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イベント情報

【2021年度シンポジウム第3部採録】
こどもの視点から考える特別養子縁組
~家庭養育の推進とその支援~

2022年2月5日に開催された「家族を育む こどもを育てたいと思う人へ 特別養子縁組制度オンラインシンポジウム」第3部では、血のつながった親のもとではない環境で育ったこどもの視点から特別養子縁組のあり方を考えるパネルディスカッションが開かれました。2歳から18歳まで児童養護施設で育ち、昨年大学に進学した山内ゆなさん、特別養子縁組で養子に迎えられた映画監督のふくだももこさん、同じく当事者で特別養子縁組家庭支援団体「Origin」代表のみそぎさんが登壇、日本女子大学教授・林浩康さんとともに話し合いました。

<登壇者>
ふくだももこさん(映画監督)
みそぎさん(特別養子縁組家庭支援団体「Origin」代表)
山内ゆなさん(「JETBOOK作戦」代表)
林浩康さん(日本女子大学教授)

<ファシリテーター>
見市紀世子(朝日新聞社)

養子と児童養護施設、それぞれの育ち方

山内さんは、児童養護施設で暮らすこどもたちに本を贈るプロジェクト「JETBOOK作戦」を立ち上げ、これまでに全国110カ所の施設に1万1千冊を寄贈。また、2020年度の朝日広告賞に、特別養子縁組の認知を広める広告として応募した作品「愛に、血のつながりがいらないことは、夫婦がいちばん知っている。」が入選を果たし、SNSでも大きな話題となりました。山内さんは、施設を出る前に特別養子縁組をしたきょうだいがいることがわかり、特別養子縁組に興味を持ったといいます。「施設で育っても養子として育っても、こどもたちが生きやすい世界になることを願っている。児童養護施設や特別養子縁組について、正しい理解や広い認知が必要」との思いから発信をしていると話します。

山内ゆなさん

ふくださんは養親である両親と、同じく養子の兄の4人家族で過ごしてきました。養子として幼いころから真実告知を受けてきたというふくださんは、うちの家族はこれが当たり前、と自然に受け入れてきたといいます。小学1年生のときには養子であることを学校で言って回り「捨て子ってこと?」と聞いてきた男子に「ちゃうわ! もらわれ子や!」と返答していたほど。特別養子縁組制度に対して、「人とは違うことが『おもろい』と思っていて。マイナスイメージが全くなかったからこそ、そういう返しができたのでは」と振り返ります。ただ、その中でも自分や血縁について考えることが多かったふくださんにとって、「映画や小説という表現の手法に出会えたことは救いになった」といいます。

一方、みそぎさんは、高校生になるまで自分が養子とは知らずに育ってきたそうです。父から勉強を教わるもなかなか解けずにいたとき、「実の子じゃないから(問題を)解けないんだ」と父が口を滑らせたことで、思いがけず事実を知ったみそぎさん。大学進学後に、出自をたどりたいと思うようになったものの、情報収集の方法が分からない、なんとか情報を手に入れても1人で受けとめるしかなかった、という経験から「当事者を支援していきたい」と特別養子縁組家庭支援団体「Origin」を設立したといいます。

ふくだももこさん

真実告知は“始まり” 養親子として対話し続ける大切さ

ディスカッションの中で、特別養子縁組制度の課題としてクローズアップされたのは、「出自を知る難しさ」でした。

大学進学を決めた山内さんは、奨学金申請のために戸籍謄本を取り寄せ、そこで初めて、特別養子縁組のきょうだいがいることを知りました。
特別養子縁組をしたきょうだいはどんな生活をしているんだろうと思った山内さんですが、きょうだいを探す方法がありませんでした。自力で制度について調べ、みそぎさんのSNSに「特別養子縁組について教えてほしい」と連絡をしたこともあったといいます。山内さんはいまも特別養子縁組をしたきょうだいとはつながりがなく、施設で暮らす妹と弟の2人以外とは交流がないそうです。
林教授は「きょうだいのつながりを保障するという視点は、社会的養護の中では重要だ」と指摘します。「社会的養護について学ぶことを、施設にいるこどもの自己努力に任せるのではなく、児童養護施設や児童相談所の職員とともに学ぶ機会をつくる必要がある」と述べました。

みそぎさん(顔が写らないようにしています)

みそぎさんは、出自の情報にたどり着く方法が、ケースによって違ったり、自治体や窓口の担当者によっても違ったりすることに課題があると話します。
勇気を出して問い合わせても「ここでは分かりません」と言われ、「もうやめよう」と心が折れてしまう人もいる。「僕らは、良くも悪くも、大人の都合で特別養子縁組という制度に乗っている」というみそぎさん。「その上さらに、成長して自分のルーツを知ろうとするときに、大人の都合で理不尽な対応を重ねられるのは酷だ」と指摘します。当事者が経験した苦労をくみ上げて、安心して情報を得るルートをつくることが必要だと話します。

戸籍謄本をとって初めて事実を知るこどもは少なくありません。ふくださんは、「そんなことがないようにするのが、大人の役割」といいます。家庭でも施設でも、戸籍謄本を取る前に、「あなたにきょうだいがいるかもしれない」など伝えておくべきだと主張しました。

真実告知のタイミングや伝え方も、こどもに大きな影響を与えます。「真実告知はゴールではなくて始まり」というみそぎさんは、自身の経験を踏まえ、「小さい頃から、養親と養子という関係性での信頼関係を築くことが重要だ」と話します。年齢やライフステージによって出自の受け止め方は変わるし、悩みの内容や抱えるタイミングは人それぞれ。真実告知は小さい頃から始めて、対話しつづけることが大切という意見に、登壇した全員が共感していました。

特別養子縁組の家庭にも第三者のサポートを

林教授は、養親側へのサポート体制の課題を指摘します。特別養子縁組の家庭は一般家庭と同様の扱いになり、養親が希望しない限り支援の手はなかなか届きません。縁組後の支援が必要な状況なのに、主体的に求めない養親もいます。
縁組後の支援は、養子縁組民間あっせん事業者や児童相談所が単独で行うのが困難な場合もあります。事業者、自治体、児童相談所が連携して縁組後のサポート体制を充実させていく必要がありますが、連携が進んでいないのが現状です。子育ての支援では市町村との連携も大事であり、「場合によっては養親家庭に保健師が訪問するなど考えていかなければ、必要な人に支援が届かずにこどもにしわ寄せがくる」と指摘します。

林浩康教授

母が“養親のサークル”に通っていたというふくださんは、養親だけのつながりで家庭の問題を共有していたことに、疑問を感じることがあったといいます。
別の家庭の深刻な問題と比較することで、「うちはまだ大丈夫」と思ってしまい、自分のうちにある本当の問題と向き合えなくなるのでは、とこどもながらに思っていたそう。「行政など養親以外の第三者が介入し、養親や養子に対して『最近どう?』と気持ちを引き出してあげてほしい」と話します。

“いい加減”でゆるい子育てでもいい

ふくださんは、特別養子縁組制度でいまの家族と出会えたありがたみが、「大人になればなるほど感じる」と話します。
ふくださんが映画に興味を持ったのも、養親の父親が映画好きで、中学校のときによく映画館に連れて行ってくれたから。もし、生みの親のもとで育っていたら、映画館に行く余裕がなかった可能性もあるといいます。「映画監督になりたいという選択肢を持てたことにも、特別養子縁組という制度の存在が大きかったな、と思います」。

養親になることを検討している人へのメッセージを聞くと、ふくださんは「『あなたを100%愛している』と伝え続け、こどもの気持ちを聞き続けることができる人なら、ぜひ養子を迎えてほしい」と言い切ります。

みそぎさんも、「こどもに寄り添って聞き続ける」大切さを強調します。養親として自身があるべき理想像を掲げ、完璧を求めてしまう人が多いことを心配しているそう。特別養子縁組制度では登録に向けた研修や面接があるため、どうしても「自分は理想の親であろう」と考えがちです。「でも、こどもがどう感じているのかを聞いてあげて、家庭の中で対話を重ねることが何よりも大事」だといいます。

林教授もまた、「養親さんが過剰な責任を感じることなく、社会のつながりの中で、自分のつらさを自己開示しながら、 そこそこ“いい加減”な子育てをしてもいいのでは」と投げかけます。
「ふくださんの言うように、100%愛しているというメッセージを心から伝えられる状況に養親さんが身をおくことが大切で、余裕や生きてて楽しいと思えることが重要です。養親が子育てだけを生きがいにせずに、自分の楽しみを持っておく心構えも大切なのでは」と話しました。

ディスカッションを通じて終始、「児童養護施設で育つこどもも特別養子縁組もネガティブにとらえてほしくない」と話していた山内さん。制度が広く知られることで「こどもたちを社会で育てていく」意識が広がっていくことを期待していました。

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