平日は会社員。”爪作家”が築く独自世界

こんなに物語性のある爪を見たことないーー。爪作家である「つめをぬるひと」の作品を初めてインターネット上で見た時に、そう思った。色彩の豊かさと表現の幅の広さに強く魅せられた。どんな思いを込めているのだろう、なぜ爪作家になったのだろう。話を聞いた。

 「つめをぬるひと」は東京に住み、平日は会社員として働いている女性だ。

 彼女が「つめをぬるひと」として活動し始めたのは2013年ごろ。つけ爪を制作し、イベントでは人の爪を塗るなどしながら、作品をSNSにアップしたり、ウェブ媒体で爪に関する連載を持ったりと、土日を中心にコツコツと活動してきた。TONOFON FESTI-VAL2017などの音楽フェスや台湾に出店した経験もあり、ツイッター(@nail_hito)のフォロワーは1万3千人を超えた。

 爪作家になったきっかけは、「同時多発的に色々なことが起こったから」。

 ネイルアートが禁止だった前職を辞めて、その開放感で爪にいろいろ描くようになったこと。それを見た転職先の人から、「つけ爪を作って売ってみたらどうか」と言われたこと。当時、音楽制作をしていた同年代の友人や、ものづくりをしている人達に刺激を受けたこと。イギリスのバンドマンに自分の爪に見せたら驚かれたこと。
 そんなことが重なって、爪作家を名乗るようになった。

 爪を描くときは、自分が良いと思ったものを忘れないように、勢いで描くことが多いという。

 デザインや配色を先に決めて、台紙に書いてあるタイトルは一番最後につける。だいたい1作品を作るのに1~2日かかる。

 イラストレーターやアクセサリー作家、音楽や短歌をつくる人など、他分野のクリエイターとの交流が多く、一緒に作品づくりをすることもある。特にイラストレーターのシバミノルとの共同制作では反響があったという。

 「最近は、可愛いカジュアルネイルやデザイン性のある爪を書く人が増えています。そういう人の写真をSNSで見てしまうと、無意識でもそのデザインに自分の作るものが寄っていってしまいそうで。だからネイルサロンのサイトや、ネイル系のアカウントは極力見ないようにしています」

それが、彼女なりの爪作家としてのポリシーだという。

 爪作家としての今の目標は、現在4カ所あるつけ爪の委託販売先を広げること、特に、つけ爪を取り扱うことがあまりない飲食店を販売先にすることだ。

 「爪でどこまで表現活動ができるか、というのはずっと興味があります。爪について自分が面白いと思えることに注力していきたいですし、その好奇心は今後も持ち続けていきたいです」

1988年東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、朝日新聞に入社。新潟、青森、京都でも記者経験を積む。2016年11月からフリーランスで活動を始め、取材、編集、撮影をこなす。趣味はジャズダンス。
好きを仕事に