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多様なこどもがいて、多様な家族がある。
社会全体で子育てを

日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授

林浩康教授

様々な事情によって、生みの親のもとを離れなければならないこどもが、日本に約4万5000人いると言われます。そのこどもたちに「家庭」での養育を提供するのが「里親」と「養子縁組」の制度です。

「里親」は一時的にこどもを預かって家庭環境で養育しますが、里親とこどもに法的な親子関係はありません。一方で、こどもが生みの親との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を養親と結ぶのが「特別養子縁組制度」です。

「社会全体で子育てをする必要がある」と語る林浩康・日本女子大学教授に、「特別養子縁組」の制度の現状や課題などを教えていただきました。

広がりつつある「特別養子縁組」

特別養子縁組の成立件数は近年、年間で600から700件ぐらいで推移しています。児童相談所を介して縁組するケースと、民間あっせん機関を介して縁組するケースが半々ぐらい。児童相談所は全国に220カ所、許可を受けた民間あっせん機関が22カ所あります。国の様々な取り組みもあり、新生児委託(※1)のような言葉も一般化する中で、これまで乳児院にいる期間が長期化していたお子さんが、より養親の方々に託されるようになってきました。

何かあった時に戻れる場所として

法律的に安定した親子関係を築く養子縁組は、長期里親のもとでの暮らしに比べて、自己肯定感や自尊心が高まると言われています。養子縁組であれば成人以降も親子は法的に繋(つな)がりますから、何かあったときに戻る場所があることが一つの要因かもしれません。長期里親家庭と、縁組家庭との比較調査では、養子縁組のほうが家族への帰属意識が強かったという結果もあります。

法律的に安定した親子関係がこどもにとって重要だという

長期里親のもとで暮らし、その後養子になったAさんにインタビューしたことがありますが、そのご家庭には、実子さんと養子さんと、里子だったAさんがいたそうです。Aさんは「養子にしてほしい」と里親さんに言いたかったけれど、なかなか本当の気持ちを言えなかったと言います。18歳の頃にようやく本心を伝えて、成人以降に縁組してもらったそうです。こどもは自分の置かれているポジションを、とても敏感に感じ取ったり、年齢不相応に気遣ったりしています。こどもの立場からしても法律的に安定していることは大きな安心感に結びつきます。

今年4月には民法等の改正があり、制度として残っていた課題もクリアされつつあります。例えば、こどもの要件年齢は原則6歳未満から引き上げられ、15歳未満のこどもの特別養子縁組が可能となりました。

また、養子縁組の阻害要因として「生みの親の同意」が課題にありました。これについては、審判の申し立ての手続きを2つに分け、特別養子縁組が適確であるという審判の申し立ては、児童相談所長も行うことができるようになり、生みの親の同意の撤回可能期間が2週間に制限されました。養親が申し立てる負担が緩和され、縁組が促進されることが期待されます。

特別養子縁組制度が今後さらに普及していくことに期待したい、と語る

児童相談所と民間あっせん機関の連携した情報共有と、記録の保存・開示のあり方について

一方で、実践的な内容はなかなか法律で規定することは難しい面もあります。例えば、養親や養子候補者を探すプロセスは、地域や児童相談所によってまちまちです。管轄内でマッチングできる養親がいないときに、それで終わりにするか、管内ではない他の児童相談所にも問い合わせるのか。こういうことが、現状では、それぞれの児童相談所の努力に委ねられているんですね。そうした点での民間あっせん機関と児童相談所の連携も今後より一層進めていく必要があると思います。

記録の管理や、成人した養子による情報へのアクセスや開示のあり方も大きなテーマだという

また、「児童の権利に関する条約」では「児童は『できる限りその父母を知る』権利がある」と定められていて、出自を知ることはこどもたち一人ひとりの権利です。日本では、平成30年4月から施行された養子縁組あっせん法の指針に基づき、民間あっせん機関には出自情報の永年保存が義務づけられました。児童相談所にも同様に永年保存が求められています。現在、厚生労働省において、養子となった児童の出自を知る権利を保障するために、記録すべき情報やその開示方法の指針の検討を進めていると聞いていますが、今後も出自情報へのアクセスや開示のあり方などは議論していく必要があるでしょう。

生い立ちのストーリーづくりには協働作業が必要

「特別養子縁組制度」の別の実践的な課題として、養子であることをこどもに伝える「真実告知」があります。近年は小学校で二分の一成人式や生い立ちを振り返る授業もあって、そういった場面で養親さんが困ることがあると聞きます。真実告知は、一過的に終了するものではなく継続的に年齢に合わせて伝えていくもの。どう伝えていくかに、正解はありません。正解がない中で、ストーリーをどのようにつくっていったらいいでしょうか?

近年は小学校で二分の一成人式や生い立ちを振り返る授業があり、そういった場面で養親さんが困ることもあるという

養親だけで考えても出てこないですし、支援者だけでも出てきませんよね。真実告知は、「真実」であって「事実」ではないと言われます。例え事実は「神社の境内に丸裸のまま置かれていた」であっても、それをそのままこどもに伝えるでしょうか。こどもにとって重要な情報を、ストーリー性をもって真実として伝える。これは養親と支援者との協働作業でないとできないものです。場合によっては周りのこどもたちへの伝え方など、学校の先生も含めて一緒に考えてもらう。そうしたことも啓発に繋がっていくと思います。

多様なこどもがいて、多様な家族がある

特別養子縁組や里親制度など、生みの親が育てられないこどもは社会が責任をもって育てていく必要があると私は考えています。「社会的養護」と言われますが、「社会」には市民一人ひとりが含まれます。多様なこどもがいて、多様な養育者、多様な家族がある。私たちが持っている家族観をアップデートすることが、多様な担い手をつくっていくことにつながります。

市民一人ひとりが責任を持って、社会全体でこどもを育てていく必要がある、と語る

最後に、社会的養護の例として、パリのパランパルミル(「1000人の親」という意味)という団体をご紹介しましょう。「半里親制度」とも言われますが、主に30、40代の独身女性・男性をターゲットにしていて、施設にいるこどもではなく、一般家庭のこどもと週末を過ごすプチ里親のような制度です。親子関係はずっと一緒にいるとどうしても煮詰まる部分があります。親子が離れる中で、親がリフレッシュすることも必要ですし、こどもも親だけではなく他の人にかわいがられる体験も必要。様々な人に、自分にできる範囲のことをやってもらい、養育を共有するという仕組みです。もちろん責任問題などもありますから簡単に言えることではありませんが、困ったときに助け合ったり、お互いに預け合ったりする、他人の子を育てることが当たり前の社会づくりが今の日本にも必要ではないでしょうか。

※1 新生児委託:生みの親に養育されることが難しい生後28日未満の新生児を、特別養子縁組を希望する夫婦に委託する取り組み

PROFILE
林浩康(はやし・ひろやす)/日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授。専門は社会福祉学。社会的養護やこどもの支援のあり方をテーマに取り組んでおり、当事者たちの声に耳を傾けることを基本としている。
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