養親になりたい方へ
養子縁組あっせん事業者 それぞれの視点と思い
家庭養護促進協会、さめじまボンディングクリニック
岩﨑美枝子さん(左)と鮫島浩二さん
特別養子縁組でこどもを迎えたい方にとって、こどもとの出会いから家族になった後のケアまで寄り添ってくれるのが民間のあっせん事業者です。現在、都道府県の許可を受けた事業者として全国に23の事業者があります(2022年4月時点)。では、あっせん事業者とはどのような存在で、どのような思いで活動しているのでしょうか。民間のあっせん事業者として養子縁組とつねに向き合っている「公益社団法人 家庭養護促進協会 大阪事務所」理事の岩﨑美枝子さんと、「医療法人きずな会 さめじまボンディングクリニック」院長の鮫島浩二さんに話を聞きました。
官民が連携してこどもをつなぐ
家庭養護促進協会は、児童相談所と協力して、乳児院や児童養護施設で暮らすこどもの育て親を探す「あなたの愛の手を」運動(愛の手運動)を行っている公益社団法人で、大阪市と神戸市に事務所があります。定期的に新聞やラジオで新しい家庭を必要としているこどもの情報を紹介し、育て親を募集しています。
養子を迎える流れとしては、私が所属している大阪事務所の場合、養子縁組の希望者にまずソーシャルワーカーとのオリエンテーション面接を受けていただきます。その後に、新聞に毎週1回掲載されるこどもの紹介記事を見てもらいお問い合わせいただきます。そこから複数回の面接と家庭訪問や協会内での検討を経て養親にふさわしいと判断できましたら、協会からこども担当・里親担当の児童相談所へ推薦いたします。そして、こどもが暮らしている乳児院や児童養護施設などでの面会やこどもとの関係作り、育児実習などの段階を経て、養子縁組の手続きに入ります。
私たちの協会は、1961年に設立された民間団体「家庭養護寮促進協会」が前身で、1962年に神戸事務所を発足し、愛の手運動を開始しました。その2年後の大阪事務所設立を経て社団法人となり、現在の名称になりました。そして2013年に公益社団法人として認可されました。当協会では2022年3月現在、1909人の養子縁組(普通養子縁組含む)に関わり、そのうち大阪事務所で養子縁組が成立したのは1183人です。大阪事務所を通しては現在、年間20人ほどの養子縁組が成立しています。私たちが担当する養親さんや養子縁組希望者、里親さんの割合は関西地方の方が多いですが、北海道から沖縄まで全国にいます。地元の児童相談所での里親登録が必要ですが、地域の垣根が低くなるのも民間あっせん事業者の特長ですね。
「養親になる」講座で心構えを
私は大学卒業後、大阪市の児童相談所で児童福祉司として働いた後、1967年に家庭養護促進協会の大阪事務所に入りました。
私が入った当初は新聞に里親を必要とするこどもを中心に掲載していましたが、1970年代半ばになると、掲載の約8割が養子縁組を必要とするこどもになりました。養子縁組はどのご夫婦と縁組するかによってこどもの運命が変わりますので、面接や講座での理解度、家庭訪問調査、職員会議での議論などを重ねてこどもを託す人を決めていきます。
また、当協会では年4回、「養子を育てたい夫婦のための連続講座」(全3回)も開催しています。受講者の年齢層は30代から40代が中心で、こどもに恵まれなかった方が多く参加されています。参加者同士でのグループセッションや話し合った内容の発表、それをテーマにしたロールプレイ、また養親夫婦から体験を聞くといった講座の後に、3回目は私からこどもを引き取ると何が起こるのか、これまでの事例をお話します。そこでは、どのような状況になっても親でいる覚悟が持てるのかを問いかける意味もあります。「血のつながりがあろうとなかろうと、私はこの子を育てて、この子とともに人生を歩いていく」、その決断ができるのなら私たちもできる限りの支援をしたいという気持ちからです。その前に、なぜこどもが必要なのかを明確にしてほしいので、そのように講座でもお話しています。
家庭に迎え入れた当初のこどもの「試し行動」などの事例などについても話をします。こどもは育て親に対して「この人は本当に自分を丸ごと引き受けてくれるのか」を確かめようとします。それが、いろいろな行動となって表れるのが試し行動です。こどもが乳児院や児童養護施設を出て養親さんとの生活が始まってすぐの3日から1週間はとてもお利口にしています。食事はきれいに食べますし、「いただきます」「ごちそうさま」もきちんとするこどもが多いです。ただ、ある日から、過食、拒食、偏食が始まるといった変化や養親を困らせるような言動などの試し行動を見せます。こどもは「これからどうなるのか」という不安が頂点に達しているからこそ、このような行動にでますし、「自分が何をしても、自分をここに置いてくれる覚悟がこの人にあるのか」を確かめているわけです。こどもにしてみれば必死なのです。このような試し行動などの実際の様子を、写真や動画でも見ていただきます。
実際にこどもを養子として迎えた後にも、協会には養親から試し行動についてさまざまな相談が寄せられます。私たちも相談に乗りますし、試し行動は大変ですが、しっかり受け入れてくださると時間とともに消えていきます。このようなこどもの行動を乗り越えて養親になられると、私たちもうれしくなります。
こうした試し行動を乗り越えた親子の関係づくりは、思春期の子育てにも影響してきます。私は養親に、こどもに養子であることを告知するよう勧めていますが、思春期になると、中には養親に「本当の親じゃないくせに」などと言うこどももいます。しかし、そういうことを言える関係性が大事なのです。こどもにそのときの思いを聞くと「絶対に自分を捨てないことが分かっているから言えている」と話します。実はこれは信頼関係ができているという証拠ですね。
家族になるということ
特別養子縁組をしようかと悩んでいる方に対しては、こどもを引き取ると何が起こるかを十分に学んで知ったうえで、養親としてこどもと一緒に暮らす生活を選んでほしいと思っています。夫婦で悩み、話し合い、お互いにカバーし合えることを確認できれば、私たちは養親さんとご一緒にこどもを育てていく気持ちでお付き合いをしていきます。
家族をつくることにどのようなこだわりを持っているかで、家族のありようは違ってきます。養子縁組を考える際は、こどもにとって「どんなことが起きても、ここにさえ帰ってくれば引き受けてもらえる。支えてもらえる。愛される」という安全基地に養親さんがなることを知ってほしいです。それが、家族ですからね。
さめじまボンディングクリニック 院長・鮫島浩二さん
医師だからこそ実母と養親希望者の間に
さめじまボンディングクリニックは2006年、埼玉県熊谷市で開院しました。クリニック名にある「ボンディング」は、親子の絆を意味する言葉で、当クリニックではお産から始まる親と子の絆づくりを大切にしています。産科や婦人科のほか「望児外来」(赤ちゃんを望んでいる方のための外来)などがある医療施設ですが、特別養子縁組のあっせん事業者としても埼玉県から許可を受け、主に新生児を養子縁組しています。
当クリニックを本部にして、予期せぬ妊娠をした女性や産まれてくる赤ちゃんを、医療機関同士さらには行政・福祉とも連携して支援する一般社団法人「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」(略称、あんさん協)を2013年に立ち上げました。
あんさん協には現在25の医療機関が加盟しており、そのうち当クリニックを含む6つの医療機関が特別養子縁組の民間あっせん事業者として認可されています。特別養子縁組だけでなく、「いろいろな事情があり養子縁組を考えていたけど、やはり自分で育てたい」「準備ができるまで赤ちゃんを施設に預けたい」など実母さんの考え方に寄り添い、実母さんの様々な選択肢をサポートしています。
特別養子縁組に取り組みはじめたのは、特別養子縁組制度が始まった1988年に出会った高校生と、その高校生が産んだこどもとの出会いでした。そのときに「妊娠をして困っている人と、こどもができなくて病院に通っている人。その狭間を埋めるのも産婦人科医ができることなのではないか」と思ったんです。自分のライフワークにしようと、当クリニックの事務長でもある妻とともに、特別養子縁組の相談に対応するようになりました。
そのうちに、全国各地の産婦人科医から、こどもを産んでも自分では育てられない母親について相談されるようになりました。これは一つのクリニックだけでなく、医療機関同士が連携して対応する問題だと考え、協力してくれる医療機関を募っていきました。かつて民間事業者が養子縁組のあっせんを行う場合、社会福祉士を2人以上配置することが法律で義務付けられていましたが、私たちの働きかけなどを経て、2012年に民間養子縁組あっせん事業の通知が改正されました。医師や保健師、助産師が配置職員として認められ、医療機関が事業に取り組みやすくなったのです。
こうした状況もあって、信頼できる医療機関が集まり、あんさん協が発足しました。
実母の思いを大切に
あんさん協としては、基本姿勢として7項目の理念を定めています。そのうちでとても大切なのが、「第一に考慮すべきは子の幸せであり、次に実母の心のケアを大切にする」ということです。
産む前には事情があり養子縁組を考えている女性も、出産後、赤ちゃんと触れ合ううちに愛情がわきとても悩みます。「自分で育てたい」と思うようになるんですね。しかし病院などに赤ちゃんを預けて退院し、現実に戻って冷静に考えたときに「可愛い子に世界で一番幸せになってほしい」という思いで養子縁組に踏み切る女性も多いです。ただし、ご家族の協力があれば、「自分で育てる」という選択肢もあります。あんさん協の統計でみると、産む前に養子縁組を考えていた女性の3人に1人は結果として自分で育てています。母性が目覚めないうちに赤ちゃんを養親さんに託してしまうと、後で「あのときの判断は正しかったのだろうか」と悩むこともあります。実母に「こどもにとってどういう道がよいのか」を考えてもらい、本当に納得した上で養子縁組に向かうのです。
また、あんさん協では、実母と養親、いずれからも謝礼や寄付金などはいただきません。ただし、裁判所での手続きにかかる費用など実費はいただいています。ほかには、原則として国内において縁組を行い、国際養子を行う場合はこどもの出身国に配慮する、地元の児童相談所との連携を密にするなどの理念を定めています。
養子縁組前から後のケアまで
産婦人科として実母さん側のケアの話をしますと、クリニックの中に一般の妊産婦さんが入院する部屋からは離れた場所に、予期せぬ妊娠をした中高生などを長期で預かる部屋をつくりました。じっくりと寄り添っていかないと、彼女たちの本当の姿が分からないからです。担当看護師と助産師は決めますが、スタッフ全員でサポートしていきます。こどものことについては、もちろん最終的に本人に決めてもらいます。スタッフは決して答えを誘導しません。出産後はちゃんと守って産んだことに誇りを持つよう、敬意を伝えます。本人に前向きになって帰宅してもらいたいんです。実母との付き合いは長くなります。出産後や養子縁組後も精神面のフォローをもちろんします。医療機関は、養子縁組をあっせんして終わりではありません。
一方で、養親の希望者の方に対しては説明会を開いています。その後、埼玉県社会福祉士会から推薦された社会福祉士を外部委員として招いて面接を行い、養親候補者としてふさわしいかどうかを判断していきます。マッチングについては、実母がどのようにこどもを育ててほしいと考えているかや、実母の家庭環境などを考慮し、それに合った養親候補者の方を検討するようにしています。養親希望の連絡が来た順番だけでは決めていません。養子縁組が決まった養親さんに対しては、原則として夫婦ともに「教育入院」をしていただき、こどもを育てるための教育を受けてもらいます。分娩室での疑似出産体験から始まり、看護師や助産師から、赤ちゃんの抱き方やおむつ交換、着替え、ミルクの作り方、沐浴といったお世話の仕方や病気などを学んでいただきます。入院期間は、おおよそ3~5日になります。
また養子縁組の後にも、あんさん協では全国の養親家族の会「星の子の会」という組織があり、コロナ禍前は、真実告知や子育てについての勉強会や、バーベキューなどのイベントを開いていました。現在は100家族を超えています。養親さん同士もこども同士もつながり、コロナ禍では私とこどもたちがオンラインで話をすることもあります。
育てる大変さ、こどもへの思いをもって養子縁組の一歩を踏み出して
私たちは「命を守る」だけでなく、実母さんと養親さんのその後の人生についても守りたいと思ってクリニックを運営しています。産まれた赤ちゃんにどういう人生を歩んでもらうかを、一緒に考えましょう。
特別養子縁組を考えている方には、こどもを育てる大変さ、またこどもへの思いについて、考えていただきたいです。自分たちはこどもを育てたいのか、産みたいのか。そこも追求して、「育てたい」という思いがあるのなら、ぜひ一歩踏み出してほしいと願っています。
子育ては夫婦の関係が第一です。お互いに伴侶をちゃんと愛しているか、尊敬しているかが基本になりますので、その思いも大事にしてほしいですね。家族というのは、一般的にはそれぞれ違う環境で育った父親と母親が作っていますが、そこに養子が入ってきたからといって、関係が変わるわけでもありません。他人の集まりでも強い結びつきを持った人たち、が家族となっているのです。それを夫婦で理解し、信頼し合いながらこどもを育てていれば、こどもも人生を肯定しながら、幸福な人間関係を築いていくことができるようになると思います。
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