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イベント情報

多様な家族の形を受け入れる社会に
シンポジウム採録

さまざまな事情によって生みの親のもとを離れなければならず、親を必要としているこどもがいます。そんなこどもを家族として家庭に迎え入れ、自分のこどもとして育てる「特別養子縁組制度」を知ってもらおうと、シンポジウム「『特別養子縁組』という家族の形」が2020年10月10日、東京・浜離宮朝日ホールで開かれました。

特別養子縁組でこどもを迎えたタレントの武内由紀子さんをパネリストに招き、「なぜ養子を育てようと思ったのか?」「不安に感じたことは?」「こどもにどう育ってほしい?」などの質問を、専門家を交えてディスカッション。制度の仕組みや現状についても、わかりやすく説明がありました。

日本女子大学教授の林浩康さんによる解説、映画監督の河瀨直美さんによるビデオメッセージもあり、シンポジウムの模様はオンラインでも配信されました。

パネルディスカッションの登壇者

高齢を理由に養親希望者を制限しない流れへ

「多様な家族の形を受け入れる社会に」をテーマにしたパネルディスカッションには、武内さんと林さん、養子縁組あっせん機関であるアクロスジャパン代表理事の小川多鶴さんが登壇。それぞれの立場から特別養子縁組について意見を交わしました。

こどもを迎える養親の多くにとって、大きな壁として立ちはだかるのが「年齢」という問題です。近年は晩婚化が進んでいるだけでなく、妊活などを経て養親になるのを決断するまでに相当の時間が経過しているケースもあります。冒頭では、武内さんが特別養子縁組という選択肢に至った体験談を語りました。

武内由紀子さん

武内さんは40歳で結婚して不妊治療を始めましたが、こどもを授かることはかなわず、4年後に養子縁組を決意。「年齢的にも44歳というのもありましたし、今まで治療を続けてきた数年間、奇跡をずうっと信じてやっていたのに授からなかったから。なので、奇跡を待つよりも前に進みたいから養子縁組したいんだと主人に話したら、『わかった。じゃあそれで進もう』とすぐに切り替えてくれて」と振り返りました。

当時は養親の年齢の条件が40歳や45歳というあっせん機関が多く、武内さんも申し込みに苦労したそうです。法で定められた養親研修を受けた武内さん夫妻は、小川さんの団体から男の子を迎え入れ、約半年の試験養育期間を経て2019年3月に特別養子縁組が成立しました。

林さんは「かつては国の通知したガイドラインに、(養親と養子は)40から45歳以内の年齢差が望ましいという文面がありましたが、現在は削除されています。国としては、年齢だけで一律に養親希望者さんを排除しない方針に切り替えたということです」と解説しました。

特別養子縁組の成立までの流れを解説

養子の年齢の条件も、今年4月の法改正で原則6歳未満から原則15歳未満へと引き上げられました。林さんは「体力差や定年年齢などが多様化する中で、柔軟に考えていこうという流れになっています」と話しており、年齢というハードルは少しずつ解消に向かっています。
(※2020年12月現在、養親の要件は原則25歳以上で、夫婦の一方が25歳以上であれば、もう一方は20歳以上で可)

「子育てに、養子も実子も違いはない」

養親として一歩を踏み出す決意をした後も、どういうこどもを迎えるのか、ちゃんと育てられるのか、といった「不安」は付き物です。武内さんら経験者が、不安をどう克服したかを語りました。

「性別もわからない。病気があるかないかもわからない。どういう子が来るかわからないという状況でも、自分が産むのと一緒だと思って。『どんな子が来ても迎え入れよう』と強く思っていました」と、武内さん。夫婦でしっかりと話し合うことを通じて、不安が一切なくなったそうです。

小川さんは、自身が実子を育てながら養子を迎えた経験を踏まえて、「子育てというところでは、何の違いもありません。血がつながっているからとか、どうやって家族になったからとか、いちいち考えて毎日子育てしていることは全くないのです」と話しました。

小川多鶴さん

親子のマッチングについて、小川さんは「特別養子縁組は永久に親子でいるための制度ですから、養子と養親と実親の3者が平等に最善を尽くして、マッチングがなされなければなりません。こどもが一度失った家庭の部分を、強みに変えていけるような家族に委託することが大事だと思います。けっして年齢とか、お金を持っているからとか、家が大きいからとかではないのです」と述べました。

「一日一日を積み重ねて、ひとつの家族に」

一方で、特別養子縁組で迎えられた養子は生い立ちを知る権利を持っており、血のつながりがないことを養親が適切なタイミングで伝えることも重要です。武内さん夫妻のケースでは、男の子の実母に直接対面しているとのことで、「本人にいつどこまで伝えるかは考えなければいけませんが、こういうお母さんなんだよということを私たちが理解して、全部伝えてあげられることは良かったです」と武内さん。

林さんは「こどもの身の丈以上の夢を、養親としてこどもに託している家庭は実際に多いのではないでしょうか。こどもに『あなたである必然性』を言葉でどう伝えるかは、非常に重要だと思います」と説明しました。

林浩康さん

最後に武内さんは「2人目の子を今、試験養育期間中なんですけど、本当に育児は大変で、毎日がドタバタ(笑)。私たち家族は4人とも血がつながっていないですけど、一日一日を積み重ねて、ひとつの家族になれればいいなと。きょうだいがお互いに助け合い、ときには親の悪口を言い合ったりしながら、育ってくれればいいなと思います」と話しました。

縁組の成立は7年間で1.7倍に増加

林さんによる制度解説では、普通養子縁組と特別養子縁組との違いや、関係機関の役割などについて説明。2018年は特別養子縁組が全国で624件成立しており、2011年(374件)から約1.7倍に増えているというデータを提示しました。

来場者は林さんの説明に熱心に聴き入っていた

生い立ちについて養子に伝える「真実告知」については、自然な形でこどもが理解していくようなやり方や、公的・民間機関の支援の必要性などについて言及。養子縁組をして成人した当事者のコメントも紹介しました。

河瀨直美監督が最新作『朝が来る』に込めた思い

ビデオメッセージを寄せた河瀨さんの最新作『朝が来る』は、特別養子縁組をテーマに扱った映画。一度はこどもを持つことを諦めた夫婦が、特別養子縁組制度で男の子を迎え入れて幸せな生活を送っていたある日、こどもの産みの母親から電話が掛かってくる――というヒューマンミステリーです。

最新作『朝が来る』について語る河瀨直美監督

自身が(祖父の姉夫婦の)養女として育てられた経験を持つ河瀨さんは、幼少時の自分と重ね合わせて、「けっして血のつながりだけではない家族の絆というのは、今この瞬間にも築き上げられています。特別養子縁組という形で育まれた家族によって、救われる命があるんだということは、切実に実体験としても思っているところです」と、作品への思いを語りました。

さらに河瀨さんは「日本は血のつながりを大切にする国民性で、それが悪いことではないのですけれども、一つの価値観だけで縛られていては、排除されてしまう命があることも確かですね」と指摘。「特別養子縁組という制度をみなさんに知っていただいて、夫婦と同じように他人同士が家族を築き上げていくことを認める寛容な社会になればいいなと思います」と締めくくりました。

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