Dr.尾池の奇妙な考察 17

【Dr.尾池の奇妙な考察17】ニセ科学が美容業界を救う日

化粧品の開発で、それまで縁のなかった「女性の美」について考えるようになった、工学博士であり生粋の理系男子である“尾池博士”。コスメに取り組むようになって、ニセ科学に遭遇することが多くなったそうです。もったいない、と感じるその理由とは。

●Dr.尾池の奇妙な考察 17

ニセ科学がおもしろい

美容に関わるようになって、以前よりニセ科学を目にすることが多くなりました。
波動、ホメオパシー、経皮毒、デトックスなどなど。最初はその紛らわしい広告や、明らかに詐欺と分かるようなビジネスを見て頭に血が上ることもありました。しかし同時に、不謹慎ですが、つい笑ってしまうことも増えてきました。

たとえばデトックスの場合は「フットバス」というニセ科学ビジネスがあります。足を突っ込んでスイッチを入れると電気が流れ、水の色が徐々に赤く変わります。そしてセラピストを名乗る詐欺師が、「ほら、こんなに毒が」「毒素は足の裏から出るのです」。
いやいやいや、まさに何を言っているのか分からない(私もよく言われるセリフですが)。
そもそも毒って何のこと? 毒が出るなら栄養も出るのでは? そして足の裏から「出るのです?」なぜ? 皮膚がもっとも厚くて、もっとも末端の足裏から? 足ではなく頭から出まくるハテナマーク。

ニセ科学のからくり

水の色が赤くなるからくりは実にシンプルで、電極から溶け出すわずかな鉄イオンが水中の酸素やアルカリなどで酸化鉄や水酸化鉄の結晶になり、さらに足の古い皮脂やほこりや気泡などで目に見える大きな塊(フロック)になって水に色が付くからです。いわゆる赤水と同じで、条件によって色も変わります。電極から溶け出す鉄イオンはほんの1mg程度で、電極はほとんど変化しないので、まるで足から何かが出たように見えてしまいます。

デトックスフットバスのからくり図解

と、論破するのは簡単なのですがいくら力説したところでその説明が興ざめに聞こえるほど、頭のどこかで「おもしろい」と思ってしまっている自分もいる。嘘を包み隠してなお余りあるエンターテイメント。これに数十万円を払う方々がいるのもうなずける気がします。

デトックスフットバスは氷山の一角にすぎず、抱腹絶倒のニセ科学は他にも無数にあります。

その中で詐欺になるのは異常な高値で売った場合だけです。嘘だらけの情報で人を惑わし、判断力を失わせ、プラシーボ効果で信用させ、タダ同然の商品を高値で売りさばく。詐欺そのもの。マルチ商法やネットワークビジネスが絡むと人間関係も崩壊します。

ニセ科学詐欺はたしかに悪です。しかし問題は、なぜ異常な高値なのに売れてしまうのかということ。ニセ科学はあきらかに、科学に無いものを持っている。科学よりも人を集め、利益を上げているのですから、たぶんそこには「科学に無いもの」が関わっている。つまりニセ科学の真のからくりは、優れたエンターテイメントとプロモーション技術の方だということが分かります。

ニセ科学が美容を救う日

愛と力。男と女。シーチキンとマヨネーズ。私たちの周りには1+1=100の組み合わせがたくさんある。1+1=2は単なる数学であり、合わせる必要もない。合わせなくても分かる。しかし数学に物理学を組み合わせれば、1kgと1kgの鉄球を時速50kmでぶつければ100ジュールの力を生み出せるという発想が生まれる。しかしそれは、ぶつけない限り決して生まれない100ジュールであり、誰かの行動なしには生まれません。

詐欺師たちを見ていていつも驚くのは、彼らが描いている夢が、まさに私たちが望んでいる夢と一致することです。詐欺師たちは、私たちと同じ夢を見、それを実現させる力がないために、ニセ科学に溺れている。しかしなぜ本物の科学よりも稼ぐことができるのか。それは嘘をついているからではない。プロモーションの才能があるから。そしてそれは届かない科学が学ぶべきもの。しかし被害者はいつまで待っても届かない科学に待ちくたびれてその夢に救いを求める。

被害をとめるには、科学を届けるしかない。その科学を届ける方法を、ニセ科学は教えてくれている。ニセ科学を超える開発をして、プロモーションを盗み、ニセ科学よりも先に本物の科学を届けるしかない。なんならプロモーションをニセ科学屋の詐欺師にお願いしてもいい。もしかしたらニセ科学の描くぶっとんだアイデアが科学の壁に穴を開け、とんでもない化学反応が起きるかもしれない。ニセ科学を取り込み、ぶっとんだ夢とアイデアを利用して女性の美を救ってみせることができるくらいに、科学はタフなはずです。

科学のプロセスとは「より妥当な理論に修正し続ける」作業のこと。正解を見つける作業ではなく、新しいデータが見つかれば、より妥当な理論に修正する柔軟なプロセスのことです。あゆみは遅くとも、科学は頑張っています。必ず夢を実現しますので、どうかニセ科学に惑わされず、科学の朗報を待っていてください。

今回のまとめ

ニセ科学は詐欺です。騙されてしまうのはニセ科学には優れたエンターテイメントとプロモーションノウハウがあるから。この2つは科学にもっとも足りないもの。ニセ科学を駆逐するには、ニセ科学を超えるしかない。ニセ科学を取り込み、利用し、ニセ科学が描いた夢で女性の美を救えるよう、科学は頑張っています。

<尾池博士の所感>
人間は拠り所なしに生きていけるほど強くはない。大事な人が重い病に罹ってしまったら、私も正常な判断力を保てるか自信がない。だからニセ科学とカルトは怖い。

工学博士/1972年生まれ。九州工業大学卒。FILTOM研究所長。FLOWRATE代表。2007年、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞受賞。2009年、PD膜分離技術開発に参画。2014年、北九州学術研究都市にてFILTOM設立。2018年、常温常圧海水淡水化技術開発のためFLOWRATE.org設立。
イラストレーター・エディター。新潟県生まれ。緩いイラストと「プロの初心者」をモットーに記事を書くライターも。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。
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