異端児として表彰の川谷絵音さん「僕から見たら周りのほうがよっぽど異端」

男性誌『Esquire』(株式会社ハースト婦人画報社)が時代を変える“異端児”たちを表彰する「The Mavericks of 2018」の授賞式が11月都内にて行われ、又吉直樹さん、金子ノブアキさん、川谷絵音さんらを始め計5人が受賞式に参加。感想を求められた又吉さんは、「綾部さんのご両親に僕も頑張っていることを伝えたい」と笑いを誘い、金子ノブアキさんは「こういった賞を貰ったことが無かったので嬉しいです」とコメント。川谷絵音さんには、さらに詳しく、異端児と呼ばれることや最近の気持ちの変化について聞きました。

努力しないのではなく、努力ができない

「The Mavericks of 2018」は自分の信念を曲げずに物事を成し遂げてきた”異端児”を表彰する賞だが、川谷さんの受賞の感想はといえば、
「いやぁ、自分を異端児なんて思ってないんですよねぇ」
おっと!つい先ほどまで“異端児”として表彰式が行われていた直後のインタビューで、いきなり自分は“異端児”ではないと言われてしまった。

「特別自分が変わっていると思わないです。個性的な人はどこにでもいるし、僕から見たらまわりの方のほうがよほど異端に見えますよ。あの方(壁に掛かっている写真を見て)なんて、見るからに激しそうでよっぽど異端っぽいですよ」

写真を指差しながら、屈託のない笑顔で答える。確かに写真の人物の表情が激しくて、つられて笑ってしまった。しかし、バンドを4つ掛け持ちしながら、執筆して、ラジオに出て、夏にはドラマにも出演するなど実に多才ではないか。

「作曲なんて鼻歌でみんな作れるだろうし、バンドマンは世の中たくさんいる。全部普通です。バンドが4つと言っても、そうしようと思ってしたわけではなく、気が付いたらそうなったまで。僕、誘われたら断らないんです。断らないでやっていたら、どんどん話が進んで今の状態になった。これからもっと増えるかもしれないし、全部その延長です。特に力んだり、これを絶対やるぞ!っていうのもない。その場その場で何とかなっちゃうんですよね。行けば何とかなる。今だって(このインタビューのこと)何とかなっているし。

もちろん、1つひとつに思い入れはありますよ。でも1つのことだけをやっているわけじゃないので、パッとやってすぐ忘れちゃう。僕、努力ができない人間なんです。努力しないんじゃなくて、できない。なるべくダラダラしていたい。温泉とか行ってボーッとしていたいですもん」

鼻歌でみんな作曲できるの?努力できないと言いつつ、数々のクオリティの高い作品の数々を生み出す彼は、やはり天才肌なのだろうか。

「どうなんですかね。何かやらなくちゃというのがなくて、好きなことをやっていたら、そのまま形になっているだけ。でも決して手を抜いているわけではなく、頭は常に動かしています。色々なことを同時進行していて、一個一個考えていないけれど、ずっと頭は使っています。いつもたくさんの人に会って刺激もあるし、インプットも多い。総括してすべてが繋がっていく感じです。現場、現場に行ってそのつど、その瞬間にわっと集中してやる。で、終わったらすぐ忘れる。特に信念とかもないし、逆境にも弱いですよ」

怒らない、戦わない。「そんなこともあるよなぁ」と思えるようになった

社会が同一化を求め過ぎて、生き辛さを感じるようなことはあるのだろうか。

「前は感情が高ぶって怒ってしまうこともあったけれど、最近は辞めました。ファンの方から“ひふみん(棋士の加藤一二三名人)の日めくりカレンダー”をもらったんですよ。あれを毎日見ていたらどんどん癒されて、怒ったりするのがバカバカしくなってきた。怒らなくてもいいって、ひふみんが言っているし、いちいちムキになるのは辞めようと。

仕事に関してもそう。ひふみん前・ひふみん後みたいになるけれど、前は人と意見が違っても意見を屈しないようなところがあったんです。でも、そもそもすべて自分が思うようにはいかない。我慢とはまた違うんだけれど、まぁそんなこともあるよなぁ、って思えるようになりました。

音楽においては、僕しかいないので。バンドをやっていても僕が主導で動いていて、メンバーもそのやり方やクオリティをリスペクトしてくれている。僕もそれに応えるようにしています」

恋愛は、いまだにわからない。結婚する予定もないし

恋愛はどうなのだろう。

「恋愛は、いまだにわからない。息苦しいのか自由なのか、どうなんでしょう?結婚する予定もないですし。プライベートも僕は落ち着いているけれど、マスコミが落ち着いてくれないんです(笑)」

半分笑いを誘うようなコメントを聞きながら、以前と比べてSNSでも雰囲気が変わったように感じたことを思い出した。正直でウソがない印象。

「僕は嘘つきますよ。『おやすみ』と呟いて寝てないですもん。そのまま作業していたりします。真面目な話もそう。あれはあれで嘘の世界で楽しむ感じでいいと思います。SNSの使い方も変わりましたね。以前と違って戦わないようにしたんです。Twitterは面白いことを書けばいい。名言とか意識高いことを書いてる人がいるけど、意味がよくわからない。もっと気軽にやっていいと思う。これも、ひふみんカレンダーのおかげ(笑)」

インタビュー後に「今日、何回ひふみんって言ったかなぁ」と笑顔でスタッフと話している様子を見ながら、あれほどの多才さと自信と繊細さと、そして表情がクルクル変わりながら時には鋭さも垣間見せる。又吉さんも話していたが、異端児は自分のことを「僕異端児ですから!」とは言わないだろう。ただ、自分は“自分にとって”普通のことをしているだけという彼の今後から、ますます目が離せない。

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。