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Netflix『グリッチ ─青い閃光の記憶─』宇宙オタク女子と素行不良少女の友情が熱い韓国ドラマ

Netflix配信中の『グリッチ ─青い閃光の記憶─』(全10話)は冒険のドラマ。突然姿を消した恋人を探すため「UFOマイナー掲示板」のオフ会に行った主人公が、旧友と再会、協力して恋人失踪の謎を追ううちに、怪しい宗教団体の真実に迫ることになる。そこでは恐ろしい計画が進行中で……。韓国留学も経験したライター・むらたえりかが紹介します。
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女の熱い友情を描く

失踪した元カレを追ってカルトの内部に潜入する女性のドラマの配信がスタートした。10月7日から配信中のNetflixシリーズ『グリッチ ─青い閃光の記憶─』だ。

「理性的で常識的であり、非科学的なことは信じない。目に見えるものさえも。信じるのは自分だけ」

主人公のホン・ジヒョ(チョン・ヨビン)のモノローグだ。しかし、これは自分に言い聞かせているセリフ。中学生の頃から、ジヒョには宇宙人が見えている。それも、解散した野球チームの帽子を被った宇宙人だ。

「目に見えたとしても、存在するとは限らない」

30歳のジヒョは、自分の目に見える宇宙人の存在を幻覚だと思い込もうとする。宇宙人が見えること以外は、ジヒョの生活は順風満帆。父親の知り合いの会社に入社し、継母はお金持ちで、結婚を考えている彼氏のイ・シグク(イ・ドンフィ)もいる。同僚のオ・セヒ(チェ・スイム)はジヒョを「ソウルメイト」と言い、その境遇を羨ましがっている。

シグクとの同棲の話が進み、両親との顔合わせまでした。しかし、その最中にジヒョは宇宙人に追いかけられて逃げ出し、食事会は大失敗。その直後、シグクは行方不明になる。ひとり暮らししていた家は引き払われて、もぬけの殻。刑事のキム・ヒョンジョ(リュ・ギョンス)がクレジットカードの使用履歴を調べたところ、最後に買っていたのは海外行きの航空券だった。

ジヒョがシグクのいなくなった場所に行くと、そこにはミステリーサークルのような模様を形づくる虫の大群がいた。宇宙人とシグクの失踪は関連があるのではないかと考えたジヒョは、インターネットの「UFOマイナー掲示板」のオフ会に行く。そこで、中学時代の友人であるホ・ボラ(ナナ)と再会することになる。

ボラとジヒョは、かつて宇宙人をきっかけに仲良くなり、その後、交流がなくなっていた。『グリッチ』が描き出すのは、「元カレを追う」というきっかけから再び強く繋がり合う女性同士の友情だ。

中学時代、隠れて焼酎を飲む不良少女だったボラと、UFO大好きなオタク少女だったジヒョ/Netflix シリーズ「グリッチ ─青い閃光の記憶─」全世界独占配信中

「イカレた女」でも一緒にいてくれる本当のソウルメイト

大人になったボラは「タルクニョン」という名前の動画配信者として活動していた。中学時代にジヒョが熱く語ってくれたUFOや宇宙人の話を忘れずに、UFOマイナー掲示板のオフ会に顔を出し続けている。

一方のジヒョは、ボラとケンカ別れした頃の記憶が曖昧になっている。「ボラに接着剤のにおいを嗅がされたせいだ」というのがジヒョの記憶だ。でも本当は、宇宙人に遭遇したことがきっかけなのではないかと、うっすらと感じていた。

ふたりがシジクの失踪について追うなかで出会うのが、カルト宗教「天の光教会」と、そこで働く大男のキム・ジクジン(コ・チャンソク)。ジクジンは、失踪した娘を探すために、天の光教会に潜入している。

「炭素の体を捨てよ」という天の光教会の教えは、つまり「死」を意味する。2014年、老人ホームで起こった集団自殺事件も、この教会が起こしたものだった。ジヒョとボラは、元カレ失踪の真実を追ううちに、再び起こされようとしている集団自殺の計画を知ることになる。

宇宙オタク女子と素行不良少女の友情というだけでもアツい。ケンカ別れしてもずっと相手を思い続けていたのが、不良のボラだったというのも良い。自分が誤解をしていたくせに、なかなかボラを信じようとしないジヒョに、ついイラついてしまう場面もある。でも、オフ会メンバーたちが、彼女たちのケンカを「仲が良いのか悪いのか」「正反対だけどウマが合う」と話している場面では、あまりにそのとおりで笑ってしまう。

中学生のとき、ボラが自分を酷い目に遭わせたと思い込んだジヒョは、彼女の頬を叩いてしまう。大人になって、ようやく誤解に気づいたジヒョが、ボラに自分の頬を叩かせる。「貸し借りなし」からふたりの友情が再出発していく。

ジヒョが苦しんでいるとき、ボラは思わず「大丈夫、わたしがそばにいる」と声をかける。「貸し借りなし」のあとだからこそ、その咄嗟に出たセリフにグッとくる。

「わたしがイカレた女でも、一緒に暮らせる?」と、ジヒョは失踪する前のシグクに聞いていた。ジヒョがイカレた女でも一緒にいてくれるのは、絶対にボラだ。

ジヒョとボラは、カルト宗教の真実を目撃していく/Netflix シリーズ「グリッチ ─青い閃光の記憶─」全世界独占配信中

「何を信じるかは自分で考えて見つけな」

ドラマは、カルト宗教のなかにいるひとたちのつらさにも踏み込んでいく。

教会のなかで「ソ執事」と呼ばれているソ・ファジン(ペク・ジュヒ)は、信仰を持ってはいるが、ときどき不安になったり、規律を破る行動をとったりしてしまう。ちょっとアラのあるキャラクターだ。

彼女は、天の光教会で「お父さん」と呼ばれるムン・ヒョンテ(キム・ミョングン)と直接顔を合わせられる立場。“お父さん”の妻であり、1976年に宇宙人に遭遇したと言われているペク・ユンソン(ソン・スク)の介護も任されている。ペク・ユンソンは、中学時代のジヒョの憧れの存在だった。

その立場から、信者たちにわがままを言って無理をとおすこともあったソ執事。彼女がクライマックスでとった行動からは、信仰心だけでなく意地やプライドのような感情も感じられた。

また、ジクジンが探していた娘のキム・ヨンギ(クォン・イェウン)は、教会のなかで「アビゲイル」という名前で活動していた。家庭環境によって自分の意思とは関係なく信仰を持ったソ執事とは違う。ヨンギは自分の強い意思で信仰を持っている。教会を守るためなら、他人を銃で撃つこともためらわない。

だからこそ、信仰していたものがカルトであったと気づいたときの苦しみは大きい。信仰のために父親さえ捨てたヨンギ。ジヒョやボラと出会い、彼女はカルトの嘘や隠しごとに気づく。まばたきも忘れるほど見開かれた大きな瞳に涙が溜まっていく様子には、彼女の純粋さと信仰の厚さ、そして捧げてきた人生の重みが表れている。

「何を信じるべきかわからなくなった」と涙目でうったえるヨンギに、ボラは「何を信じるかは自分で考えて見つけな。わたしは忙しいの」と返す。ボラの言葉は、「信じるのは自分だけ」と自分に言い聞かせて生きてきたジヒョへのメッセージのようにも聞こえた。

『グリッチ』はコメディシーンもたっぷりだ。信者たちから隠れなければいけない場面で、ボラの苦手な猫がいたというだけで九死に一生を得たり、オフ会の仲間たちが「筋肉・ビビり・天然」な男性3人組だったりと、笑って見ているうちに、いつの間にか深刻なテーマに入り込んでいく感覚がある。

ジヒョとボラ、ジヒョの同僚・セヒ、ソ執事、ヨンギ、そして、最初に宇宙人に出会ったペク・ユンソン。彼女たちが、男性らや宇宙人に振り回され、ときに助けられて、自分の信じるものと人生を掴もうとしていく。宇宙人を信じていてもいなくても、周囲から浮いていてもいなくても、自分の人生を生きるのだと勇気づけられるドラマだ。

文句や弱音を吐きながらも、ジヒョとボラを助けてくれるカプ大尉(テ・ウォンソク)、チョ・フィリップ(パク・ウォンソク)、キム・ドンヒョク(イ・ミング)が愛おしい/Netflix シリーズ「グリッチ ─青い閃光の記憶─」全世界独占配信中
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ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
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