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体験談を読む

「信用できる大人」と暮らすことの大切さ
Z世代が考える特別養子縁組

高梨優佳さん、白井千晶さん

さまざまな理由によって生みの親と暮らせないこどもを、自分の子として迎え入れる特別養子縁組について、若い世代はどう受けとめるのでしょうか。10代後半から20代半ばまでの「Z世代」から人気を集め、SNS総フォロワー数150万人超のインフルエンサー・高梨優佳さんと、社会的養護に詳しい静岡大教授の白井千晶さんに、家族のあり方について語ってもらいました。

高梨優佳さん

大人とこども 両方の目線を持つZ世代

――高梨さんは特別養子縁組という制度はご存じでしたか。

高梨:聞いたことがあるくらいで、正直ほとんど知りませんでした。この対談のお話をいただいてから自分なりに調べてみて、育ての親に親権があること、生みの親との親子関係がなくなること、原則として離縁ができないことなどを知りました。

――事前に調べてくださったのですね。それでは、里親制度はご存じですか。

高梨:はい。小学生のころ「明日、ママがいない」(芦田愛菜主演、2014年日テレ系)という児童養護施設のこどもたちが出てくるドラマが放送されていて、それで知りました。「お試し」で里親家庭に行くこどもたちを描いていて、当時は里親制度について詳しく知らなかったこともあり、同じこどもとして「こういう境遇の子がいるんだ」と思いながら心を痛める部分もあり、夢中で見ていました。

白井:いま高梨さんはこどものころ、ドラマを見て心を痛めたことがあると話してくださいました。高梨さんのような20歳前後の方は、大人の気持ちも、こどもの気持ちもわかるから、両方の目線からお話しすることができる世代なのだと思います。

高梨:はい、きょうは制度についてもっと知りたいなという気持ちで来ました!

高梨優佳さん

――特別養子縁組と里親制度はどう違うのでしょうか。

白井:生んだ親とは別の家庭で育つということは両制度とも共通しているのですが、特別養子縁組は法律的にも親子関係になります。つまり「もう一生離れることなく親子だよ」という制度で、相続などもできるようになります。一方、里親制度は、一定期間こどもを家庭で預かり、「いまはこの家があなたの家庭だよ」と育てる制度。生みの親の状況が良くなったり、こどもが大人になったりしたときに里親の家庭を卒業していくことがあるシステムです。

――若い方の場合、どのようなケースで特別養子縁組の制度を利用するケースがあるのでしょうか。

白井:若くして思いもかけず妊娠・出産すると、たとえこどもを一時的に数年間預けたとしても、やはりその後も育てるのが難しいと想像できることがあります。経済的に苦しかったり、自立できていなかったりなど状況はさまざまですが、そういった場合に、育ての親御さんのところで早くから安定的に育ててもらって幸せになってほしい、と託すことがあります。性暴力などで妊娠し、育てていくことが困難であるといったケースもありますし、妊婦さん自身が病気で、育てていくことができないという場合もあります。

白井千晶さん

――高梨さんの身の回りには、特別養子縁組をしたお友達やお知り合いはいましたか。

高梨:聞いたことがないです。いなかったと思います。

少しずつ受け入れた「新しいお父さん」

白井:実は、再婚家庭で養子縁組をするケースもあるんですよ。多くは普通養子縁組ですが、特別養子縁組をする人たちもいらっしゃる。たとえば私にこどもがいて、パートナーとなる人と再婚したとしたら、新しい結婚相手と私のこどもが養子縁組をするんです。もちろんしなくてもいいのですが、私の知人で養子縁組をしている人たちもいらっしゃいます。だから、意外と身近な制度なんですよ。

(※)特別養子縁組の成立は家庭裁判所が個別のケースにより判断するため、さまざまです。

高梨:そうなんですね。実は私自身、再婚家庭で育ったこどもなんです。私が中学生のときに両親が離婚し、その後新しい「お父さん」と母は出会いました。当時は反抗期だったこともありすごく反発しましたし、高校の3年間も悩みました。友だちに話したり、姉に悩みを聞いてもらったりしていましたね。でも、お父さんは私の習い事や学校の送り迎えをいつもしてくれて。そこで会話を交わすうちにだんだん普通の親子のように話せるようになってきて、「この人は信用できる人だ」と思えるようになったんです。それに、母がすごく幸せそうにしていたので、「なら、いっか」と思えるようになっていきました。

白井:そうだったんですね。いま、高梨さんのお話で「信用できる」という言葉が出てきましたが、「信用できる大人と暮らす」ということは、こどもにとってとても大切なことなんです。ここにいれば大丈夫、ここに帰ってくれば安心できると思える「安全基地」を持つことが、特に小さいこどもにとって必要です。想像すると、この点はわかっていただけるかと思います。

高梨:わかります。私も実家に帰ってきたときが一番安心できます。いまでも新しい父とは仲がいいですし、血のつながった父とも会っています。母も含め、みんな私の仕事を応援してくれています。

愛があればどんなかたちでも大丈夫

――ご自身も、「多様な家族」の一員だったのですね。いまの若い世代の方が、特別養子縁組や里親といった家族のかたちを、どのように受けとめるか知りたいです。そのうちの一人でいらっしゃる高梨さんはいかがでしょうか。

高梨:私たちは顔や名前を知らなくても、共通の趣味や似た価値観の人とSNSを通じて知り合って、友だちになったり、恋人になったりすることが当たり前の世代です。出会い方は重要じゃなくて、「共感軸」が大事。SNSで出会って、結婚することもよくあります。だから、血のつながりなど決まった枠にとらわれずに、気持ちのつながりや愛情があれば家族になることができるんじゃないかなって思います。

白井:そうですね。「二人の血のつながったこどもがほしい」と思い不妊治療に取り組むご夫婦の気持ちも大切で、自分と顔が似ていることがうれしい、自分と子に共通のものを感じる、というのもかけがえのないつながりで、そこは全く否定されるものではありません。一方で、夫婦は血のつながりがないけれども家族。家族って、けんかもするし、コミュニケーションを取り合うし、家族であるために努力する。家族って、変化しながらつながりを持っていくものなんですよね。

白井千晶さん

「ドラマにしたら伝わるかも」

――ところで、若い方に特別養子縁組についてもっと知ってもらうには、どんな方法がいいと思いますか。

高梨:私自身、里親制度についてドラマで知ったので……やはり、ドラマにするのがいいのではないでしょうか。テレビドラマとか、ネット配信番組とか。あまり堅苦しくなく、エンターテインメントの方面からなら、若い人の頭にも入っていくのではないでしょうか。

白井:なるほど。私は大学の学生たちに特別養子縁組や里親について自分事として考えてもらうために「もしあなたのお父さん、お母さんが養親や里親になったらどうする?」と聞くようにしています。ある日実家に帰ったら小さなこどもがいて、あなたの部屋を使っていたら? って。そう聞くと、学生はみんなグッとリアルに感じるようです。「最初はちょっと嫌かもしれないけれど……それもありかな」と答える学生が多いですね。

高梨:私も同じだと思います。最初は「えっ」って思うかもだけど、家族が増えて楽しい、うれしい、って気持ちになると思います! 家族が家族としてつながっていて、幸せにひとつの家族としてなり立っていれば、どんなかたちであれ私はすごく素敵なことだと思います。

高梨優佳さん

どんな年代の人も、自分の目線で考えてみて

――高梨さんの総フォロワー数150万人超という中にも、「多様な家族」の一員がいるかもしれないですね。

高梨:私のSNSをフォローしてくださっている方から、「家族と上手くいかない」っていう相談が来ることもあるんです。全てに返信することはできないのですが、「新しいお父さんが来た」とかなので、私と同じ状況だな、って思うことも。心の中で「頑張れ!」と思っています。

――いろんな人から相談が来ることで、世の中にはさまざまな状況の人がいるんだということを実感できているのですね。最後に、きょうはお二人で対談されて、どう感じられましたか。

高梨:この対談の前までは、特別養子縁組というとすごく難しい、デリケートなテーマで、私の言い方によっては誰かを傷つけちゃうかもしれないと思っていたんです。でも、実際に色々と伺うと、制度を使う人やその周りの人が勇気づけられるようなことなんだとわかって、私も明るい気持ちになれましたし、すごく楽しかったです。

白井:私はきょう、高梨さんが自分の目線で考えてくださったのが、すごくありがたかったです。
特別養子縁組というと、親になりたい人が一生懸命に情報を探している一方で、ほかの人は「自分には関係ない」とか「難しい」と思ってしまいがち。でも、高梨さんは自分の目線で考えて下さった。そのことで、どの年代のどの人にとっても、特別養子縁組はその人の目線で考えられることなのだと思いました。

自分が将来、養子を持つかもしれないと思ったり、自分の友達がそういう選択をするかもしれないと思ったり、自分の家族と照らし合わせてみたりなど、自分事として身近にとらえてくださる方が、高梨さんのお話によってきっと増えると思うんです。きょうは大事な時間を過ごさせてもらって、本当にうれしかったです。

PROFILE
高梨優佳(たかなし・ゆか)/2001年生まれ、福岡県出身。中学生のころから女優を志し、オーディションを受ける傍らTwitterなどSNSでの発信を始めたところ、Z世代を中心に人気に火が付く。インフルエンサー、女優、モデルとして活動中。SNSの総フォロワー数は150万人超。
PROFILE
白井千晶(しらい・ちあき)/1970年生まれ、愛知県出身。静岡大学人文社会科学部社会学科教授。専門は性と生殖にまつわる「リプロダクション」の社会学、家族社会学、医療社会学、ジェンダー論。妊娠・出産の現場で当事者・支援者の声に耳を傾け、母子支援の視点から特別養子縁組や里親制度など家庭養育のあり方を考える。養子と里親を考える会理事・編集長、全国養子縁組団体協議会代表理事、日本ファミリーホーム協議会編集委員。
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