広告特集 企画・制作 朝日新聞社メディア事業本部

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「みんながくれる『だいすき』が好き」
――こどもの心に寄り添って

岡村和樹さん、山内ゆなさん

特別養子縁組制度への理解を深める厚生労働省の新聞広告で、2022年1月に掲載されたキャッチコピー「愛に、血のつながりがいらないことは 夫婦がいちばん知っている。」。SNSを中心に大きな反響を呼んだこの広告を制作したのは、広告会社社員の岡村和樹さんと、児童養護施設出身で施設のこどもたちを支援するボランティアをしている山内ゆなさんだ。この二人が再びタッグを組んで広告を作った。今回、育ての親と生みの親といった家族みんなの似顔絵を描く女の子の写真に添えられたキャッチコピーは、「血がつながっているとか、いないとかより みんながくれる『だいすき』が好き。」。23年1月に掲載されたこの広告を作るにあたり、実際に特別養子縁組をしたこどもたち5人にヒアリングしたという岡村さんと山内さん。制作過程でどんな思いが湧き、どう伝えようとしたのか。二人に話を聞いた。

2023年1月に朝日新聞紙面に掲載された、厚生労働省の啓発広告

大反響があった第一弾のキャッチコピー

2歳から18歳まで児童養護施設で過ごした山内さんは現在、大学に通いながら施設のこどもたちに本を贈る活動「JETBOOK作戦」の代表を務めている。岡村さんは親友が学生時代に施設で暮らしていたことから社会的養護に関心を持ち、山内さんの活動に参加するように。活動を通じて知り合った二人が共作したキャッチコピー第1弾は話題を呼び、広告賞も受賞した。

――昨年度の「愛に、血のつながりがいらないことは 夫婦がいちばん知っている。」のキャッチコピーが世に出てから、ツイート総数が数日間で約7,000件にのぼるなどSNSで大きな反響がありました。反響を受けてお二人に変化はありましたか。

山内:私の周りでは特に変化があったという感じはしないのですが、広告が出た後に友達が渋谷の商業施設の中で社会的養護の認知度を調査したところ、乳児院や里親などを含めた項目のなかで特別養子縁組の認知度がいちばん高かったそうで、それがとても印象的でした。特別養子縁組を「広告で知った」と答えた方も多いと聞きます。特別養子縁組という制度の名前だけでも知っている人が増えたならうれしいですね。

岡村:社内では「この広告を作ったんだね」と声をかけられたくらいなのですが、うれしかったのは、小さいころから僕を知っている母の友達から連絡があったことです。「広告を見たよ。私も特別養子縁組を考えたことがあって、心を動かされました」というメッセージでした。身近なところに養子を考えた経験のある人がいたという驚きと、わざわざ連絡をもらえるくらい心を動かせたんだという嬉しさがありました。

――昨年度はどんなことを意識して作られたのか教えてください。

山内:ちょうどそのころ自分の戸籍を調べる必要があって、見てみたら8人きょうだいの中に2人、特別養子縁組で新しい家族の元に行った子がいると知ったんです。それで特別養子縁組にとても興味を持つようになり、広告賞のことを知って応募しようと考え岡村さんに声をかけたのですが、岡村さんも私も、まだそのときは制度についてあまり詳しくなかったので、どんなものなのか調べるところからスタートしました。

山内ゆなさん

岡村:厚生労働省のサイトやYouTubeで、特別養子縁組された方のインタビューを見るなどして、「養子縁組しようと思っている夫婦の背中を押す」ということをテーマにしようとオンラインで話し合いました。結果的に「養子縁組を選ぶ夫婦にとって、大事なのは血のつながりじゃないよね」というところにたどり着きました。

山内:二人ともそこは一致したのですが、ではどうやったらみんなの身近なものになるかをひたすら話し合いました。そのころ私はまだ大阪の児童養護施設で暮らしていましたので、オンラインで午後9時、10時まで話し合いを続けました。読んですぐに「すごい」と思わせるのではなく、いったん考えてから「確かになあ……」と思わせるキャッチコピーにしようと必死でしたね。

岡村さんと山内さんが制作した厚生労働省の啓発広告の第一弾。2022年1月、朝日新聞紙面に掲載された

こどもの気持ち、当事者に聞き探る

――2回目となる紙面広告の制作にあたって、一番表現したかったのは何ですか。

山内:こどもの立場に立った広告を作るというテーマだったので、こどもの気持ちを探るのに時間がかかりましたね。

岡村:「こどもの視点」を描こうというところが前回との違いで、新聞の見開き広告でビジュアルも入れるというので、複合的に表現できることは何か、とブレインストーミングしながらずっと考えました。

今回岡村さんと山内さんは、特別養子縁組家庭のこどもたちにヒアリングを行なった。山内さんがTwitterで当事者のこどもたちに「話を聞かせてもらえないか」と呼びかけ、それに応じてくれた人から話を聞いた。
インタビューで掘り下げたかったのは、養子にとっての「家族」の捉え方や定義。そして親に対して抱いている気持ちと、それに至った経緯について。そのために「両親との記憶やコミュニケーションについて」「生みの親、育ての親」「真実告知の前と後で両親への感情に変化はあったのか」などについて詳しく聞いていった。
インタビューに応じてくれたのは、高校生からいまこどもがいる30代までの5人。5人それぞれの、さまざまな意見が寄せられた。「特別養子縁組なので実子扱い。2歳下の弟は両親と血がつながっていますが、私のこともたくさん甘やかして育ててくれた」「真実告知の前後で両親に対する感覚はあまり変わらなかった」など。
そうしたこどもの気持ちを知ることが、「養親さん候補の不安を払拭するためのカギになるのではないか」と2人は考えた。

山内:ヒアリングをした人にも、ある程度大きくなってから養子であると意識を持った人とそうでない人など、さまざまな立場の人がいるので、純粋な思いを探るのが大変でした。純粋な言葉、生の感情を聞き出したかったので、本当にその言葉は本心なのかと悩みました。「親に出会えてうれしかった、感謝している」という言葉だけでは表せない思い。私たちが予測しても、本当にこどもたちがそう思っているのかと考え始めたら、難しい作業になりました。
家族のエピソードをうかがっていると、血がつながっているとかいないとかに関係がなく、こどもさんは親のことをすごく大切に思っていて、親御さんもこどもさんのことを大切に思っている気持ちが伝わってきましたね。

岡村:インタビューを進めていく中で、「そのときどう思われましたか」と聞くと、大抵の方が「当時は特に意識していなかった」とおっしゃる。その無意識に本当の気持ちが隠れているのではないかと考えました。5、6歳のころは言葉にせずとも無意識に、ただただ「パパが好き、ママが好き」「一緒にいてくれるのが幸せ」だと思っている。しかし大きくなるにつれて、「あのときはああしてくれて、すごくありがたかった」というように、養子さんの側の養親さんの捉え直しが行われていて、「その後」の話のような気がしました。
お一人だけ、幼児のころに引き取られた方が「ずっと見てくれている人がいるのはすごくうれしかったです」とおっしゃっていて、そこが真実に近いのではないかと考え、ヒントになったと思います。

岡村和樹さん

「幸福の物語」として描きたかった

――今回はキャッチコピーだけではなく、ビジュアル面にもこだわって制作されたと思います。こだわった点やエピソードなどはありますか。

山内:私たちはグラフィックより言葉に強い2人なので、かなり打ち合わせて工夫もしました。前回は特別養子縁組とはこういうものじゃないかな、という考えを言葉にしましたが、今回は対象が養子縁組を考えている方々と決まっていたので、これを見た人はどう思うのか、見た人にどう感じてほしいのかまで、綿密に考えて作らせてもらいました。
ビジュアル面ではデザイナーさんに入っていただいて、こういう感じにしてほしい、と何度も要望を出し描き直してもらいました。

岡村:目指したのは、「こどもの視点」のグラフィックですね。こどもがお絵描きを通して表現できるものもあると思ったので、こどもが素のまま、まっすぐな捉え方をした「家族」って、どういうものになるのだろうかと考えました。言葉だけではなく、グラフィックを合わせたことによって、「こどもの視点」として受け止めてもらえたのではないかと思っています。
一番気を付けたのは、実際に養子縁組をされた人、社会的養護の中にいるゆなさんのような施設の方々、特別養子縁組を考えていらっしゃる方が嫌な気持ちにならないようにということです。そこは心を砕きました。制作過程で、たくさんの方の顔が浮かんできました。
特別養子縁組を「幸福の物語」として描きたかったという僕の思いが強かったんだと思います。

「大好きだから家族」 普遍的な思いを伝えたい

――この木のような、家系図のようなイラストは、どういったアイデアから生まれたのですか。

岡村:家族のイラストを描こうというアイデアは初期のころからありました。デザイナーさんから、「家族のつながり」をテーマにするとイラストで表現しやすいと言われたこともあり、3人で考えました。家族を描いていく中で、こどもがお父さんの絵を描いて、お母さんの絵を描いて、だけではなく、その人たちをつなげているものがあったほうが今回のテーマには合っているのではないかと思ったわけです。
ママとパパがいて、生んでくれたママとパパがいて。最初はイラストを別々にして分けて作ってもらったのですが、こどもってきっぱりと分けて考えることはできないのではないか。それで一緒にしました。
さらにこだわったのは絵の上手さではなく、こどもの素直さ、天真爛漫さ。変に洗練されていないイラストにしたかった。この年代のこどもが好き勝手に、床に寝転がったり壁に描いたりするのなら、こういう絵になるんじゃないかな、と。
家族なら、好きなペットもいるだろうし大好きなものも一緒に入れたらどうかな、とか。

山内:こどもの自由さなら、ペットの魚も描いてほしいと注文しました(笑)。こどもって自分が大好きなものは家族と捉えているはずだから、魚も加えてほしいと。

岡村:そうそう。大好きな人たちと一緒に暮らせる幸せを伝えたかったんです。

山内:こどもから見た家族って、一緒に住んでいるから家族だとか、血がつながっているから家族だとか考えないはず。特別養子縁組だから、血のつながった家族だからとかは関係ない。「大好きだから家族」。大人はいろいろ考えるけれど、こどもからしたら関係ないということを純粋に表現したかったのです。

岡村:こどもって一口に言っても、いろいろなフェーズがあります。小さいとき、思春期のとき、成人してからの気持ちと、それぞれに違うと思います。その中のどこを切り取ったらいいのか。大きくなればなるほど、人によって家族の捉え方が異なります。そこで、「普遍的」なことを伝えたいなと思うようになっていきました。

山内:ヒアリングしていく中で、特別養子縁組がもっと普通のものとして受け止められてほしいという意見がたくさんありました。家族の捉え方をもっと自由に、好きなものは好きという等身大のこどもたちが描けたらいいなと思いましたね。

特別養子縁組はこどもに必要なこと

――山内さんは、18歳まで児童養護施設で育ったのですね。

山内:私は施設が大好きで。施設には60、70人のこどもたちがいましたから、大家族の中で育ったなという感じです。100年という歴史のある施設なのに、大学に進学した人は私含めて2人。でも、施設を出てからも施設で共にすごした仲間とは仲良しです。
仲良しだった子が特別養子縁組で新しい家族のもとに行ったり、仲の良かった子の妹だけ養子に行ったりしたこともありました。当時は仲の良い子がいなくなるのは寂しいなと感じていたくらいでした。

でも、今回調べてみて分かったのは、特別養子縁組は必要だということです。私の施設には、施設が合わず引きこもっていた子もいました。一人ひとりに合わせた家族づくりが必要だと考えさせられました。そのためにも特別養子縁組の認知度を上げ、縁組数はぜひ拡大していってほしいですね。

岡村:僕も中学時代に出会った親友が児童養護施設で暮らしていました。そのあたりから社会的養護のことに関心を持ち、プロボノ(※)で、ゆなさんと一緒に施設の子に本を贈呈する活動をしました。自分が関心を持っていると、心が動くトピックに対して敏感になる。同じ目的で元気に頑張っているNPOの人に出会えると、楽しいです。そのプロジェクトの手伝いが出来て、何かしらの貢献もできる。そのときの手ごたえは格別ですね。

※ボランティア活動の一形態で、社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動。

――お二人は社会的養護に関わる活動をされていますが、今後の展望などはありますか。

岡村:今回、養親さん側でインタビューに応じてくださった方もいて、その方は不妊治療の最後のほうで特別養子縁組の制度について知ったそうで、「もっと早く知っていればよかったな」と言っていました。そういう方々が特別養子縁組と早めに接点を持つにはどうしたらよいか、また特別養子縁組を受け入れられるフェーズというものがあるのでは、とも考えていて、フェーズごとの気持ちに合った形で寄り添っていくことが大事だと思っています。情報発信の形は色々あるので、どうやってアプローチできるかということも考えていきたいです。

山内:私はこれまで通り、社会的養護のもとにいるこどもたち、特に児童養護施設にいるこどもたちに必要なモノやコトを届ける活動を続けていけたらいいなと思っています。施設にいたときに特別養子縁組のことを知っている子って何人いただろうって思ったら、多分片手で数えるほどしかいないと思うんです。
社会的養護下にいるこどもたちが社会的養護のことを知らない、自分たちのことを知らないというのは、もったいないことだと思います。社会的養護下のこどもたちが、社会的養護について勉強したり、色々あるなかから選択したりできる機会を作っていければいいなと考えています。

PROFILE
岡村 和樹(おかむら・かずき)/1992年生まれ。2016年、アサツー ディ・ケイ(現ADKマーケティング・ソリューションズ)入社。約3年半の外資営業を経て、現在は企業の広告コミュニケーション戦略立案に携わっている。プロボノとして、山内さんが代表を務める「JETBOOK作戦」の運営に協力。
PROFILE
山内 ゆな(やまうち・ゆな)/2002年生まれ。社会福祉学を専攻する大学生。2歳から18歳まで児童養護施設で育つ。施設のこどもたちに本を贈る「JETBOOK作戦」の代表を務める。
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