体験談を読む
こどもと出会うための相談先
「児童相談所」と「養子縁組民間あっせん事業者」の違いを知りたい
森和子さん

特別養子縁組でこどもを迎え入れたいと思ったとき、まずは「児童相談所」か「養子縁組民間あっせん事業者(以下、民間あっせん事業者)」のどちらかに相談するのが一般的です。さまざまな事情で実親と暮らせないこどもと、こどもの迎え入れを望む養親希望者とを引き合わせる点は同じですが、費用や条件など異なる点も多々あります。
それぞれの特徴や違いは何か、また相談する際にどう選べばよいのか。長年にわたり児童福祉の研究者として里親家庭や特別養子縁組家庭、その支援者らに関わってきた森和子さんにお話を聞きました。
2つの相談先 どんな違いがある?
行政機関である児童相談所を通じてこどもの紹介を受ける場合、住んでいる地域の児童相談所の窓口や児童相談所相談専門ダイヤルから相談をします。研修や調査を経て「養子縁組里親」に登録したら、委託を待つという流れです。詳しくは以下の図の通りです。

一方、民間あっせん事業者の場合は、都道府県などの許可を受けた民間あっせん事業者が全国に22カ所あります(2025年1月時点)。運営主体は医療法人やNPOなど、さまざまです。民間あっせん事業者の場合は、住んでいる都道府県などを越えて相談が可能です。
「民間あっせん事業者は独自の理念や考え方を持って運営されているので、手続きもかかる費用もそれぞれ異なります。平成28年に成立した『民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律』によって、養親希望者の面談や研修、家庭訪問等は義務化されていますから、どの民間あっせん事業者に相談しても受けなければいけませんが、なかには『研修については児童相談所で受けてください』というところや、独自のカリキュラムを用意しているところなどがあります」(森さん)

登録条件や費用面で大きな差 自分たちとマッチするか確認を
大きな違いがあるのは、登録の際の条件と費用です。
特別養子縁組は、養親の年齢について、少なくとも配偶者の一方が25歳以上(もう一方は20歳以上)でなければならないと民法で定められています。そのため、都道府県等が独自に定めている養子縁組里親の登録要件も特別養子縁組の要件に合わせてあり、東京都の場合、夫婦のどちらかが25歳以上(もう一方は20歳以上)という条件はあるものの、年齢の上限は設けておらず、共働きも制限していません。しかし、民間あっせん事業者の場合、夫婦ともに42歳以下と定めているところもあれば、50歳以下としているところもあり、事業者によってさまざまです。また、「夫婦のどちらかが一定期間育児に専念できること」を要件としているケースもあります。
さらに、「実子がいないこと」や「2人以上のこどもを迎えること」、「喫煙習慣がないこと」などといった条件設定をしているところもあり、民間あっせん事業者がこどもの福祉の観点から考えたさまざまな条件が設定されています。
費用面でも大きな差が生じます。児童相談所を通じて委託を受ける場合、交通費などの実費は自己負担ですが、基本的に費用はかかりません。ただし民間あっせん事業者は手数料を請求することが認められていて、金額設定も民間あっせん事業者によって異なります。
「たとえば、説明会への参加を有料にしているところもありますし、家庭訪問や研修・実習にそれぞれ費用を設定している民間あっせん事業者もあります。かかる費用をホームページに明記しているところもあれば、面談や説明会で細かく伝えているところもありますね」(森さん)



実親が病院でこどもを産む際の費用を養親側が負担するケースもあるようです。
「私が話をうかがった民間あっせん事業者では、実親さんにかかった出産費用は実親負担で、赤ちゃんの入院費などは養親さんが負担するように棲み分けているとおっしゃっていました。さまざまな理由で費用が払えない実親さんもいらっしゃるので、民間あっせん事業者側も運営に苦慮されています。
また、育児教育入院を必須としている民間あっせん事業者もあります。家に連れて帰る前に赤ちゃんの育て方などを看護師やケースワーカーに教えてもらいながら過ごす期間を設けるのですが、そういった医療機関へ支払う費用も養親さんにかかってきますね」(森さん)
民間あっせん事業者を通じてこどもを迎える場合は、数十万円程度から数百万円程度かかるところまでさまざまです。民間あっせん事業者ではそこで働くスタッフの人件費や事務所の運営費などがかかってきます。
養子縁組家庭同士の交流やホームステイ体験といった個性ある取り組みも
「迎え入れるこどもの年齢」や「手続きのスピード」、「養子縁組した後のフォロー体制」などが両者の違いとして挙げられます。
「民間あっせん事業者のなかには、医療法人が運営していたり、病院と提携していたりするところも多いんです。一概には言えませんが、そういうところには妊娠中から相談に来られる実親さんもいらっしゃるので、新生児の委託が必然的に増えるようです。児童相談所でも新生児委託をするところはありますが、乳児院や児童養護施設から委託されるこどももいるので、平均年齢は少し上がるのでしょう。
それから、相談から登録までのスピード感も民間あっせん事業者のほうが早い傾向にありますね」(森さん)
養子縁組後のフォロー体制は、民間あっせん事業者によってそれぞれの特徴が色濃く表れています。
「たとえば栃木県にある『Babyぽけっと』は、こどもを迎えた養親家族が集まる『すずらん会』という交流会を開いています。
それから新しい取り組みをしていたのは、埼玉県の『さめじまボンディングクリニック』です。クラウドファンディングで資金を集めて、クリニックからのあっせんにより特別養子縁組家庭で育ったこどもたちに、アメリカの養子縁組家庭でホームステイ体験をさせる取り組みをしていました。やはりアメリカは日本と比べて養子縁組家庭も多いですから、養子という事実をマイノリティな存在ではなく、個性と受け止めているアメリカのこどもたちを見て、目から鱗みたいな経験をし、養子であることをポジティブに考えられるようになった人もたくさんいたようでした」(森さん)
こどものルーツに対するフォローも、民間あっせん事業者は整っているところがあります。
「児童相談所では、実親さんとのつながりのフォローは基本的になく、その点では民間あっせん事業者のほうが手厚い印象です。
たとえば東京都の『環の会』では、環の会を通して実親さんがこどもに誕生日プレゼントや手紙を渡すといった機会を設けています。ただし、実親さんそれぞれの事情によって、交流の機会の有無やこどもに伝えられる情報の量は様々です。
児童相談所であっても民間あっせん事業者であっても、こどもが成長して、自分を生んだ親のことを詳しく知りたいと思ったときに、子どもの出自に関して伝えられる情報を可能な限り集めておくことはとても大事なことです」(森さん)
夫婦で納得し、良好な家庭環境でこどもを迎え入れるために
民間あっせん事業者のなかには、並行して児童相談所へ相談することを許可しているところもあります。まずはインターネットなどで情報収集をして、理念等もしっかり読んだ上で、信頼できそうと感じたところに連絡を取ってみてほしいといいます。
「ご夫婦にとってこれからの家族のあり方を考える大事な選択ですので、児童相談所でも民間あっせん事業者でも、実際に担当してくれる方とお会いしてお話してみるのがいいと思いますよ。人と人との出会いですから。そして担当の方とお話しした後に、ご夫婦でよく話し合って、親になるための準備にもなる時間にしていけたらいいですね」(森さん)

何より大事なのは、夫婦が納得した形でこどもと出会い、過ごしやすい家庭環境でこどもが育つことです。こどもの迎え入れを望む養親希望の方々に、あらためて森さんは伝えたいといいます。
「こどもを迎えたらこの子をこう育てたい、という思いってありますよね。特に養親さんはとても高い志を持って、いい子に育てなきゃと考えている人も多いと思うんです。そういう思いは決して悪いことではないですし、それは実子でも同じなんですが、やはりこどももだんだん自我が出てきますから、その子を丸ごと受け止める気持ちでいてほしいと思います。
そして、実親さんが産んでくれたからこそ、こどもとあなたの出会いがある。その生い立ちをこどもが前向きに受け入れられるよう、実親さんへの敬意を持ち続けてほしいですね。
私は研究の過程で、里親家庭や養子縁組家庭に30年近く継続してお会いしてきましたが、血縁を超えて親子になれるんだというご家族をたくさん見せてもらいました。もちろん大変な経験もされたと思いますが、それは血縁があってもそうじゃないですか。特別養子縁組ですばらしい出会いをするこどもたちが増えていくことを心より願っています」(森さん)

元文京学院大学人間学部人間福祉学科教授。心理学博士。児童福祉を専門として、長年にわたり里親、特別養子縁組の家族や支援者と交流を続ける。2025年4月から日本医療大学の教授に就任予定。
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