アンヴデットの進化するエクレア ―究極のスイーツ02
●スイーツエディターが選ぶ、究極のスイーツと、あのお店
02 アンヴデット(東京都江東区)
みなさんは、エクレアにはどのようなイメージをお持ちですか?
最近は、デパ地下などでも、カラフルでモダンなエクレアを多く見かけますよね。
小さなデコレーションケーキのように繊細に飾られたエクレアはギフトとしても人気で、食べるのがもったいないくらい!
「華やかで、可愛いお菓子」というイメージが定着しつつあります。
けれど、フランス生まれのエクレアは、もともとは、庶民的でどちらかといえば地味なお菓子です。
フランス菓子の中では、定番中の定番。パティスリーはもちろん、パン屋でも販売していますし、カフェやサロン・ド・テのメニューには必ずのっています。フランスで、シュー生地を使ったお菓子の代表といえば、エクレアでしょう。
思い出のエクレア
エクレアは、フランス語で「エクレール(稲妻)」といいます。19世紀初頭に、フランスのパティシエ、アントナン・カレームが生み出したという説が有力のようです。名前の由来は、焼いたときにできるシュー生地の割れ目が稲妻に似ているからとか、中のクリームが飛び出さないうちに稲妻のように素早く食べなければいけない、など、諸説あります。
細長く絞って焼いたシュー生地の中に、カスタードクリームを詰め、上にはフォンダンと呼ばれる砂糖のペーストを塗って仕上げるのが、クラシックなスタイル。味はコーヒーかチョコレートの2種類と決まっていました。
今から20年以上前、私がフランス・パリの料理学校の製菓コースに通ったときに、実習でつくったエクレアも、この2種類。それが、こちらの写真です。
見た目はやや無骨ですが……食べたときの衝撃は今も忘れられません。
しっかりと焼き込んだ厚みのある香ばしいシューから、とろりとあふれ出るみずみずしいコーヒー味のカスタードクリーム。ここにフォンダンの甘さとほろ苦さが加わり、濃厚で印象深い味わいは日本では食べたことのないものでした。「これがフランスの味!」と感動し、その後、あちこちのお店でエクレアを食べ歩きました。今思えばとても甘いお菓子で、食べる数に比例して体重も増加していきました。
エクレアの魅力について考える
クラシックなエクレアの魅力は、しっかりと粉の味がするパリッと香ばしいシュー生地と、卵の風味豊かでなめらかな舌触りのカスタードクリームです。日本では、以前はシューにはあまり焼き色を入れずに、淡い色みに仕上げるものが多かったのですが、最近はフランス流に、割れ目にまでしっかりと焼き色をつけたものが多くなりました。
現在のようなモダンなスタイルのエクレアは、2000年代にパリのパティシエが手がけてブームとなり、日本にも広がりました。中のカスタードクリームもフルーツ味だったり、チーズを使っていたり、何層にも重なっていたり、クリームではなくムースだったりと、とても多彩。惣菜風の塩味のものもあり、遊び心にあふれています。
今回のエクレアは、これ!
今回ご紹介するエクレアは、東京・清澄白河のパティスリー「アンヴデット」のオーナーシェフ、森大祐さんのもの。オレンジのさわやかな味わいにキャラメルのコクが加わる、こだわりの1品です。ちょうどパリでモダンなエクレアが登場した頃に現地で修業をしていた森さんは「エクレアの表現の幅の広さに刺激を受けた」そう。
「シュー生地とクリームというシンプルな構成のエクレアは、フランスの伝統菓子の中でもアレンジやバリエーションをつけやすいお菓子だと思います」と森さん。
シュー生地を器に見立て、底にはキャラメルソースを敷き、オレンジの皮とピュレを混ぜたカスタードクリームをたっぷりと。ほんのり塩キャラメル味のブロンドチョコレートのプレートでふたをし、上にはホワイトチョコレートと生クリームを合わせて泡立てた、キャラメル風味のガナッシュ・モンテを絞り、2層仕立てに。「キャラメルをアクセントにすることで味に深みが加わり、シュー生地との相性がぐんと高まります」(森さん)。可愛らしい見た目とは裏腹の主張のある味わいに、森さんのフランス菓子への思いを感じます。
- ●今回ご紹介したお店
- アンヴデット
- 住所:東京都江東区三好2-1-3 電話:03-5809-9402
(次回に続く)