女子アナの立ち位置。

連載をはじめたときは「女子アナへの偏見を吹き飛ばしたい」気持ちもあった、けれど。【古谷有美】

ミレニアル世代ど真ん中のTBSアナウンサー古谷有美さんによる、テレビとは一味違う本音トーク。産休・育休に入られた古谷さん。telling,の連載も最終回となります。読者のみなさまへ、心のうちを、伝えてくださいました。

●女子アナの立ち位置。

2年4カ月にわたって連載してきたこのコラム、今回が最終回です。

私はこの連載を始めるまで、公の場で自分の考え方やプライベートにフィーチャーしていただいた経験が、ほとんどありませんでした。

アナウンサーという職業柄か、人前で話すときには、かならず「身になること」を言わなければいけないと思っているふしがあります。

それが連載ともなると、そのプレッシャーがさらに大きくなり……。
だって、雑誌でお見掛けするコラムニストの方々って、本当に面白い文章を書かれるから。たとえば私の大好きなジェーン・スーさんの文章には、いつも独自の切り口や美しい起承転結があり、スーさんの人となりが伝わってくるんです。

私もコラムの連載をするからには、なにか意義のあることを言わなければいけない。しっかりした文章を届けなくては! と気負っていました。

でも。連載を締めくくろうとしているいま、そんな気持ちはいい意味でどこかに忘れてきたようです。

当たり前すぎて、普段なら気にも留めないような自分なりの考え。ルールとも思っていないけれどなんとなく続けている、ちょっとした習慣。
そんなささいなことを言葉にしていくたびに、読んだ方が楽しんでくださっているのを目にして、少しずつ気が楽になっていったのだと思います。

たとえば、このコラム。大人になるにつれて、それまで嫌いだったピンクが好きになってきた、というお話をしました。

しばらく時間が経ってから、他局で同期のアナウンサーが「あれ、すごく同感だったよ」とわざわざ連絡をくれたんです。
お友達に会って「最近、仕事はどう?」「彼とはうまくいってる?」なんて話はしても「最近ピンクが好きなんだ」みたいな他愛ない話って、あんまりしません。そんな、わざわざ話すほどでもない内容に共感してもらえたのが、すごくうれしかったです。

話し声が聴こえる文章と、私のありのままを映したイラスト

それから「コラムを読んでいると、有美の話し声が聴こえてくるみたい。読んでいるのにおしゃべりしているみたいで、心の栄養になる」と言ってもらったこともあります。

ただ、そのあたりは、私というよりもこのコラムを担当してくださるライターさんのおかげ(笑)。テーマ設定や話の掘り下げ方、言葉ひとつひとつの使い方など、私をよく理解して進めてくださいました。

そんなご協力もあって。押しつけがましくないけれど前向きで、たいしたことは言っていないけれどなんとなく細胞が満たされた気持ちになれる……そんな塩梅のコラムを、なんとかお届けしてこられたように思います。

お仕事としてイラストを描いたのも、良い経験でした。

挿絵スタイルにしてからは、まずいただいた原稿を何度か読んで、インスピレーションをふくらませます。そして、コラムの内容を意識はしつつも、心のなかにある世界観を大切に。色やモチーフ、女の子の服装や表情に、私のありのままを映そうと思いながら描いてきました。

そのとき心や頭に溜まっているものを都度出して、浄化していくような感覚。イラストを描くことが、いままで以上に生活のいいリズムになっていました。

自分にポジティブでいてくれる人と、向き合いたい

基本的に、女子アナは“嫌われる生き物”だ、と思って生きているところがあります。
だから、最初に「読者と同じ“働くアラサーの女性”として語る連載を」と言っていただいたとき、私がそんなことを語っても「人生イージーモードな女子アナがなんか言ってるw」と思われて終わりじゃない……? と思ったのが本当のところです。

ちょうど、どんなに頑張っていても見た目や職業でカテゴライズされてしまうことに、違和感をおぼえていた時期でもありました。それは私自身だけでなく、周りのすばらしい女性たちも含めて、なのですが。

だから、連載をやることで自分なりに一石を投じられたら。偏見の目を持っている方々に私たちを見直してもらえたら……なんて、ひそかな意気込みもありました。そのときは「自分をわかってもらいたい」ということにばかり、目が向いていたのかもしれません。

でも、連載を通じて自分の届けた言葉に共感してもらったり、あたたかい視線を向けてもらったりすることが、本当にたくさんありました。今年に入って募集した質問には、私がコラムで答えたあと、またコメント欄でお返事をいただくこともあったほど。

そのうちに、自分にとってネガティブな人に時間をつかうより、ポジティブな人と向き合っていたい。自分に対してプラスのパワーを向けてくれる人を大切にした方が、人生を楽しめると、あらためて思うようになったんです。

だから、女子アナへの偏見を吹き飛ばすことはできなかったかもしれないけれど、私に興味を持ってくれる人や応援してくれている人に言葉を届けてこられたことや、より強く、よりあたたかく、同じ方向を向いてもらえたことを、いまは本当にありがたく感じています。

自分の心のなかを、誰かに伝えてみてほしい

最後まで読んでくださったみなさまへ、ひとつおすすめしたいことがあります。どんな表現方法でもいいから自分の心のなかを、ぜひ誰かに伝えてみてください。

私がこの連載を通じて「これが私か」「これが私の生きてきた道なんだ」と見つめなおしたことは、人生を少しずつ変えてくれました。
書籍を出すお話をいただいたのも、telling,やInstagramの発信がきっかけ。自分だけでは思いつかなかったこと、やりたいけれど当たり前に諦めていたことのチャンスを、たくさんいただきました。自信がなくても伝えてきたから、なんとか見出してもらえたんだと思っています。

なにかを伝える。心を届ける。
簡単ではないかもしれないけれど、本当にすばらしいことです。

2年と少しの間、私がここで伝えてきたことを受け取ってくださって、本当にありがとうございました。
またどこかでお会いできること、楽しみにしています。

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
ライター・編集者 1987年の早生まれ。雑誌『走るひと』副編集長など。パーソナルなインタビューが得意。紙やWeb、媒体やクライアントワークを問わず、取材記事やコピーを執筆しています。趣味はバカンス。好きなバンドはBUMP OF CHICKENです。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。