Dr.尾池の奇妙な考察 25

【Dr.尾池の奇妙な考察 25】マスターベーションは女性を美しくするか

化粧品の開発で、それまで縁のなかった「女性の美」について考えるようになった、工学博士であり生粋の理系男子である“尾池博士”。今回はこれまでで最大の挑戦かもしれません。マスターベーションで女性が美しくなるという噂は本当なのでしょうか。

●Dr.尾池の奇妙な考察 25

マスターベーションはいけないこと?

マスターベーションには自慰やオナニーなど様々な呼び名があります。最近では欧米にならい、ソロセックス(Solo sex)という言葉も広まり始めています。なぜこれほど多くの呼び名が生み出されるのでしょうか。

原因はマスターベーションを「恥ずかしいこと」「いけないこと」と考える意識にあると思います。既存の名称を避けたがる意識が、新たな名称を生み出してきたのではないでしょうか。恥ずかしい気持ちはもちろん尊重されるべきですが、本当にいけないことなのかについては、根拠が乏しいように感じます。

アメリカで女性の性と出産に関する健康と権利について100年以上啓蒙を続けているプランド・ペアレントフッドNPO財団(Planned Parenthood=家族計画)は、女性のマスターベーションに関するいくつかの噂について明確に否定しています。噂とは次のようなものです。

・奇妙なところに毛が生える。
・不妊症になる。
・生殖器が委縮する。
・一度始めると依存症になる。

これら全てについて嘘であると断じ、マスターベーションは不健康な行いではないだけでなく、むしろ使い方によってはメリットがあると解説しています。メリットは次の通りです。

・性的な緊張を緩和させる。
・ストレスを緩和させる。
・睡眠を改善する。
・体についてのコンプレックスを緩和して、自尊心を育てる。

こうした冷静で前向きな解釈には頷ける部分が多いことに気がつきます。日本ではマスターベーションについてあまりにも無関心でした。その無関心さがマスターベーションへの誤解を生んでいる可能性があります。その分かりやすい例が、男性の一部に見られる間違ったマスターベーションです。

間違ったマスターベーションは女性を傷つける

男性がマスターベーションの時にイメージしている女性像は、しばしば現実の女性から遠くかけ離れすぎてしまうことがあります。ファンタジーは悪いことではないので、かけ離れること自体を問題視すべきではありませんが、しかしあまりにも現実とかけ離れたファンタジーの場合、それが現実とすり替わってしまうことが無いように常に気をつけながら楽しむ必要があります。マンガや映画の場合は常に気をつけながら楽しんでいる人が大半ではないでしょうか。

しかし男性のマスターベーションでは時にそうした注意が欠けてしまうケースがあるような気がします。独りよがりで歪んだイメージが、結果的に女性への乱暴な扱いとなり、女性を傷つけている可能性があります。

「ソロセックス」という新しい表現はそれに対して異を唱えているのではないでしょうか。なぜならソロセックスは、将来のパートナードセックス(二人のセックス)に直結している言葉だからです。マスターベーションによって「どのようにすればお互いに気持ちよくなるのか」を学ぶことができる、ということを暗に示しているのではないでしょうか。

そしてこのマスターベーションに対する目的意識の問題は、もしかすると男性側だけの問題ではないかもしれません。

マスターベーションで女性は美しくなるのか

マスターベーションに関する数少ない明るい話題として、「マスターベーションをすれば女性ホルモンが増えて美しくなる」という記事を見かけることがあります。前向きな話題は大歓迎ですし、その可能性は否定できないものの、積極的に信ずるには人間の生理現象はもっと複雑で精密です。

実際に2007年にアメリカ国立衛生研究所のチームが、性行為と女性ホルモン濃度の変化を調査していますが、相関は見出されたものの、性行為をすればするほど女性ホルモンが増えるわけではないことが分かりました。あくまでも女性ホルモンは、排卵や出産といったイベントのために産生されるもので、美しくなるために作り出されているわけではありません。女性ホルモンが少なくても、それがその人にとって適切な量ならば美は維持できます。

マスターベーションをして確実に作り出されるのは快楽物質(ドーパミン)です。その結果ストレスが減り、血行が良くなり、寝つきが良くなります。自律神経が安定し、内分泌系が整い、3種類の女性ホルモン濃度とバランスは健全な状態を取り戻し、健康バランスが整い、自尊心も回復すると言われています。つまりは、美しくなります。

なんだ、やっぱりマスターベーションしたら美しくなるのでは、という理解は、間違っています。包丁が美味しい料理を生み出すわけではないのと同じように、マスターベーションの使い方の問題です。美しくなるためにマスターベーションをするのではなく、あくまでも健康を維持するためにマスターベーションをしているかどうか。その意識の差が、マスターベーションの美容効果の差になって現れます。

美しくなりたいという過剰な意識が、過剰なマスターベーションを引き起こしてしまうのであれば、それは健康と逆行し、美容効果と逆行します。しかし心身の健康を目的としたマスターベーションは確実に女性を美しくします。

マスターベーションが人類を救う

こうした目的意識のズレを改めるのは、実はそれほど難しいことではないような気がします。なぜならチンパンジーなどヒト以外の霊長類もマスターベーションをするからです。イルカもします。生殖以外の目的で性器を利用し、一頭で行うこともあれば、二頭で行うこともあります。チンパンジーの仲間であるボノボは特に積極的にマスターベーションを利用することで有名ですが、争い事がほとんど起こらないことが知られています。女性同士が性皮を擦り合わせる「ホカホカ」、男性同士が尻を合わせる「尻合わせ」。

もちろんヒトがボノボの真似をするわけにはいきませんが、ボノボのマスターベーションに対する明確な目的意識には学べる部分がありそうです。

包丁も、薬も、使い方を間違えれば人を傷つける。ましてやマスターベーションは、性という内に秘めた巨大な力の初級編。入り口から間違ってしまっては、性を使いこなすことは到底難しい。

しかし、もしも、使いこなしたとしたら、どうなるのでしょうか。包丁の生み出す美食、薬が生み出す癒しに匹敵する真の美しさが、性にも待っているというのでしょうか。おそらくそれは、間違いないと思います。ヒトもヒトなりに、性を使いこなそうと模索している。だからこそ、ソロセックスという言葉に到達しました。

真の美しさに、思いやりと健康は欠かせません。自分への思いやりは、誰かへの思いやりへの第一歩。そのためのソロセックス。誰かを思いやるために、そして美しくなるために、まずはご自愛下さい。

今回のまとめ

マスターベーションはいけないことという誤解が、マスターベーションへの不勉強につながり、男性の独りよがりなファンタジーを生み、結果的に女性を乱暴に扱う意識につながっている。マスターベーションで女性ホルモンが増えて美しくなるという目的意識も決して正しいとは言えない。ボノボなどの霊長類はマスターベーションを相手を思いやる道具として大事に使っている。ヒトもヒトなりに、マスターベーションの目的意識を模索してもいい。マスターベーションは思いやりを育てることができ、心身の健康を回復することもできる。マスターベーションへの正しい目的意識は間違いなく女性を美しくする。

<尾池博士の所感>
マスターベーションを学術的に調べたら、知らないことだらけでした。

工学博士/1972年生まれ。九州工業大学卒。FILTOM研究所長。FLOWRATE代表。2007年、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞受賞。2009年、PD膜分離技術開発に参画。2014年、北九州学術研究都市にてFILTOM設立。2018年、常温常圧海水淡水化技術開発のためFLOWRATE.org設立。
イラストレーター・エディター。新潟県生まれ。緩いイラストと「プロの初心者」をモットーに記事を書くライターも。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。
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