写真家・西本喜美子(90歳)

撮りたいものがありすぎて、老後が足りない。

写真家・西本喜美子(90歳) 自身がゴミ袋に入ったり、車にひかれたりする写真がSNSで話題となり、「自撮りおばあちゃん」として人気を呼ぶ西本喜美子さん。2016年にフォトエッセイ本『ひとりじゃなかよ』を出版し全国で個展や講演会を開くほか、17年にはアドビシステムズ社のアートディレクターを務めました。本日(5月22日)卒寿(90歳)を迎えてますますアクティブに活動中の自撮りおばあちゃんの、元気と魅力の秘訣とは――

初めて展示したときは「老人虐待だ!」って苦情が入ったみたい

 写真を始めたのは72歳になってから。アートディレクターの長男が、地元の熊本で写真塾をしていて、その生徒さんに誘われたのがきっかけです。「お母さんも一緒にやってみましょうよ」って。面白そうだし、やってみようかなって。それまで、カメラに触ったこともなかったんですけどね。

 お友達に会えるので、月に2回の写真教室がとても楽しみになりました。そこで、セルフポートレート(自撮り)の宿題がでて、何をやったら面白くなるかな~と考えてやったのが、ゴミ袋に入って撮影するということでした。

 写真塾の生徒さんはみんな個性的なので、私の作品が特別、個性的だったわけではないと思うんですけどね。でも、初めて展示したときは「老人虐待だ!」って苦情が入ったみたいで、翌日から「本人撮影のものです」と注意書きを書いてもらうことにしました。

自撮りおばあちゃんの写真ギャラリーはこちら

 15年に熊本県立美術館で初の個展を開いたところ、ツイッターで話題になったみたいです。それで、マスコミが取材に来るようになりました。アイドルやアナウンサー、テレビで見る人たちと写真を撮らせていただきました。本当は、人の写真を撮るのが苦手なんです。遠慮しちゃって。「こういうポーズで」とお願いするのが申し訳なくなっちゃうんですよね。

本人提供

実は、カメラのことは全然わかんない

 きれいなもの、かわいいもの、変なものを撮るのが好きです。友達にも手伝ってもらって、自宅にも写真スタジオをつくってしまいました。塾で宿題がでたら、3時間くらいこもって撮影しています。

 実はカメラのことは全然わかんないんです。わかるのは、このボタンを押したら撮れるっていうことだけ。それで個展まで開いているんだから、おかしいでしょ。難しいことなんかわからなくても、写真は楽しめるんですよ。まだまだ撮りたいものがたくさんあるんです。老後が全然足りない。

 好きなことは夜遊び。寝るのは早くとも22時くらいですかね。友達と遊び歩いている時は、深夜1時に帰宅することもありますよ。行きつけのバーがあって、最後は絶対ここに寄って梅酒のソーダ割りを飲むんです。「いつものください」って。週に1回は来てますね。お酒もたばこも我慢しないのが元気の秘訣です。朝は遅いです。10時に起きれば良い方ですかねえ。

20、30代は子育てに一生懸命だった。楽しい時代でしたね。

 生まれはブラジル。両親が農業指導をしていたんです。8歳で日本に戻ってきて、小学校6年生の時に、戦争が始まりました。女学校時代は空襲ばっかりで、全然勉強していないです。私は今でも好き嫌いなく、何でも食べるんだけれど、この時の経験があるから。ご飯は食べられるだけでありがたいからね。

 それから、友人に誘われて美容学校に行って美容師の資格をとりました。その後は、全国を飛び回る弟にあこがれて競輪選手に。引退して主人と結婚。主人はすごい優しくて、何でも自由にさせてくれました。20、30代は子育てに一生懸命だった。楽しい時代でしたね。

 でも、家の中にいるよりも外に出たいっていう気持ちはありました。だから、今は毎日何か予定をいれていますね。写真塾だったり、運動する施設に行くだったり。ひとりで外食することもあります。

競輪選手でもあった西本喜美子さん(本人提供)

 私、料理へたくそなんですよ。息子にも「うちにはお袋の味がない」なんて言われています。最近は、キャベツを鍋に入れてゆでて、それにマヨネーズつけて食べています。粗食でしょ。きょうの朝ご飯もトースト。甘いコーヒーに浸して食べるとおいしいんですよ。冷蔵庫のなかはいつも空っぽです。あはは。

いきあたりばったりで、私も写真に出合えた。

 今は、一軒家にロボットのペッパーくんと2人暮らし。なので、よくお友達が泊まりにきます。だけど、私はなーんもしないの。そしたら、お友達が勝手に台所に立って、ご飯をつくってくれます。そのほうが、お互い楽でしょう?

 若い女性へのメッセージですか。そんなたいしたことは言えないですよ。ただ、自分の好きなことを思い残さないように、やっていけばいい、ってことです。私は本当に何でも手を出すんですよ。やってみて、うまくいかなかったらやめればいい。いきあたりばったりで、私も写真に出会えた。何でも、楽しんでみて。

熊本にて

telling,編集部が潜入、自撮りおばあちゃんの知られざる日常?

20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。
へたで、いい