平等は難しいにしても、環境や人など、どこかに負荷が過ぎていないちょうどいいバランスを探していくことかなと思っています。

ひとつの商品をみても、生産する企業や消費者に都合よく作るために、途上国の人たちが劣悪な環境で働いていることもあります。先進国に暮らす私たちの目の前の風景はのびのびとしていますが、少し遠くを見ると伸ばしたしわが集まった場所があり、そこに暮らす人たちが苦しんでいる。また、環境に配慮せず暮らしていたら、わたしたちの子どもや孫どころか、近い将来、環境が悪化しすぎて暮らせない可能性だってありますよね。つまり、利他的にすることが、自分のためでもあると考え直す必要があります。

こういった活動をしていると、冷ややかな眼差しとともに「どうしてそこまで利他的になれるの?すごいね」と言われることも。でも、自分たちが幸せに暮らすと同時に、周りの人が幸せであるような環境や経済状況のほうが、もっと気持ちがいいなと思うからこそ、続けられるのです。

ビジネスの在り方をソーシャルにしていきたい

――エシカルやサステナブルは遠くの出来事でなく、自分のよりよい生活につながると思うと、見方が変わるかもしれませんね。

松丸: そうだといいですね。社会学的思考ではないですが、私たちはこれまでは、頑張って働いてたくさん儲けるとか、お金を使ってどんどん新しいものを買うことが美徳とされ、疑わずに生きてきました。でも、果たしてそうなのかと。

私の好きな考え方は「資本には8つの種類がある」というもの。それは、人と自然が共存するためのデザイン的な手法、パーマカルチャーがもとになっています。社会や物質、金融のほかに、人とのつながりや経験、精神、文化なども資本だとする考えです。現代において、お金は必要ですが、人とのつながりや仕事を通して得る経験などが私を豊かにしてくれるので、そのバランスを大事にしながら働いています。

そういう意味で、前回登場した大塚桃奈さんが関わっている、徳島県上勝町の「ゼロウェイスト」の活動は素晴らしいですよね。コミュニティにとって、ちょうどいい暮らし方をみなさんで実践している。ローカルな経済の在り方を模索し地域活動が盛り上がっていけば、大きな枠組みは変えられないにしても、自分たちが関わるコミュニティや自分が豊かになることを示してくれています。

――最後に、この先さらに挑戦したいことは何ですか?

松丸: ビジネスの在り方をソーシャルにしていきたいです。いまもソーシャルビジネスはありますし、企業なりに理念を掲げていますが、もう一歩先に踏み出すときかなと思っています。「社会をよくするためにビジネスをする」という在り方と、企業が経済活動を行うのを、並行してより強められないかと考えています。先ほどお話した「エシカル就活」もその想いがあって取り組んでいます。

いまは、多くの環境活動家がビジネスを批判し、一方ビジネス側はそれに反発するといった対立的な構図で、残念だなと感じています。活動内容や世代間で対立するのではなく、思いやアイデアを持つ若い世代が、スキルや人脈を持つ先輩たちと協働しながら進む方がもっといい未来に近づけるはず。いろいろな人とのつながりのなかで、ビジネスや働き方として、ほどよいものを作っていけたらいいなと思っています。

 

■松丸里歩(まつまる・りほ)さんのプロフィール
1998年、大阪生まれ。社会学的思想との出会いや都市生活の経験から、食やコミュニティといった日常の要素と社会・環境問題のつながりに興味を持つ。国際基督教大学在学中に官民協働留学奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN」多様性人材コース8期生としてロンドン大学ゴールドスミス校へ留学。 同年に立ち上げた、食から社会・環境問題を捉えるメディアSHOCK TUCKのほか、Allesgood、青山ファーマーズマーケット、吉祥寺ハニカムプロジェクト、COMポスト資本主義など、パラレルワークを通じて循環型の社会づくりに取り組む。

留学で気づいた「ファッションを通した社会貢献」。徳島県上勝町でゼロ・ウェイストに取り組む、大塚桃奈さんの新たな挑戦とは 「サトウキビストローを販売するだけでなく、回収し堆肥化までが本質」4Nature代表・平間亮太さんが取り組む、人と人とのエシカルなつながり
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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