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養親になりたい方へ

家族の幸せな選択へと導く“伴走者”として

アクロスジャパン代表理事

小川多鶴さん

さまざまな事情で一緒に暮らすのが難しいこどもと父母(実親)、そのこどもを家族に迎え入れる養親。全国の児童相談所だけでなく、民間の養子縁組あっせん事業者も、人々をつなぎ、こどもを新しい家族へと導く存在として活動を行っています。一般社団法人アクロスジャパンの代表理事・ケースワーカーである小川多鶴さんに、事業者の役割や制度利用にあたって知ってほしいことを聞きました。

医療や法律と連携し、最善な支援計画を

私たちアクロスジャパンは、特別養子縁組や妊娠、子育てに関する相談支援事業を2009年から行っています。このうち、養子縁組あっせん事業は2018年から許可制になり、東京都から許可を受けています。

生みの親による養育がどうしても難しいお子さんを、養親に託して恒久的に安定した環境で育てていただく。その支援を行うのが、養子縁組あっせん事業者の役割です。

妊娠に葛藤を抱える女性や、子育てに悩んでいる方に対しても、自立して生きるための支援を並行しておこないます。決してこどもだけ、親御さんだけが救われるのではなく、こども・養親・実親、すべての人にとって何が最善かを考えて支援計画を立てています。

アクロスジャパンのオフィスや相談室は、産婦人科の診療所や産前産後ケアセンターと同じ建物内にあります。私たちの活動は医療と切り離すことができません。妊婦さんはもちろん、産後うつで養育に困難を抱える母親を支援するなどの協働を進めています。さらに精神科医のアドバイスも受けるなど、医療と連携した支援はアクロスジャパンの大きな特徴だと言えます。

アクロスジャパンと同じ建物の診療所にある産後"に母親が休む部屋

法整備や認知が進む一方、安易な制度利用も課題

私はアメリカに住んでいたときに、不妊治療を経て、縁あって2005年に日本から息子を養子に迎えました。当時は日本では養子縁組に関する情報が少なく、手続きのほとんどを自分でしなければならず、たいへん苦労しました。その後、いろんな方から「こどもをどうやって迎えたの?」と相談を受けるようになり、日本では養子縁組に対する権利や法制度が整っていないことに驚きました。

アメリカでは、養子縁組は家族のあり方の一つで、幸せになるためのごく普通の選択肢です。教員向けにもマニュアルがあって、クラスの中で家族の多様性として教えます。不妊治療の段階でも、代理母や精子提供、卵子提供、養子縁組は、夫婦がこどもを迎えるための選択肢として伝えられます。

でも当時の日本では、養子縁組について語ることがタブーのような状況で、実母へのケアも不十分でした。大変な思いをした人の話をたくさん聞いて、「日本でできることがあるんじゃないか」と、2009年に帰国してアクロスジャパンを立ち上げました。

「私たちはあくまで黒衣の存在」と話す

今の日本の養子縁組は、約20年前のアメリカの状況と似ていると思います。法律が整備されて特別養子縁組に関する指針も定まり、しっかりした支援が可能になりつつある一方で、社会全体での認知が広がってきたために、良くない影響が露呈しているのも確かです。安易に制度を利用したり事業を始めたりするケースが増えれば、こどもの福祉が置き去りにされてしまいます。どのようにして質の高い支援を提供し続けていくか。我々が直面している課題は、アメリカなどでも起こっていたのです。

養親には「自分らしい生活」と「柔軟性」が大切

ご相談の中には、非常に深刻で複雑なケースもありますが、アクロスジャパンではどんな相談でも必ず聞く、というのが基本的な方針です。相談者が、人に話すことによって自分の考えを整理して、みずから決断できるよう導くのが私たちの役割だと思っています。

養親希望の問い合わせをされるご夫婦はさまざまです。不妊の検査を受ける人が増え、特別養子縁組に関心を持つ若い方が多くなっているように思います。私たちが、養親の方々をみる際にもっとも大切にしていることは、「自分らしく生きているか」という点です。自分らしくあるということは、自分のことがよくわかっているということです。早くこどもが欲しいからといって、自分を大きく見せようとか、いい親に見せようとする必要はありません。

二番目に大切なのが「柔軟性」です。自分たちと違う人を家族の一員として迎えるわけですから、柔軟性が必要です。例えば、結婚も同じで、顔やお金だけで相手を選んだわけではないですよね。家族といえども、一人ひとり違う人間です。そこを理解したうえで、どうすれば家族みんなで仲良く生きていけるかを考えてほしいのです。

支援を行う際は、日本全国どこにでも行って相談者に会うという

子を迎えるということは、こどもが成人していくまでの一大計画なので、きちんとライフプランを立てて、家族の人生をシミュレーションしていただくことが必要となります。ライフプランを立てていくことで自分たちの在り方を問う機会を持ち、例えば高齢の方だと、今から赤ちゃんを迎えるのは難しいとご自身で判断される方もおられます。その場合には短期の里親など、別の選択肢も提案しています。

養親の研修は、厚生労働省で定められた8科目を必ず受講していただきます。講義のほか、「こどもがこんな行動をしたら、どうするか」といったテーマで話し合うワークショップなども行います。2019年度は20組の方が全研修を受け、養親候補者として待機登録されました。

誰もが急に良い親になれるわけではありません。皆さんそれぞれが強みを持っており、それを見極めたうえで、ご家庭にお子さんを託していきます。足りない部分は夫婦で補ったり、私たちが補ったりしながら、みんなで力を合わせ伴走していくのが特別養子縁組だと考えています。

「養子縁組だから」ではなく、家族のあり方の一つとして

これまでに縁組をしたご家族のことは、どの家族も鮮明に覚えています。中には、死産を経験されたご夫婦が、深い悲しみを乗り越え、障がいのあるお子さんを迎えたケースもありました。腎臓移植を受けたある女性は、それが理由でいくつもの団体から断られ、養親登録を半ば諦めておられました。でも、よくお話を伺えば、薬を飲んでいれば日常生活に支障はないとのことでした。夫婦に独自の強みを見出した私たちは、そのご夫婦にお子さんを託しました。ご夫婦がとても感激されていたのを覚えています。

「子育ては9割が自己犠牲であっても、1割はキラキラするかけがえのないダイヤモンド」と話す

私自身は実子と養子を育ててきましたが、実親子も養親子も起こる問題は同じです。こどもが病気をすることもあれば、反抗期も来ます。夫婦でけんかすることも、経済的に苦しくなることもあるでしょう。そんなときに「養子縁組だからうまくいかない」とネガティブに捉えていると、必ず壁にぶち当たります。

「こどもを迎えたら後悔することもいっぱいありますよ」と、私はいつも言っています。みんなが遊びに行っているのに、自分はこどもがいて行けないのは悔しいと思うかもしれません。それは実子だって一緒です。養親が立派な聖人君子である必要はありません。自分らしい生活ができて、どういう家族になりたいかをしっかり思い描くことができればいいのです。

いま、息子は15歳になり、「早くご飯を食べなさい」としかる毎日です。特別養子縁組は、きれいごとでも何でもなく、家族のあり方の一つです。大変なこともいっぱいあるけれど、家族が一緒に過ごすのは素晴らしいことです。ぜひこどもと一緒に伴走して、人生を教えてあげてほしいと思います。

PROFILE
小川 多鶴(おがわ・たづる)/一般社団法人アクロスジャパン代表理事、ケースワーカー。在米中に自身が養子縁組にて息子を迎えたのを機に、2006年から米国の養子縁組団体で勤務。2009年に帰国してアクロスジャパンを設立した。2010年の第1回世界養子縁組会議に日本代表として招致される。日本ソーシャルワーカー協会理事。
一般社団法人アクロスジャパン[URL]https://www.acrossjapan.org/
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