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イベント情報

【2022年度オンラインシンポジウム第3部採録】
真実告知とルーツ探し こどもに寄り添うには

2023年2月4日に開催された「家族を育む こどもを育てたいと願う人へ 特別養子縁組制度オンラインシンポジウム」の第3部は、「こどもたちのルーツ探しへの寄り添い方」をテーマにディスカッションが行われました。登壇したのは、特別養子縁組の養子当事者で特別養子縁組家庭支援団体「Origin(オリジン)」代表のみそぎさんと、慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご」に預けられていま普通養子縁組の養子当事者となった宮津航一さん、そして養子縁組の民間あっせん事業者で「社会福祉法人 日本国際社会事業団」(ISSJ)の常務理事を務める石川美絵子さん。養子としての出自の受け止め方やたどる方法について、親や第三者の視点も踏まえて話し合いました。

<登壇者>
みそぎさん(特別養子/特別養子縁組家庭支援団体「Origin」代表)
宮津航一さん(普通養子/「ふるさと元気こども食堂」代表)
石川美絵子さん(社会福祉法人 日本国際社会事業団 常務理事)

<ファシリテーター>
見市紀世子さん(元・子育て担当記者)

“真実告知”は事実を伝えることだけではない

「自分はどこから来たのか、実親はどんな人なのか、悩みなどの心の内を養親に打ち明けてもよいだろうか」――。養子となったこどもたちの多くが成長するうち、抱くようになるのがこうした思いです。

養親をはじめとした大人にとっても、こどもが自己形成期に抱え込みがちなさまざまな思いや考えについて知り、寄り添うことはこどもの幸せな成長のためにとても重要なことです。養子にとって、自身が養親に託された経緯や生みの親の情報を知ることは、人生にどんな意味をもたらすのでしょうか。

みそぎさんは1歳半まで乳児院で過ごした後に養親との生活が始まり、2歳半で特別養子縁組が成立しました。育ての親が養子の生い立ちなどについて語る「真実告知」の機会は、高校2年生のときに突然訪れたそうです。

「私の受験勉強を父親(養父)が見てくれていたのですが、ある解けない問題があったときに父親が苛立ち(いらだち)を見せ、『この問題ができないのは自分の子ではないからだ』と言いました。その日のうちに両親(養父母)から正式な真実告知を受け、『特別養子縁組は生みの親との縁が完全に切れて、自分たち(養親)と本当の親子の関係になるもの』ということも説明されました。私としては、それ以前から父親が心の中に何か抱えているように感じていたので、真実告知されて腑に落ちた部分もありました」(みそぎさん)

右から石川美絵子さん、みそぎさん、見市紀世子さん

一方、宮津さんは保護者が育てられない乳幼児を匿名で預かる慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」へ3歳のときに預けられた後、児童相談所の一時保護を経て、現在の両親に里親委託されることになり、17歳で普通養子縁組をしました。

「生みの親については覚えていませんが、『こうのとりのゆりかご』の扉に描かれた絵はいまも記憶に残っています。(養親の住む)いまの家に来たとき、最初はなかなか甘えることができなかったそうです。そこで父が提案して5人の兄が1日3回、代わる代わる抱っこをしてくれたのですが、このスキンシップによって家族になれた気がしました。真実告知についても、我が家では早い段階から生みの親と育ての親について話をされていたので自分のなかでも納得感があったと思いますし、その後も折に触れて家族と話していました」(宮津さん)

宮津航一さん(当日はオンラインにて登壇、宮津さんの画像はいずれもシンポジウム前に撮影されたものです)

多くの民間あっせん事業者の研修や里親講習などでは「真実告知は3歳までにスタートし、その子の成長過程に応じて表現を考えながら無理なく行うことが望ましい」とされています。石川さんは、ISSJでおこなっているルーツ探しや真実告知の支援についてこう説明します。

「養親希望者さんにはオリエンテーションなどで『こどもたちのルーツ探しに養親が協力することの重要性』を伝えています。真実告知については幼少のころから始めて、『こどもの年齢に合わせて伝えましょう』と話しています。真実告知とは事実を伝えることだけでなく、養親さんが迎えたときの状況やこどもと会ってどのような気持ちになったか、といったエピソードを伝えることも含みます」

石川美絵子さん

こどもの立場で考えることが“寄り添い”に

養子として家庭に迎え入れられたこどもたちは、真実告知についてどのように考えているのでしょうか。みそぎさんは「真実告知はあくまでも入口であり、それから養親としてこどものアフターケアをして支え、信頼関係を築いていけるかが大事」と話します。宮津さんも、真実告知のあとの両親の言葉や行動で、より家族の結びつきを感じるようになったといいます。

「自分の境遇について常にモヤモヤしていたわけではないですが、節目で悩みや葛藤はありました。ただ、両親は『血縁より家族の絆が大事。家族とは最後まで味方でいる関係性のこと』と私に教えてくれました。私が偏見にさらされたときに、いつも優しい母が涙を流して闘ってくれたこともありました。このように親身になって守ってくれたことで、“家族”というものをより感じるようになったのです」(宮津さん)

宮津航一さん

石川さんは真実告知について「事実を突きつける、という重い行為のように受けとめられてしまいがちですが、こどもたちがポジティブに捉えられるように伝えるのが大事」と指摘します。養親としてわからないことがあったとしても、宮津さんのケースのように「こどもと一緒に悩み、考え、課題に向き合っていくことが“寄り添い”になる」と話しました。

宮津さんの場合は小学校の低学年のとき、生みの母が交通事故で亡くなっていたと知りました。「残念でしたが、そのときは悲しいというよりは出自が分かったことへの喜びの感情を覚えました。その後、養親が一緒に生みの母の墓参りへ連れて行ってくれ、どういう人だったかを聞いて回ってくれたことが本当にうれしかったです。生みの母の情報を知ることで、人生のパズルのピースがはまっていくような感じがしたのです」

一方、みそぎさんは「特別養子縁組」という言葉を家庭内で話しやすい雰囲気ではなかったそうです。そこで、独力でルーツ探しを始めました。まず方法を調べることから始め、児童相談所に情報開示請求をして戸籍をたどり、記載のあった場所の周辺を訪ねて回って情報を集めましたが、実母に関する望むような情報に行き着くことはできませんでした。「ルーツをたどっていることは養親には言えなかったのもあり、肉体的にも精神的にも大変でした」

みそぎさんが立ち上げた当事者支援団体「Origin」には、ルーツを知りたいと思う養子側当事者からの連絡もあります。「人それぞれでケースによって違いがあるようで、開示する情報が制限されているところもあり、歯がゆく思うこともあります」と吐露しました。

みそぎさん

こどもがルーツ探しを望んだときに

ISSJは2020年、養子縁組のルーツ探しに対応する専用の相談窓口を設けました。石川さんによると、ISSJによって委託を受けた養子以外のこども側当事者からも問い合わせがあり、2020年度は28件、2021年度は25件、2022年度は現時点で41件の相談が寄せられています。メールや電話で概要を聞いた後、個別面談で養子当事者がほしい情報を整理し、ルーツ探しにおける助言をするとともに、そのリスクも伝えています。

「こういった照会先に行ってみましょうとアドバイスをしたり、行った後にはどうだったか聞くフォローをしたりしています。ルーツ探しは自分探しの一つであり、人間の成長に欠かせないもの。養子当事者にとっては切実な問題です。欲しい情報にたどり着けないという阻害要因があるならば、こどもの福祉のためにも議論をして改善していくべきだと思います」(石川さん)

養子がルーツ探しをしたいと望むようになったとき、養親はどのように対応するのがよいでしょうか。「何か動きがあったときに緊急対応をするよりも、養親には日常生活の中でどっしりと構えていてほしい。こどものペースや感じ方に応じて向き合うことが大事だと思います」とみそぎさん。

宮津さんは、家族の絆が築かれていればこどものルーツ探しへの渇望は和らぐこともあるとしたうえで、まず親子関係が満たされていてこそ望ましいルーツ探しができるものだと話します。

「『こどもがどう思うか』と慮(おもんぱか)りすぎて真実を伝えないことも、望ましいものではないと思います。やはりお互い正直にうそ偽りなく話して、しっかり真実告知をすることが大切だと思っています」(宮津さん)

こども側当事者であるみそぎさんと、宮津さんの話に耳を傾けていた石川さん。「養親さんにとっては難しいことと思いますが、『お子さんをありのまま受けとめる』というのが大切だと思います。お子さんにとっては、真実を知ることで悩んだり傷ついたりすることもあるでしょう。それも含めて養親さんはこどもに寄り添うことが大切で、こどもが傷ついたときには癒やしてあげるのも親の役割だと思います」(石川さん)

みそぎさんは、もしこどもがルーツ探しにおいて養親に頼らなかったとしても、気にしすぎないでほしいと説明します。養親を信頼していないのではなく、「年月が経ったら話そう」「心配させたくない」といったこども側の遠慮の気持ちもあるといいます。

自身を取材しながらルーツ探しに寄り添ってくれた記者や、出自をたどるなかで知り合った乳児院の職員など、制度へ理解や関心を持つ第三者に伴走してもらったことで、支えられたこともあったというみそぎさん。「第三者の視点というのは、こどもと養親の双方にとって大事なこと。お子さんが家庭の外で話せる場所を見つけたときには、見守って応援してあげてほしいです」。自身が当事者に向き合う活動の基にもなった思いについて、共有してくれました。

第三者に頼ったほうがよいときも

いま大学生の宮津さんも高校3年生のときから、地元・熊本でこども食堂を運営する活動を始めています。コロナ禍で地域のつながりが希薄になっていることも踏まえ、自分より年少のこどもたちに「家以外の居場所を提供したい」との願いから取り組んでいるのだそうです。

そして、宮津さんとみそぎさんはこども側当事者として、石川さんは養子縁組の民間あっせん事業者として、シンポジウムを視聴している人へのメッセージを送りました。

「『置かれた場所で咲きなさい』という言葉が好きです。私自身、親の愛情を受けて、いまここにいます。こどもたちが成長していくためには家族との絆や愛が不可欠であり、そのためには特別養子縁組といった制度が必要だと思います。いま特別養子縁組について考えている方がいれば、ぜひそういうこども達に寄り添っていただきたいです」(宮津さん)

「お子さんを育てていくなかで困ったことなどがあれば、Originでも他の第三者のサポート機関でもいいので頼ってみてください。完璧な親になろうとせずに、ぜひいろいろなところに頼りながらこどもに寄り添ってあげてほしいです。それが、親の愛がちゃんとこどもに愛情として伝わることへと通じるのだと思います」(みそぎさん)

最後に、石川さんは真実告知やルーツ探しについて、「あまり難しく考えて抱え込まないでいただきたい」とも語りかけました。民間あっせん事業者のような第三者だからこそ、違う視点で話をしたり解釈ができたりすることもあり、中立的な立場で間に入ることで情報が得やすいこともあるといいます。

「真実告知とルーツ探しには正しい答えがあるわけではなく、それぞれのご家庭で違った方法があると思うのです。お子さんに寄り添い、日々の生活を豊かにすることの一つとして考えていただけたらと思います。何かあればSOSを出し、私たちにも気軽に声をかけてください」(石川さん)

PROFILE
みそぎ/特別養子縁組家庭支援団体「Origin(オリジン)」代表。生後すぐから1歳半まで乳児院で生活したあと、養親となる両親のもとに迎え入れられ、2歳半ごろに特別養子縁組が成立。20代後半となったいま、会社員として働くかたわら「みそぎ」という名前で自身の経験や思いをブログやSNSで発信し、2020年4月には特別養子縁組家庭支援団体「Origin」を設立。自主開催講演「当事者が考える特別養子縁組」をはじめ、各地で講演を重ねている。
PROFILE
宮津 航一(みやつ・こういち)/「ふるさと元気こども食堂」代表。2003年生まれ。熊本県立大学生、熊本県警本部長委嘱少年サポーター。慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」に預けられ、里親である宮津美光さん、みどりさん夫妻のもとで育つ。2020年に宮津さん夫妻との普通養子縁組が認められ、宮津家の養子となる。上に兄が5人。高校卒業を機にゆりかごの当事者として、実名で自身の生い立ちや思いを発信している。
PROFILE
石川 美絵子(いしかわ・みえこ)/「社会福祉法人 日本国際社会事業団(ISSJ)」常務理事。子育てが一段落した後、民間企業に勤める傍らボランティア活動を始め、ソーシャルワークの世界を知る。日本社会事業大学の養成課程修了後、社会福祉士として登録。2010年よりISSJ勤務。2016年に常務理事に就任し、養子縁組のほか、無国籍児支援、移民難民支援などの事業を統括している。
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