「コロナうつ」は自分で予防できる!精神科医がすすめる、簡単メンタルトレーニング

ウイルス感染への恐れ、外出できないストレス、先の見えない将来への不安……。新型コロナウイルス感染症拡大とともに心の不調を感じる人が増え、「コロナうつ」という言葉も生まれました。コロナうつはどんな症状? 対策は? コロナうつにならないために、今からできるメンタルトレーニングを精神科医でマジシャン、新体操日本代表フェアリージャパンなどのメンタルコーチを務める志村祥瑚さんにうかがいました。

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コロナうつのメカニズム

 ── 「コロナうつ」は、どのような症状を指すのでしょう?

志村祥瑚さん(以下、志村): 主な症状は、気分の落ち込みです。日中もやる気が出ない、仕事をしたくてもできないといった症状ですね。これに加えて、食欲の低下、頭痛、めまいなどの症状が出ることもあります。自粛期間における環境の変化により、これらの症状を引き起こすと考えられます。

また、「不安」もコロナうつの大きな要因です。新型コロナウイルスにまつわるニュースを見て不安になり、安心材料を見つけようとSNSやサイトで調べにいく。でも答えがないことの方が多いので、さらに不安になる……。これを繰り返すことで、不安が増大してしまいます。

── 思い当たる節があります。SNSで「コロナ 症状」と検索して、一日中調べてしまったり……。

志村: 夜遅くまでスマホのブルーライトを浴びると眠れなくなり、生活リズムが崩れ、気分が落ち込むという悪循環を生みます。

また、未来に不安を抱く方も少なくありません。自分の仕事はどうなってしまうのか、医療崩壊してしまうのか、当面の資金は大丈夫なのか。でも未来のことは誰もコントロールできないので、何もできない自分に落ち込んだり、イライラして身近な人に当たってしまいます。

このような一連の流れを、私は「不安のドミノ倒し」と呼んでいます。ドミノ倒しは、はじめのひとつを押すとパタパタと倒れていきますよね。コロナうつも構造は同じで、最初の原因はひとつ。それは、自分がコントロールできないことに注意を向けすぎてしまうことです。

自分でコントロールできる行動にフォーカス

 ── 不安のドミノ倒しから抜け出すためには、どうすればいいでしょうか。

志村: 不安は危険を知らせるアラーム機能でもあるので、注意が向きやすいんです。不安なことばかりに注意が向いてしまうと、何をしても心ここにあらずな状態になってしまう。

不安のドミノ倒しを防ぐためには、コントロールできない未来の話や他人のことではなく、コントロール可能な「自分の行動」に注意を向けることが大切だと考えます。

── コロナうつを防ぐ具体的な方法はありますか?

志村: 外来の患者さんには対処療法の薬ではなく、「行動予定表」をつくることをおすすめしています。毎晩寝る前に、翌日起きてから寝るまでの予定をノートに書いていきます。このように、一日の行動を書いて矢印でつなぐだけです。

起きる→顔を洗う→シャワー浴びる→メイクする→朝ごはんを食べる→読書する→散歩する→仕事する→お昼ごはんを食べる→仕事する→SNSで返信をする→コロナの情報を少し調べる→夜ごはんを食べる→家族と団欒する→お風呂に入る→寝る…

自粛期間中は特に、自分で自分をコントロールする力が求められます。行動予定表はスケジュール帳であり、リマインダー。一時的にニュースやSNSに注意が向かっても、行動予定表を確認することで集中すべき自分の行動に意識を戻すことができます。

── 行動は自分でコントロールすることができますからね。

志村: 行動予定表を書いて、実際に行動していくと「自分で選んでいる」感覚になります。幸せは結果やお金ではなく、行動を自分で選べる自由にあるんですよね。自分の人生をコントロールできている実感があると、自己肯定感も上がっていきます

実は、私がメンタルコーチを務めるオリンピックの日本代表選手にも普段からこの行動予定表を取り入れています。オリンピック選手は「金メダルを取らなきゃ」と考えることが多いのですが、金メダルはあくまで結果。自分たちでコントロールできる日々の練習にフォーカスできるよう、行動予定表を使ってトレーニングしています。

行動予定表のつくり方

── ここからは、行動予定表のつくり方をうかがいたいと思います。まず、行動ひとつひとつにかける時間は決めた方がいいのでしょうか?

志村: 決めません。時間で管理しようとするとうまくいかなくなります。慣れないうちはひとつひとつの行動にどれくらい時間がかかるかは分かりませんし、時間を守れないと罪悪感がうまれ、別の不安が出てくる可能性があります。環境が変わった時期ならなおさらです。

一日の終わりに行動予定表を振り返ると、どんどん行動を管理するのがうまくなっていきます。たとえば、お昼ごはんを食べたあとは眠くなるから、読書ではなくスマホをいじる時間にしよう……といった具合に。パズルのピースのようなもので、だんだん自分の行動パターンやうまい組み合わせ方が分かってきます。最初は難しくても、繰り返すにつれて楽になっていきますよ。

── 行動予定表に書いた方がいいことはありますか?

志村: 書かなければいけないものはありませんし、数もあまり気にしません。最初は「起きる→朝ごはん→お昼ごはん→夜ごはん→寝る」から始めていけばいいんです。

おすすめの行動があるとしたら、散歩ですね。太陽の光は浴びたほうがいいので、できれば太陽が昇っている11時~14時のあいだに外にでる。それを行動予定表に入れるといいと思います。

── 行動予定表は「ノートに書く」とおっしゃっていましたが、デジタルよりも紙のノートがいいのでしょうか?

志村: 私は紙のノートをおすすめしています。スマホやパソコンなどのデジタルツールを使うと、ブルーライトを浴びて眠れなくなったり、ニュースやSNSに注意を持っていかれる可能性が高いので。

できれば行動予定表と並行して、スマホの通知をすべてオフにしていただきたいです。最初は抵抗があるかもしれませんが、スマホの通知を消すと自分の行動をコントロールできている感覚がより強くなります。通知がきたタイミングでどんどんオフにしていくとそこまで大変な作業ではありませんよ。

  • ▼ 行動予定表のつくり方 ポイント

  • ・ひとつひとつの行動にかかる時間は決めなくていい

  • ・一日の終わりに行動予定表を振り返り、自分にとって最適な行動の組み合わせを知る

  • ・最初は「起きる→朝ごはん→お昼ごはん→夜ごはん→寝る」から書いてみる

  • ・できれば紙のノートを使う(スマホの通知はオフにする)

行動のハードルを下げて、新しいことに挑戦

── 環境の変化に戸惑いがある一方で、自粛期間で新しいことに挑戦する人も少なくないように思います。新しい習慣づくりという意味でも、行動予定表を活用できますか?

志村: 活用できると思います。新しいことに取り組むときに大切なのは、自分がそれをやっているプロセスをイメージすることです。たとえばランニングであれば、どのウェアを着るのか、どのシューズを履くのか、どのルートを走るのかを具体的にイメージします。

そして行動予定表には、行動のハードルが低いものを書いていきましょう。はじめからハードルを高くすると挫折してしまうので、「やってもやらなくてもどちらでもいい」くらいにハードルを下げた行動を書いていきます。たとえば、このようなイメージです。

・ランニングする場合 → ランニングウェアに着替える
・本を1冊読む 場合→ 本を開く

ランニングウェアを着れば外に出たくなりますし、本を開けば1ページは読むんです。おもしろければ、楽しんでで続けることができます。

── 望む行動の一歩前にある、小さな行動を書けばいいのですね。

志村: 自粛中に限らず、人生小さな行動の積み重ねだと思います。自分のしたいことを小さく始めるとどんどん楽しめるようになって、最初はランニングウェアに着替えるだけだったのが数年後にはフルマラソン、ホノルルマラソンに出ているかもしれませんよね。

今は粛々と、自分が楽しいと思える行動をつづけることが大切だと思います。

 

▼コロナうつに負けない、志村先生のメンタルトレーニングはこちら
https://shogoshimura.com

 

●志村祥瑚さんのプロフィール
精神科医、マジシャン。慶應義塾大学医学部卒。一般社団法人日本認知科学研究所代表理事。幼少期よりマジックを始め、マジックの持つ錯覚や思い込みのメカニズムに興味を持つ。2012年ラスベガスジュニアマジック世界大会優勝。「思い込み」の研究をしていくために精神医学を専攻し、精神科医としてマジックを融合させたメンタルトレーニングライブを全国で行っている。 カヌースラロームオリンピック日本代表選手、新体操日本代表「フェアリージャパン」等、トップアスリートのメンタルコーチを務める。

 

フリーライター/コミュニティマネージャー。慶應義塾大学卒業後、IT企業の広告営業、スタートアップのWebマーケティング・コミュニティ運営を経て、フリーランスのライター・コミュニティマネージャーとして活動中。2019年はデンマークを拠点に「誰もが自分らしさを取り戻せるコミュニティデザイン」を模索しています。
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