病院だらけの2020年冬ドラマ考察05

「恋はつづくよどこまでも」佐藤健からあふれ出す「好きだ、お前が、好きだ」が衝撃的すぎて【病院だらけの2020年冬ドラマ考察05】

人気ライターが放送されたばかりのドラマを徹底解説。ドラマが支持される理由や人気の裏側を考察し、紹介します。今シーズンは医療ドラマの当たり年! 各局さまざまな医療ドラマを放送しています。第5回目に取り上げるのは、前回に引き続き胸キュンが止まらない「恋はつづくよどこまでも(恋つづ)」。思わず、七瀬を応援するモードになってしまう理由とは?

●病院だらけの2020年冬ドラマ考察05

世の女性たちも悩む「好きって言ってくれない問題」

毎週火曜放送のドラマ「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)。3月3日放送の第8話では、入院患者で病院のスポンサーの息子・上条周志(清原翔)によって、佐倉七瀬(上白石萌音)と天堂浬(かいり)(佐藤健)が離ればなれになってしまった。

患者に対する暴力と精神的苦痛で浬を訴えるという周志。浬は暴力を振るってはいなかったが、必死な弁解はしない。一緒に転院するなら訴えを取り下げると、周志から交換条件を出された七瀬。周志についていくことはできない、でも浬を助けたいと思った七瀬は、病院を辞めて自分の生まれ故郷に帰っていた。

第9話では、連絡が取れなくなっていた七瀬を浬が迎えに来る。放送開始すぐ、七瀬を見つけ出した浬はいわゆる「あすなろ抱き」で抱きとめた。

あすなろ抱きは、1993年のドラマ「あすなろ白書」(フジテレビ系)に登場した、背中から包み込むような抱きしめ方のこと。2015年頃から「なろ抱き」という略称で「あすなろ白書」を知らない若者にも浸透しているようだ。今年2月26日の「ヒルナンデス」(日本テレビ系)のクイズにも登場し、オードリー・春日が和牛・川西になろ抱きされる一幕があった。

第9話のテーマは「『好き』って言ってくれない問題」。放送前の日曜日にあった佐藤健の「SUGAR」(ライブ配信アプリ)でも、「夫が好きと言ってくれない」という女性の悩みに、佐藤健が「それがテーマだから、旦那さんも9話を見て」という旨の返事をする場面があった。

わざわざ九州まで出向いてなろ抱きするくらいなんだから、浬が七瀬を好いていて大切に思っているなんて態度でわかりそうなもの。でも、七瀬は「好き」って言ってほしい! 「好きと言う」、ただそれだけのことをしないでいいのか? と、浬に問いかける回だった。

 

金子ありさが描いた「格差恋愛」とは補い合う関係のこと

東京に戻ってきた七瀬と浬は、交通事故に巻き込まれる。七瀬は頭に怪我をするが、周りで倒れている人、痛がっている人を見過ごせずすぐに救護を試みる。浬も同じく救護にあたるが、九州で七瀬の父親・誠一(おかやまはじめ)に聞いた「人のために倒れるまで頑張る」七瀬のエピソードと、亡くなったかつての恋人・みのり(蓮佛美沙子)の姿が頭をよぎり不安にかられる。

救護が終わった瞬間、七瀬は意識を失ってしまった。浬は寝ずに七瀬のそばに付き添う。そして意識が戻ったとき、浬は七瀬に言った。

「何事にも一生懸命なところ。どんなに怒られてもめげないところ。患者さんのことをよく見ているところ。人を信じすぎるところ。ご両親に愛されて育ったところ。自分で色気がないと思っているところ。酔っぱらうと変な歌歌って、ソフトクリームを上手く食べられなくて、家事がまったくできなくて、すぐ寝落ちして、笑った顔が誰よりも可愛い。こんなことで喜ぶなら、いくらでも言ってやるよ。好きだ、お前が、好きだ。だから、もう二度と俺のそばを離れるな」

周志の交換条件に対しても、事故の被害者たちに対しても、自分を犠牲にして救おうとしてきた七瀬。稀有な存在だ。そんな七瀬を失う怖さを改めて感じたとき、ようやく浬は七瀬に「好き」と言えた。

すっかり七瀬を応援するモードになっていたので、リアルタイムで見たときには「全国民が『恋つづ』を見てくれ!」と思うほど感動して泣いてしまったこのシーン。でも、改めてもう一度見ると「七瀬ほどの自己犠牲精神がある良い子にならないと、好きな人とは一緒になれないのか……」という切なさも迫ってきた。

しかし、それはわたしの勘違いだった。「恋つづ」のメッセージはそうではない。それは、医師の来生晃一(毎熊克哉)と来生に恋する看護師・酒井結華(吉川愛)を見るとわかる。

来生は優しさと愛想で周囲に好かれている。結華は少し冷たく見えるところもあるが、看護師としての働きぶりはみんなに認められている。二人の立ち位置は、来生が七瀬、結華が浬に似ている部分がある。来生が七瀬に告白して振られたと報告すると、浬はそんな来生を「まっすぐ」だと言っていた。

8話では、「あんたは何もかも持ってる」と言う周志に浬はこんな話をしていた。

「持ってませんよ。医者という仕事だけです。それ以外はすべて切り捨ててきた。みんなそうです。足りないものがあって、それでも必死に生きてる。足りないものを誰かと補い合って生きてるんです

足りないものを補い合うために誰かと一緒にいる。それが「恋つづ」の軸なのだとしたら、来生が七瀬と恋人になれなかったのは、二人が似ているからだったのかもしれない。そして、来生が補い合える相手は結華なのかも。

また、少し頼りない新人看護師の仁志(渡邊圭祐)と浬の姉・流子(香里奈)も互いに補い合えるであろう欠けた部分があるから一緒にいようとしている。

立場にせよ年齢にせよ「格差」がある恋愛をファンタジーとして描かない。互いに足りない部分を自覚し、補い合う恋愛なのだと定義することで、地に足のついた物語になっている。だからこそ「魔王と勇者」というファンタジー風設定や、ときどき七瀬が勇者の格好になってしまうという演出も活きるのだろう。

浬と七瀬、そして登場人物たちの恋愛関係の形は、ドラマ「中学聖日記」(TBS系)で格差恋愛を、「東京独身男子」(テレビ朝日系)で恋愛のパワーバランスに悩む男性たちを描いてきた金子ありさの、一つの答えなのではないだろうか。

 

明るく生きる女性たち、悩みを話せる男性たち。脇役陣の良さ

ところで、9話でなぜか突然「和解宣言」をして浬と七瀬の邪魔をした流子と小児科医の沙世子(片瀬那奈)。演じている香里奈と片瀬那奈がファッションモデル出身で、立ち姿が美しく華がある。二人並んでいるシーンの美しさの迫力がすごいのでもっと見たいと思っていたところ、自分たちで紙吹雪をばら撒きながら登場した。格好はトンチキだったが、やはり華がすごい。

七瀬や結華、仁志たち若者が恋愛と仕事に悩んでいるところに、流子と沙世子のような異性ウケを気にせず自分の人生を行こうとする堂々とした女性が出てきてくれるとほっとする。流子も沙世子もそれぞれ彼女たちなりの悩みはあるはずだが、年上のお姉さんたちが明るくあっけらかんと生きていてくれる、それだけで七転八倒の若者たちにとっては希望だ。

七瀬が恋愛相談をする相手が、来生や先輩看護師・沼津(昂生[ミキ])と同性に限らない点も良い。現実的に考えると、こんなに恋愛関係が入り組んでいる職場はちょっと嫌だが、七瀬から来生や沼津へのプライベートの相談は「風通しの良さ」と捉えることもできる。沼津のうかつさ口の軽さも、実際にいたら困るが、ドラマだからこそ楽しめるキャラクターになっている。

七瀬の家族も登場し、関わる患者も増えていく「恋つづ」。そのキャラクター一人ひとりに存在感と愛を感じる。一人ひとりの脇役たちが人生をまっとうしようと懸命に生きている存在として描かれることが、七瀬の「患者さんに寄り添いたい」気持ちの説得力にもなっている。

「恋つづ」は、今晩最終話が放送される予定だ。さみしい気持ちもあるが、佐藤健のSUGARによると、最終話は「もういいよ!」と言いたくなってしまうのでは? と思うほどてんこ盛りの内容とのこと。七瀬と浬だけでなく、周りの登場人物たちにも注目すると「あの二人は、あの患者さんはどうなるの?」と気になることばかり。見逃せる瞬間はない! と、気を引き締めて鑑賞したい。

・「恋はつづくよどこまでも」(TBS系・毎週火曜)
https://www.tbs.co.jp/koitsudu_tbs

・ドラマ「中学聖日記」(TBS系)2018年10月クール放送
https://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/

・ドラマ「東京独身男子」(テレビ朝日系)2019年4月クール放送
https://www.tv-asahi.co.jp/tokyo-dokushin-danshi/

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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