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体験談を読む

血はつながらなくても、切り離せない「家族」に。
特別養子縁組で母になる

タレント・女優

武内由紀子さん

生みの親のもとを離れざるをえなかったこどもを、家族に迎え入れて実子として育てる制度が「特別養子縁組制度」です。この制度で男の子の養親になったタレント・女優の武内由紀子さんと一緒に考える「新しい家族のかたち」。お子さんを迎えるまでの前編に続き、子育てのこと、将来のこと、悩んでいるママへのアドバイスを語っていただきました。社会全体でこどもたちを育てる未来に向けた、母としての思いとは?

「一人の人間として成長しているんだな」

――特別養子縁組で男の子を迎えられて、初めての子育ては大変でしたか?

息子は本当に手の掛からない子で、「あれ、私、育児しているのかな?」ぐらいな感覚だったんですよ。寝ている姿をずうっと見ていられる、という感じで過ごしていました。ミルクを飲んだらすぐ寝るし、泣いてもすぐ泣き止むし。子育てってもっと大変なはずなのにと、最初は思っていました。

――正式に養子縁組が成立するまでにはどんな手続きがありますか?

6カ月以上の試験養育期間があって、その家庭で一緒に暮らす間に、家庭裁判所の調査官の家庭訪問などがあります。養親だけでなく実親さんの事情もあり、人によって進め方は違ってきますが、最終的には家裁の審判で特別養子縁組が成立します。

――今年春には女の子の赤ちゃんを迎えられました。下の子と暮らすようになって、お兄ちゃんの自覚も芽生えてきたのでは?

そのときは上の子も1歳10カ月で、まだ赤ちゃんです。環境が変化して彼なりに葛藤があったのか、最初は下の子が近づいてくるのも嫌、おもちゃを貸すのも嫌がってたんですけど。徐々に、僕はこっちを使うから、そっちを貸してあげるという感じになって。そういうのを見ていると、こどもなりに成長しているし、私にとっても、こんなときはこうしなきゃと勉強になっています。まだしっかりとはしゃべれないけれど、こちらの言うことはちゃんとわかっていて、意思表示もできる。本当に一人の人間として成長しているんだなぁと思います。

はじめ抱っこしたときから、すっかり大きくなった上のお子さん

――上の子への接し方は変わりましたか?

一人のときのようにかまってもらえなくなったり、我慢することも増えたりしたけれど、下の子がいるからこそ、楽しいこともあります。その辺りのバランスをちゃんとできれば、と意識しています。特別養子縁組だからというよりは、どこのご家庭でも一緒だと思いますね。

――きょうだいで育てたいという思いは以前からあったのですか?

私には姉、主人には兄がいたので、きょうだいは欲しいなと思っていました。小さい頃はけんかもしたけれど、大人になってからは親に話せないこともきょうだいには話せるし、親の世話も分担できるし。私と主人、こども2人の家族という思いは、漠然とありました。

――特別養子縁組で2人目を迎えられる方は多いのですか?

それは、ご家庭によりますね。3人目を迎えた方もいますし、一人っ子がいいという方もいます。親だけの問題でなく、お子さんの様子も見ながら考えているようです。

上のお子さんと公園へ行ったときのワンシーン。「下の子と暮らすようになって、どんどんお兄ちゃんらしく振る舞うようになってきました」

「一日一日の積み重ねで、家族になる」

――武内さんが考える「家族になる」とは、どんなイメージでしょうか?

特別養子縁組で家族を迎えて、2年半ちょっと経ちますが、一日一日の積み重ねで家族ってできていくんだなと、すごく実感しています。赤の他人の二人が結婚して、一緒に生活していくうちにどんどん夫婦になっていくのとまったく同じで。一緒の家で過ごして同じものを食べて、一緒に笑って怒って泣いて、そういう小さな積み重ねで家族ってできていくんだなと。もちろん離れていても、家族は家族なんだけど、一緒に過ごしているのを肌で感じているのは、すごく大事だなと思います。

――家族のかたちが最初から決まっているのではなく、みんなで育てていくものなのかなと。

そうだと思います。我が家はまだ始まったばかりなので、これが10年、20年と積み重ねて、大きくなっていくんですね。こどもたちが大人になったらここから巣立っていきますが、それでも積み重ねたものは残ります。だから、積み重ねていくことを大切にしたいです。

――たしかに、巣立ってからも戻れる実家があるのは安心ですね。

私、実家がすごく欲しかったんです。出身は大阪なんですけど、姉は結婚して福岡に行って、今は母も姉のところで暮らしています。実家に帰るといっても福岡だし、生まれ育った家があるわけでもありません。それなら、自分で実家をつくって、こどもたちがいつでも帰ってこられる場所になりたいんです。

「自分に実家はないけど、私が実家をつくればいいんだ。自分のこどもたちにとって、安心できる場所になりたい」と語る

「子育てに血のつながりは関係ない」

――特別養子縁組制度を利用しようとしている人や、関心があるけど不安で踏み切れない人へ、アドバイスをお願いします。

やっぱり一番心配になるのは、血のつながりだと思います。こどもを迎えるまで不安だったり、大丈夫かなと思ったりして。でも、まったく関係ないんですよ、本当に。血のつながりのある家族と何ら変わらない生活ができて、そのこと自体も忘れるぐらい。それは、特別養子縁組でこどもを迎えたご家族はみんな、同じことを感じていると思います。

児童館に行って同じ月齢のこどもたちと遊んでいると、ママさん同士で子育ての悩みごとを相談しますが、養子縁組だからという悩みは一つもないんです。こどもたちの個性は、血がつながっているきょうだいでもまったく違うし、子育てに血縁は関係ありません。

――ほかの家族とまったく変わらない感じがしますね。

とは言っても、血がつながっていないことで、ほかと違うことがあるのは確かです。遺伝情報がわからないので、予防接種するときの用紙には、近親者の既往歴を不明と書かないといけなかったりします。産んでくれたお母さんやお父さんがいて、その事実をどうやってこどもに伝えていくのかは、縁組を組んでいない家族にはないことですよね。

――こどもに生い立ちを伝える「真実告知」は、特別養子縁組の家族にとって重要で、細心の注意を払う必要があると聞きます。

やり方はそれぞれのご家庭によって違います。こどもの成長や性格に合わせる面もあると思います。実親のことなどを新生児の頃から言葉で語りかけているご家族もいれば、写真を見せているご家族や、物心がつく頃から徐々に伝えているご家族もいます。

「真実告知は、うちも近い将来、準備しないといけないなと考えています」。特別養子縁組を組んだ家庭は、様々な形でこどもに生い立ちを伝えていきます

「一人でも多くのこどもたちが、あったかい家庭で育つ社会を」

――あらためて「特別養子縁組」は、どんな制度だと思いますか?

特別養子縁組の家族は、みなさんの身近にあまりいないかもしれません。私も昔は、海外のセレブが養子を迎えるみたいなイメージしかなくて。でも実際には、セレブやお金持ちじゃなく、ごくありふれた夫婦や家庭の中に、こどもを迎え入れることで新しい家族ができる、というだけのことです。私たち家族がスーパーへ買い物に行っても、知らない人が見たら、血がつながっていない家族だとは思わない。血がつながっている家族と何ら変わりのない、ありふれた家族なんです。

――ネットなどを通じて情報発信する養親の方も増えてきています。

一人でも多くの人が特別養子縁組のことを理解して、ごく普通の、新しい家族のかたちだってことを知ってほしいです。「特別」という言葉がついているから特別に聞こえますけど、特別じゃない普通の家族だと理解してもらえれば、こどもたちも住みやすい社会になると思っているんです。もしかすると、親と血がつながっていないというだけでこどもがいじめられることがあるかもしれない。でも、血がつながっている家族とかわらないんだよと大人たちが正しいことを教えれば、こども同士でひどいことを言わなくなるんじゃないかなって。

――今回は養親という立場でお話をうかがいましたが、こどもが生涯安定して家庭生活を送るための制度、というのが何よりも重要ですね。

親が必要なこどもたちが一人でも多く、特別養子縁組で養親さんに迎えられて、あったかい家庭で何の心配もなく育つことのできる社会になったらいいですね。これが「特別」ではなくなる世の中が来てほしいなと思います。

PROFILE
武内 由紀子(たけうち・ゆきこ)/タレント、女優。1973年、大阪市出身。93年にアイドルユニット「大阪パフォーマンスドール」のリーダーでデビュー。今田耕司、東野幸治とのユニット「WEST END×YUKI」による大阪弁ラップ「SO.YA.NA」がヒット。読売テレビ「大阪ほんわかテレビ」や劇場「ルミネ the よしもと」などで活躍。2013年に7歳年下のパン職人の夫と結婚。19年3月に長男との特別養子縁組が成立した。吉本興業所属。
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