XXしない女たち #02

管理職になりたくない女たち。27歳女性「私の人生に、管理職になることは本当に必要ですか?」

情報爆発時代の中で、私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないことですか?自分ルールの中で生き、社会の“こうあるべき”を手放す人たちだっている。働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研による連載「XXしない女たち」第2回目は、管理職になりたくない女たちをお送りします。
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デザイン会社に勤務するKさん(29)。プロジェクトのマネジメントをしたり、方向性を示したりする「ディレクター」として働いている。社内プロジェクトにも複数かかわるなど、周りからの期待も厚い中堅社員だ。「自分なりの方法でクリエイティブに貢献できることにやりがいを感じてますね」
結婚や出産をしても働き続けたいと考えているKさんだが、管理職になることへの意欲は高くないという。

管理職はコストパフォーマンスもタイムパフォーマンスも悪い

キャリジョ研が行った調査によると、「管理職になりたい」と答えた男性は57%と、2人に1人以上に対し、女性は32%と3人に1人程度。男女で差があるようだ(※1)。男女ともに管理職へのメリットとして挙げているのは「給料があがる」「仕事への達成感を感じる」など。ただ、男性は「社会的地位の向上」や「仕事上での意思決定がしやすい」といったポジションに連動したメリットを連想している一方、女性は「部下や周りに頼られる」「社内外のネットワークが広がる」「人をまとめる」などリーダー的な存在となることをイメージしていることがうかがえる(※1)。リーダーシップはすでに現場で発揮しているため、「業務負担をさらに増やして管理職になる必要性ってなに?」というのが女性側の本音かもしれない。

Kさんも、管理職になることのメリットが見えないという。「現場の仕事は大変なこともあるんですけど、なんだかんだ楽しくて。管理職って、現場と社内調整との間で圧迫されそうで、拘束時間的にもマネジメント的にも厳しくなりそうですよね」「キャリアアップはしたいです。でも、今後のキャリアに管理職になることが必要なのか、腑に落ちてないですね」

上の世代を見ると、「ワークとライフはトレードオフな実態」

Kさんの会社にも、女性管理職はいるという。ただ、子どもがいなかったり、パートナーが不在だったり。「上の世代を見ていると、正直『仕事と生活はトレードオフなんだな』と思ってしまいます」。働くことにやりがいを感じているが、人生のすべてをワークに振っていくつもりはない。
「結婚・出産の予定はまだありませんが、ライフスタイルを充実させながら、仕事もいきいきやっている――そんな生き方が憧れです。それは管理職になったとしても、ですね」。仕事とプライベートを両立できる管理職像を求めているのだろう。
キャリジョ研の調査でも、『管理職になりたくない』と回答した女性たちにその理由をたずねたところ、「プライベートを大切にしたい」といったQOL維持への不安が多く挙げられた(※1)。

女性管理職にこそ、ロールモデルを

今回の調査では、管理職へのイメージも質問。「部下のモチベーションを上げることができる」「正しく評価できる」「業務担当者として優秀である」などの18項目すべてにおいて、女性の方が高い結果となった。(※1)。管理職に求めるスキルの水準が、男性より高いといえるだろう。
Kさんも「自分だけでなく部下のスキルアップや組織全体の強化っていう視点が必要ですよね。正直、できる自信がないです」と漏らす。特定の理想像があるからこそ、自分の能力とのギャップを感じ、不安になる――。そのイメージを壊すような新しいロールモデルが必要だと感じるという。「お手本にしたいライフスタイルを過ごす女性管理職が身近にいてくれたら、すごくホッとすると思います」

そもそも、なんで女性管理職を増やさなきゃいけないんですか?

女性の生き方は多様化しており、ライフステージによってキャリアの選択も変わる。様々なライフスタイルがある女性を意思決定の根幹に据えることは、もはや企業にとっての生存戦略の一つと言ってもいいのかもしれない。
一方、日本の管理職に占める女性の割合は14.8%、役員の割合は5.2%と、主要7か国中では最低水準(※2)。この、女性の管理職の割合を議論する際に沸き起こるのが「単に女性管理職の数を増やすことは本質的なのか?」という論点だ。単に女性だからといって白羽の矢を立てられても、納得感が低いだろう。
女性管理職の数を増やすことは目的ではなく、あくまで手段。独自の生き方や多様な意見が、組織の意思決定に反映されることが何よりも大切なはず。
「管理職になって」と会社に言われたらどうするか?Kさんはこうも話している。「『なぜ、そのポジションに私をつけようと思ったのか?私に何を期待しているのか?』を言語化してほしい。それを聞いたうえで判断したいです」
女性の管理職の割合を増やすことは、生きやすい社会の実現の一歩でしかない。ただ、会社として割合を増やすことを意識した時に、一人一人に何を期待しているのか、共有することから始めてみてはどうだろうか。「女性管理職」という言葉から、「女性」の文字が消える社会はその先に待っているはずだ。


※1…博報堂キャリジョ研実施独自調査 2021年6月29日 男女20~30代 N=700を対象に実施 
※2…令和2年 内閣府実施 経済財政諮問会議提出資料 P.5~6より抜粋

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1993年生まれ。中国出身、東京都在住。慶應義塾大学で美術を学んだのち、外資系エージェンシーを経て現在は博報堂キャリジョ研所属。戦略プラナー/サービスデザイナーとして食品、トイレタリー、化粧品などの分野で、クライアントのコミュニケーション戦略や商品開発、新規事業立案に携わる。男女ともにフラットな社会を実現するため、プランニングに日々邁進。最近は筋トレとコーチングの学びにいそしむ。