日本人が悩む「片頭痛」 専門医に聞く基礎知識と対処法

片頭痛は男性よりも女性に多い
実は頭痛にはさまざまな種類があり、それぞれに原因や症状があります。そこで第1部では、「いつ病院へ行く?知っておきたい片頭痛基礎知識」と題して、知っているようで知らない頭痛について、頭痛専門医の五十嵐久佳先生に基礎から解説していただきました。
頭痛のタイプは一次性頭痛と二次性頭痛の大きく2つに分類されます。一次性頭痛とは、他にはっきりとした原因や疾患が見当たらない、「頭痛そのものが病気」の頭痛です。一方で、二次性頭痛とは、他の疾患が原因となり症状としてあらわれる頭痛です。
一次性頭痛の代表的なものには片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛があり、これらは「3大一次性頭痛」と呼ばれています。

一次性頭痛の中でもっとも有病率が高いのが緊張型頭痛です。その発生には「身体的や精神的なストレスが複雑に関係していると考えられています」と五十嵐先生。
長時間のパソコンの使用、車の運転や、寝るときの枕が合わないなどの無理な姿勢の維持によって頭から肩にかけての筋肉が緊張すると、神経を刺激して発痛物質が放出され痛みを引き起こすと考えられています。特に、筋力が弱い女性は頭部をしっかりと支えることができず、頭痛を起こしやすい傾向があるようです。
精神的なストレスが原因で頭痛を発症するケースもあり、「精神的に緊張した状態が長期間続くと、脳の痛みを調整する部位が機能不全を起こし頭痛を引き起こしてしまう」とのこと。精神的ストレスを原因とする緊張型頭痛には、抑うつ状態などが関連することもあるそうです。
一方、片頭痛は頭の片側または両側がズキンズキンと脈打つように痛むのが特徴です。繰り返し起こり、吐き気をともなうこともあります。また、光と音に敏感になることもあります。発作的に起こり、家事や仕事が手につかず、吐き気や嘔吐で寝込んでしまうなど、「日常生活に支障をきたすことが多い」と、五十嵐先生は話します。
片頭痛は4時間程度のこともあれば、3日間くらい続くことも。しかし、痛みがおさまると健康な人と同じように生活や行動ができます。

片頭痛は、痛みの起こる直前に前兆をともなうかどうかで「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」に分類されます。前兆の例としては、目の前にギザギザした光が見えたり、物が見えにくくなったりなど、視野に異常が発生する“閃輝暗点(せんきあんてん)”などがあります。また片頭痛は女性ホルモンの変動と深く関係があり、男性よりも女性の方が発症しやすく20〜40代の女性は特に注意が必要です。

「片頭痛は思春期から閉経までの女性に多く、片頭痛を持つ女性の約半数は月経前から月経中に痛みが起こることを自覚しています。月経痛がひどい場合、経口避妊薬(ピル)を使用されることがありますが、前兆のある片頭痛の方にはエストロゲンを含む経口避妊薬は脳梗塞の発症率が高くなるため、原則として使ってはいけない(禁忌)とされています」(五十嵐先生)
あなたは頭痛が原因で病院に行ったことはありますか?
イベント参加者のみなさまにご協力いただいた事前アンケートの「あなたは頭痛が原因で病院に行ったことはありますか?」という設問では、34%の方が「いいえ」と回答。多くの人が悩む頭痛ですが、アンケート結果から医療機関を受診していない人も一定数いることがわかります。

五十嵐先生は「初めて頭痛を経験した、いつもと違う頭痛が起こった、突然頭痛が起こった、日増しに頭痛が強くなるなどの場合は命にかかわる病気の症状として頭痛があらわれている可能性がありますので、すぐに受診が必要です。いつもの頭痛であったとしても、日常生活に支障がある、頭痛がつらい、市販薬が効かなくなった、頭痛が増えてきたなど、気になることがある場合は是非、医療機関を受診して医師に相談してください」と、積極的に受診することの大切さを説明します。
受診前に「頭痛チェックシート」の活用を
第2部は、「頭痛専門医が勧める対処法は?」と題して、子どもの頃から頭痛に悩んでいるというモデル・俳優の高山都さんをゲストに迎え、五十嵐先生に頭痛の対処法を解説していただきました。

「なんとなく自分の中で経験上これは頭痛、今回は片頭痛、これは生理に関連する頭痛と勝手に自己診断していました。これって危ないんだなと。素人が勝手に決めずに、ちゃんとお医者さんに診てもらった方が良いですね」と高山さん。
五十嵐先生は、医療機関を受診する前に、Webサイト「頭痛オンライン」に掲載されている「頭痛チェックシート」でチェックしてみることを勧めています。いくつかの質問に答えるだけで、自分の頭痛がどのタイプなのかを予想することができ、医師にしっかり症状を伝えることで、正確な診断がつきやすくなるためです。
頭痛を誘発することの多い食品とは
片頭痛を予防するには、朝昼晩3食バランスよく食べる、定期的な運動をする、良質な睡眠をとる、の3つが大切です。さらに、五十嵐先生はハーブティーなどのリラックス効果が期待できる飲み物を勧めます。リラックス効果が得られれば頭痛の原因となるストレスが軽減されることもあるのだそう。
一方でコーヒーなどのカフェインを含む飲み物は少し注意が必要です。カフェインには血管の収縮作用があり、痛みを和らげることもありますが、日頃から飲み物によって摂取しすぎると、飲まなくなった時に血管が拡張し、頭痛の原因となることもあるからです。つまり、規則正しい生活を心がけ、健康的な生活をすれば、ストレスが軽減されて頭痛の改善につながるようです。
また、五十嵐先生は、肩を左右に大きく回す運動と、肩を前後に回す運動を取り入れた「頭痛体操」も紹介。

体操による刺激をストレッチ信号として脳の痛み調節系に送るため、片頭痛の予防になるのだそうです。ただし、片頭痛は動くと悪化するので、片頭痛が起こっているときは体操を控えたほうがいいとのこと。
反対にやってはいけないことは、不規則・不健康な生活。アルコールも注意が必要で、「アルコールは頭痛を誘発することの多い食品です。ワインや日本酒などの醸造酒は蒸留酒より頭痛が起こりやすいと考えられます。自分がどのお酒で頭が痛くなるか、月経のときに飲むと頭痛が起こるなどタイミングも覚えて、飲みすぎは控えましょう」とのこと。

早めの診察・処置が必要
高山さんが頭痛において気になるのは、女性だからこそ気をつけなければいけないことについて。五十嵐先生によると、特に片頭痛は子どもの頃は男女の比率がほぼ同じですが、初潮を迎えたあとの10代後半になると女性の方が多くなり、30代では女性の5人に1人が片頭痛に悩んでいるそうです。
「片頭痛は月経2日前から月経中に起こりやすいです。月経前や月経中に起こる頭痛の65%は片頭痛というデータもあり、この時期におこる頭痛は重症度が高いことが多いのできちんと治療することが大切です」(五十嵐先生)

五十嵐先生によると、片頭痛で悩む方は、脳神経内科や脳神経外科がある病院で診察を受けると良いとのこと。病院によっては頭痛に特化した「頭痛外来」があります。また専門医認定制度があり、日本頭痛学会のWebサイトでは「日本頭痛学会認定頭痛専門医」の認定を受けた医師と医療機関名が公開されています。
病院で受診する際は、頭痛の起こった日時、どのような痛みか、頭痛はどれくらい続いたか、吐き気や光・音・においなどが気になったか、薬を飲んだかなどをメモしておくと良いとのこと。メモには「頭痛オンライン」の「頭痛ダイアリー」の活用もおすすめです。

自分の症状を把握し、専門外来の受診を
頭痛には様々な種類があります。大切なのは片頭痛を理解して自分の症状を把握し、予防をすること、そして気になることがあれば医療機関を受診することです。
五十嵐先生は「日本人は頭痛がつらくても我慢して何とか自分でやり過ごそうという方がとても多いですし、頭痛外来の存在をご存じない方も多いのが現状です。もし頭痛でお困りなら、ためらわず専門外来を受診していただきたい」と話します。
高山さんは自身の経験を踏まえ、「私は子どもの頃から片頭痛に悩んでいますが、五十嵐先生のおっしゃるとおり、痛みと向き合い、気になることがあったり、日常生活に支障をきたしたりするようであれば我慢をせず、専門のお医者さんに診てもらおうと思います。早速、病院を探してみます」と語っていました。
こちらの記事で紹介した内容はオンラインイベントの一部です。もっと詳しく知りたい方は下記動画をご覧ください。
(文・大川竜弥/写真・すしぱく)
