クイーン来日12日間の私たちとミレニアル評、そしてこれから

イギリスのロックバンド「クイーン」が来日してから約1カ月になります。アメリカの若きシンガー、アダム・ランバートをボーカルに加えてのコンサートは、埼玉、大阪、名古屋で計4公演が行われました。離日するまでの12日間、SNSでメンバーの動向を追いかけていた人も多いでしょう。フレディ・マーキュリーのいるクイーンを知らないミレニアル世代のファンたちは、この間どう過ごし、どんな印象を持ったのか、2人のミレニアル女子に聞きました。みなさんはどんな12日間を過ごしましたか。

ファンを大切にするライアンの姿

アルバイト代を貯めて4公演すべてに行ったのは、東京都内の大学に通う末石美佐希さん(23)です。「同じツアーでも公演ごとにギターソロやドラムソロが違ったり、MCで話す内容も違ったりします。ライブは一期一会なので、なるべく多くの時間を共有したいと思ったからです」

クイーンの来日は、韓国公演の翌日の1月20日でした。ブライアン・メイが過去の来日でも庭園のあるホテルを気に入っていたことをSNSに投稿していたこともあり、「ダメもとで」待っていたらチェックインするブライアンに会えたそうです。あこがれのブライアンに会い、自身が描いた油絵の肖像画を見せたり、ツーショットの写真を撮影したりしてもらいました。

ブライアン・メイ=末石さん提供

「絵を見せるとすごく喜んでくれました。5分ぐらいでしたが、10人弱のファン一人一人に名前入りでサインしてくれたり写真撮影をしてくれたりしました」

ライブは過去にサマーソニックや武道館コンサートで見たことがあったものの、直接話しができたのは今回が初めて。歓喜で舞い上がってしまったことが心残りですが、末石さんが「これ見せたかったの」と油絵を差し出すと「ありがとう、すごくいいね」と喜んでくれたそうです。

末石さん提供

25日の公演初日は、5万円の席。グッズは、Tシャツ、キーホルダー、ピンバッジ、トートバッグ、パンフレットを購入し、会場のさいたまスーパーアリーナに早々に入りました。

「(20日の来日直後に)生でブライアンと会っているので、この日は別の意味での興奮がありました。あのおじいちゃんがライブするんだ、という感じです。本当に間近でブライアンと会って話してみると、普通のおじいちゃんみたいで、アリーナでのステージはすごく不思議な感覚でした」

Photo by 岸田哲平

ナゴヤドーム公演の前日に名古屋入りした末石さんは、SNSの情報から、知人と共にブライアンのギターのサポートをしているスタッフに会い交流。12日間ずっとクイーンを追いかけていたわけではありませんが、幸運にも恵まれた末石さんは「こちらも日本ツアーを楽しみし尽くしました」と満足げ。1カ月経っても余韻を楽しんでいるようでした。

ノリは大阪が一番

1970年代からのファンの間では、クイーンのコンサートはオープニングからスタンディングで楽曲を一緒に英語で歌うのが一般的だという人もいます。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを受けて、ライト層のファンが増えることについて、盛り上がりや一体感という意味で気にする古いファンはいます。「さいたまスーパーアリーナでの2公演はこれまでの来日コンサートと比べて盛り上がりが違った」という声も古いファンの中にはありました。

末石さん自身はライト層ではありませんが、3公演目となる京セラドーム大阪が「観客のノリが良かったので、3人もご機嫌でした」と振り返ります。

「ロジャーはドラムをたたいているとき、ムッツリしているときが多いですが、大阪では一番気合が入っていたようで、楽しんでいるように見えました」

Photo by 岸田哲平

「大阪の観客はノリが良くて、大きな声で歌う。そこがさいたまスーパーアリーナとの違いでした。ブライアンもさいたまのときは、もうちょっと一緒に歌って欲しいな、という表情を見せていました」

「アダム・ランバートも『We Will Rock You』(ウィ・ウィル・ロック・ユー)のとき、大阪ではフロアにマイクを向けて『come on』と一緒に歌うように声をかけていました。盛り上がり度は、大阪が一番フェスのノリに近かったのかな……」

Photo by 岸田哲平

だから、評価も「初日の25日の公演は、他の3回と比べると盛り上がりに欠けていたかな」という感じです。また、一眼レフ以外のカメラやスマートフォンでの撮影がOKだったこともあり、延々と写真や動画を撮影しているファンも目に付き、少し残念に思ったそうです。

アダムとクイーンが本当の意味でフィット

「とにかく実在したんだ、この人たちは」

ミレニアル世代のライト層のファンからは、こんな声が末石さんにも入ってきたそうです。楽曲は知っていたものの、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を通じてファンになった人たちです。

「ライブよりも、クイーンという存在そのものに感動したのかな」

Photo by 岸田哲平

とはいえ、今回のコンサートでは、ボーカルのアダムとクイーンが本当の意味でフィットして新しい姿を見せ、これからの可能性を見せてくれたコンサートでもあり、高い評価を受けているのも事実です。

映画では、フレディ・マーキュリーが1985年のライブ・エイドで、ウェンブリー・スタジアムに詰めかけた観衆と「AY-OH」と叫び合って一体感を増していくシーンがあります。実際のフレディのパフォーマンスもそのような特徴がありましたが、「アダムはそういうことをあまりしないタイプ」(末石さん)です。

Photo by 岸田哲平

「フレディのクイーンを見に来た感覚でいた人にとっては、ちょっと違ったかなと思ったかもしれません。フレディのピースが欠けて、アダムのピースが加わったので、クイーンの形も違うんだなと思います」

Photo by 岸田哲平

一方、埼玉県に住む会社員、梓優美香さん(28)は会社を休み、大学生の妹と一緒にナゴヤドームの公演に行きました。当日に高速バスで現地入りして公演終了後に夜行の高速バスで帰る0泊の弾丸ツアー。クイーンの曲を毎日聞くようなファンですが、ファンと自認するようになったのは映画がきっかけです。

「うまく言えないですけど、楽しかった。10分ぐらいで終わった感じです」

コンサートでは考えていたほど楽曲の間にMCが入らず、ストーリーがあるかのような演出で演奏が続いていきました。2時間余りのライブは、ずっとスタンディング。

「実年齢のブライアンは、70代とは思えないような演奏をしていて、本当に現役なんだなと思いました」

Photo by 岸田哲平

英語で全曲一緒に歌いまくることまではできませんが、一部の曲や日本語の歌詞がある『手をとりあって』は一緒に歌ったそうです。楽曲以外は、インスタグラムで「気の良いブライアンしか知らなかった」という梓さん。「また、来日公演があったら行きたい」と話していました。

Photo by 岸田哲平

クイーンは2月13日から、オーストラリアでの公演が続いています。16日には森林火災の救済支援で開かれるチャリティーコンサートにも参加し、ライブ・エイドで演奏したセットリストと同じ6曲を演奏し、話題になっています。

「名古屋城の景色を見て目覚めるのが大好き」だというブライアンは、SNSに投稿した動画で、名古屋城を背景に「感謝」と大きく書かれたTシャツ姿でファンにメッセージを送ってくれました。そして名古屋城の天守閣前で多くのファンと一緒に写真撮影する姿も。世界中を席巻した映画のモデルとは思えないほどフレンドリー。だからこそ、いまも世界中のファンたちに愛されているのかもしれません。

忘れられない

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映画、そしてDVD発売、1年後にコンサートと、日本における「クイーン・イヤー」とも言える日々が終わりました。ただ、余韻を楽しむイベントもあります。

東京・銀座にある「Ginza Sony Park」では、ソニーのグループ企業がクイーンのすべての音楽出版権を持つこともあり、テクノロジーと楽曲やMVを融合した無料コンテンツ『QUEEN IN THE PARK』が提供されています。3月15日まで。

「ボヘミアン・ラプソディ」のMVに自分も加われる

384チャンネルあるスピーカーで聴く『ボヘミアン・ラプソディ』は彼らの音が体にまとわりついてくる感覚です。『ボヘミアン・ラプソディ』のMVのパロディーとして、4人がコーラスするシーンのうち誰か1人と自分が入れ替わって画像に収まることもできます。「マーキュリー・フェニックス・トラスト」というブライアンやロジャーらが管理する発展途上国でのHIV予防啓発を行う財団に寄付(金額は自由)をして、楽曲を聴けるジュークボックスもあります。そしてどうしても歌いたくなった人のために、『We Are the Champions』(伝説のチャンピオン)を熱唱できるカラオケボックスも!

「クイーン展ジャパン」(主催:製作委員会)も、横浜の「アソビル」(~3月22日)と大阪高島屋(3月25日~4月6日)で順次開かれます。

日本を愛したクイーン。1970年代、彼らの楽曲をいち早く理解し、受け入れた人たちはまだまだ余韻を楽しむ場を忘れてはいません。

クイーン仕様のアイボ

クイーンを多角的に書いていきます

クイーンを巡る話題について、朝日新聞社が運営するウェブメディア「telling,」のほか、「withnews」や「論座」でもそれぞれの視点で記事を順次配信していきます。

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論座

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医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。