太田彩子「キャリアプランは、いらない。」

SNSを遮断して、「何か始めなきゃ」を捨てよう

「かつては“バリキャリ”であったキャリアの専門家・太田彩子さん。自身の会社の経営、日本最大級の営業女子コミュニティの主宰など広く活躍しながらも、「かつての“頑張る自分”は卒業した」と言います。その太田さんが今、私たちに伝えたいこととは? 「もっと頑張らなきゃ」と力んでしまうようなとき、心理学の専門家でもある太田さんの言葉は、胸に響くはずです。

●太田彩子の「キャリアプランは、いらない。」01

太田彩子さん

21歳で出産、子育てをしながら仕事に取り組み、リクルートの営業職として活躍したのち、2006年に人材育成・キャリア支援の株式会社ベレフェクト設立。2009年より日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。ほかにも上場企業の社外取締役など多岐にわたる活動で知られる。ここ数年は海外遠征をするほど本格的に登山に取り組み、筑波大学大学院にて心理学の研究も進めている。

自分に対して焦りを感じてしまうのが、アラサー女性の特徴

 「30歳の危機」という現象があります。30歳前後のいわゆるアラサー女性は、人生の見直しの時期。なにかと悩み始めるタイミングだと思います。

  20代のころは新人社員としてガムシャラに頑張っていたけれど、30歳手前になると後輩ができて自分が先輩になり、役割も変化していく。これまで「若手社員だから」で許されていたことが、だんだんと通用しなくなっていきます。

  そして女性の場合は、ライフイベントも重なります。2016年の日本女性の平均初婚年齢は29.4歳(*1)で、第1子出産の平均年齢は30.7歳(*2)。自分もまわりも、重大なライフイベントが続く時期を迎えます。仮にライフイベントを体験しなければしないで、「本当に結婚しなくて大丈夫なのか……」と、すごく悩む。

 つまり仕事でもプライベートでも、立場が変わるのです。なんとなく「自分って何なんだろう」と、アイデンティティが揺らぎ始めてくるんですね。自分に対して焦りを感じてしまうのが、30歳前後の女性の特徴だと思います。

*1、*2 厚生労働省「平成30年 我が国の人口動態(平成28年までの動向)」より

 悩みは「正常に成長しているんだよ」のサイン

  ただ、悩むということは正常な成長の証だと思います。キャリア論には、キャリアの移行期を意味する「キャリア・トランジション」という考え方があります。

  人生の転機やターニングポイントは人それぞれですが、生き物が脱皮をするように、さなぎが蝶になるように、人間もキャリア・トランジションを超えてこそ、新しいステージを迎え入れて生きていける。そういう意味だと、この時期の悩みは転機の証であって、「あなたは正常に成長しているんだよ」というサインなのだと思います。 

 アメリカのウィリアム・ブリッジズというコンサルタントが、“Ending is a new beginning(終わりは新しい始まりである)と提唱しています。転機や節目、ターニングポイントを考える時、私たちは始まりばかりに焦点を当てがち。だから「資格を取らなければ」「婚活をしなければ」と、「新しいことを始めなければいけない」と気負い、焦ってしまいます。

  でも彼が言っているのは、その逆です。人生の転機には、始まりではなく、終わりにしっかりと向き合うことが大切。終わりを迎えたことによる環境や生き方の変化に、くすぶったり物悲しさを感じたりしながら、なかなか適応できずに「これでいいのか?」と葛藤する。何かが終わった後にやってくる、この「ニュートラルゾーン(中立期)」と言われる時期に、人はものすごく悩みます。 

 でも、ここで悩むからこそ、ぐちゃぐちゃだった考えや気持ちが整理され、統合し、「だから私はこんなに悩んでいるんだ」と、意味付けが行われます。この一連の流れがあるから、次の新しいステージに進むことができる。

  だから悩みを感じているのであれば、それは何かが終わりを迎えたサインなのかもしれない。「何か行動しなきゃ」と焦るのではなく、とことん悩んで、しっかりとその悩みに向き合うことが大切だと思います。

SNSでモヤモヤするのは、自分に集中できていない証拠

 ただ、悩みに向き合うと、どうしても焦りを感じます。「同期はこんなに仕事を頑張っている」「友だちが結婚をした」と、他人と比べてしまうと、余計に焦燥感が募ってしまう。

 そこで提案したいのが、思い切ってSNSを一時的に遮断すること。

  SNSには、比較の元となる情報が溢れています。 

 たとえばSNSで友だちの結婚報告を見てな焦るような気持ちになってしまうのも、友だちと比べてしまって、自分も早く結婚しなきゃと思うからですよね。でも自分に向き合ってよく考えてみたら、「今の私は自由に行動したいから、そんなに結婚したいわけじゃないのかも」という気持ちが見えてくるかもしれない。

 

 私はSNSを見ることと、自分に向き合うことは、真逆だと思っています。暇なときについ見てしまうけれど、自分の感情がSNSによって動かされているということは、自分に集中できていない証拠。もちろんSNS には良い面もあるけれど、うまく付き合わなければ、心の健康を損ねてしまいます。

  SNSからはいったん距離を置いて、その時間で自分の好きなことに集中しましょう。読みたい本や映画を楽しむのでも、体を動かして汗をかいてみるのでもいい。

 リセットするために一番おすすめなのは、遠出をして、普段の環境を遮断すること。そういう意味で、アウトドアで自然に触れたり、異文化が体験できる海外旅行は最適だと思います。

  世の中には「行動しよう」というメッセージが溢れているけれど、「何か始めなきゃ」だけがすべてではありません。今は悩む時期だと割り切って、そこに向き合うこと。そうして、いつか来る新しい始まりを迎えられるように、しっかりと準備をしてほしいと思います。

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リクルートの営業職として活躍後、2006年株式会社ベレフェクト設立。2009年より、日本最大級の営業女性コミュニティ「営業部女子課」を主宰。専門は働く女性や女性営業職の人材育成・キャリア開発。
2009年に株式会社キャリアデザインセンターに入社。求人広告営業、派遣コーディネーターを経て、働く女性向けウェブマガジンの編集として勤務。約7年同社に勤めたのち、会社を辞めてセブ島、オーストラリアへ。帰国後はフリーランスの編集・ライターとして活動中。主なテーマは、「働く」と「女性」。